4 / 61
チームの紹介
野手転向
しおりを挟む
ライトを守っていた鬼束の後釜は中山で決まった。
残るはファーストを守っていた結城の後釜を誰にするか。
昨年結城の他にファーストを守ったのは、指名打者のジョーンズとJIN、そして庵野の3人だ。
JINと庵野は代打や代走という、貴重なベンチウォーマーだ。
ではジョーンズはどうか。
ジョーンズは昨年指名打者として、打率0.263 24本塁打 76打点をマーク。
8番という打順でこの数字は上出来だ。
三振が多い典型的なフリースインガーだが、長打と16個の盗塁を決める俊足が持ち味。
本職は外野手だが、あまりの拙守に指名打者となった。
そのジョーンズにファーストを任せられるかと言えば、答えはNoだ。
昨年ジョーンズがファーストとして出場した試合は16だが、エラーの数は19と試合数よりも多い。
捕球が重要とされるファーストでは、このエラー数は致命的だ。
櫻井は誰をファーストにするか、中田と財前の意見を聞いてみた。
「ファーストを誰にするか…いっその事、助っ人にしたらどうだ?それなら悩む事も無いだろう」
中田は新外国人を探すべきだと言う。
しかし、助監督の財前は新外国人ではアテにならないと言う。
「助っ人って、今から外国人選手を調査するのかよ?
止めとけ、止めとけ!
助っ人なんてアテになんないんだし、今売れ残ってるヤツらじゃハズレを引く可能性が高いぞ」
「お前そんな事言うけど、誰が相応しいってんだ?」
「今いる選手で試してみたらいいじゃん!」
「う~ん…そうしたいんだけど、後の選手はベンチウォーマーとして常にベンチに置いときたいんだよな」
ファーストは守備で一番楽だと言われているが、実際は捕球の上手さが必要とされる重要な役割でもある。
毎年ゴールドグラブ賞の常連だった結城が抜けるのは、チームにとってもかなりの痛手だ。
「今いる選手でやり繰りするしか無いだろ」
「やり繰りって言うけど、皆役割分担があるんだし…」
「そうだよなぁ…となると、いっその事ピッチャーを転向させるか…」
中田の言葉に櫻井は閃いた。
「そうだっ、それだ!」
「エッ…」
「ん…どゆ事?」
「中田さんが言ったように、ピッチャーからバッターに転向させるんですよ!
この選手はピッチャーよりもバッターの方が向いてるんじゃないかってタイプを探すんです!」
櫻井の案は、投手としてはイマイチだけど、野手の方が向いている選手にファーストを守らせるべきだと言う。
「そりゃ、確かにピッチャーはセンスの塊って言うけど、誰をバッターに転向させるんだよ?
ウチにはそんなタイプはいないだろ」
バカバカしい、と財前は吐き捨てるように言う。
「いや、一人いる事はいるんだけど…果たしてその選手が首を縦に振るかどうか」
櫻井にしては歯切れの悪い言葉だ。
(果たして二刀流をやってくれと言われて、快く返事するだろうか?)
ピッチャーはプライドが高い。
野手転向を告げられたら、
(オレはピッチャー失格なのか…?)
と落ち込んで立ち直るにも時間が掛かる。
だからと言って、躊躇しているヒマは無い。
その日の夜、櫻井の部屋をノックする選手が。
コンコン…
「どうぞ、空いてるから入ってください」
声の主は、一昨年までスカイウォーカーズの守護神として最多セーブに2度輝くジェイク・キムラだった。
「oh、カントク!どうしましたか?」
ジェイクを呼んだのは櫻井だ。
「うん…ちょっと話があるだけど」
「はい、なんですか?」
ジェイクはソファーに腰掛ける。
「…単刀直入に言う。
ジェイク、来年から野手をやって欲しいんだ」
「野手…ん?野手って、fielder(フィルダー)の事ですか?」
「そう…ピッチャーからフィルダーにチェンジだ」
「エ、エェ!ボク、バッターになれって言うんですか?」
さすがのジェイクもこの言葉に驚く。
「ウン。ボジションはファースト…キミなら良いバッターになれると思ってね。
どうだろう、やってみないか?」
ジェイクは昨年一軍に出場する事なくシーズンを終えた。
2年連続セーブ王に輝いたジェイクだが、160を超えるフォーシームとパワーシンカーと呼ばれるツーシームのみでは通用しないと言われ、マイナー時代にコーチから教わった特殊なチェンジアップを習得するまでファームで練習したのだが、一向に習得する気配が無い。
左腕で160を超えるストレートを投げるのは魅力だが、チームにはアクーニャという同じタイプのピッチャーがいる。
しかも、アクーニャはクチージョ(スペイン語でナイフの意味)と呼ばれる真っスラと、フォーシームと同じ速さのランサ(スペイン語で槍の意味)と呼ばれるツーシームを投げ、ジェイクと比較しても遜色は無く、むしろアクーニャの方が球種は多い。
そうなれば、ジェイクよりもアクーニャを起用したくなるのは当然の事。
元メジャーリーガーのジェイクにとって、バッター転向は屈辱的だ。
「もし、Noと言ったらどうしますか?」
「ボクは監督だ、Noとは言わせない」
櫻井の目が鋭く光る。
ジェイクはしばし沈黙の後、フゥとため息をついた。
「日本でもアメリカでも、カントクの言う事は絶対…Understand…ボク、ファーストやります!でも、ピッチャーはまだ諦めてません」
ジェイクも真剣な眼差しで答える。
その目を見て、櫻井は穏やかな笑みを浮かべる。
「フフフ…勿論だよ。
もし、キミがピッチャーを諦めると言ったら…ボクはキミを放出しようと思ってた。
ジェイク…キミは二刀流として新生グランツの象徴になって欲しい。期待してるよ」
「ハ、ハイ!」
櫻井はジェイクの才能を見抜いていた。
才能って、どの部分が?
と思われるだろうが、それはまたの機会で。
残るはファーストを守っていた結城の後釜を誰にするか。
昨年結城の他にファーストを守ったのは、指名打者のジョーンズとJIN、そして庵野の3人だ。
JINと庵野は代打や代走という、貴重なベンチウォーマーだ。
ではジョーンズはどうか。
ジョーンズは昨年指名打者として、打率0.263 24本塁打 76打点をマーク。
8番という打順でこの数字は上出来だ。
三振が多い典型的なフリースインガーだが、長打と16個の盗塁を決める俊足が持ち味。
本職は外野手だが、あまりの拙守に指名打者となった。
そのジョーンズにファーストを任せられるかと言えば、答えはNoだ。
昨年ジョーンズがファーストとして出場した試合は16だが、エラーの数は19と試合数よりも多い。
捕球が重要とされるファーストでは、このエラー数は致命的だ。
櫻井は誰をファーストにするか、中田と財前の意見を聞いてみた。
「ファーストを誰にするか…いっその事、助っ人にしたらどうだ?それなら悩む事も無いだろう」
中田は新外国人を探すべきだと言う。
しかし、助監督の財前は新外国人ではアテにならないと言う。
「助っ人って、今から外国人選手を調査するのかよ?
止めとけ、止めとけ!
助っ人なんてアテになんないんだし、今売れ残ってるヤツらじゃハズレを引く可能性が高いぞ」
「お前そんな事言うけど、誰が相応しいってんだ?」
「今いる選手で試してみたらいいじゃん!」
「う~ん…そうしたいんだけど、後の選手はベンチウォーマーとして常にベンチに置いときたいんだよな」
ファーストは守備で一番楽だと言われているが、実際は捕球の上手さが必要とされる重要な役割でもある。
毎年ゴールドグラブ賞の常連だった結城が抜けるのは、チームにとってもかなりの痛手だ。
「今いる選手でやり繰りするしか無いだろ」
「やり繰りって言うけど、皆役割分担があるんだし…」
「そうだよなぁ…となると、いっその事ピッチャーを転向させるか…」
中田の言葉に櫻井は閃いた。
「そうだっ、それだ!」
「エッ…」
「ん…どゆ事?」
「中田さんが言ったように、ピッチャーからバッターに転向させるんですよ!
この選手はピッチャーよりもバッターの方が向いてるんじゃないかってタイプを探すんです!」
櫻井の案は、投手としてはイマイチだけど、野手の方が向いている選手にファーストを守らせるべきだと言う。
「そりゃ、確かにピッチャーはセンスの塊って言うけど、誰をバッターに転向させるんだよ?
ウチにはそんなタイプはいないだろ」
バカバカしい、と財前は吐き捨てるように言う。
「いや、一人いる事はいるんだけど…果たしてその選手が首を縦に振るかどうか」
櫻井にしては歯切れの悪い言葉だ。
(果たして二刀流をやってくれと言われて、快く返事するだろうか?)
ピッチャーはプライドが高い。
野手転向を告げられたら、
(オレはピッチャー失格なのか…?)
と落ち込んで立ち直るにも時間が掛かる。
だからと言って、躊躇しているヒマは無い。
その日の夜、櫻井の部屋をノックする選手が。
コンコン…
「どうぞ、空いてるから入ってください」
声の主は、一昨年までスカイウォーカーズの守護神として最多セーブに2度輝くジェイク・キムラだった。
「oh、カントク!どうしましたか?」
ジェイクを呼んだのは櫻井だ。
「うん…ちょっと話があるだけど」
「はい、なんですか?」
ジェイクはソファーに腰掛ける。
「…単刀直入に言う。
ジェイク、来年から野手をやって欲しいんだ」
「野手…ん?野手って、fielder(フィルダー)の事ですか?」
「そう…ピッチャーからフィルダーにチェンジだ」
「エ、エェ!ボク、バッターになれって言うんですか?」
さすがのジェイクもこの言葉に驚く。
「ウン。ボジションはファースト…キミなら良いバッターになれると思ってね。
どうだろう、やってみないか?」
ジェイクは昨年一軍に出場する事なくシーズンを終えた。
2年連続セーブ王に輝いたジェイクだが、160を超えるフォーシームとパワーシンカーと呼ばれるツーシームのみでは通用しないと言われ、マイナー時代にコーチから教わった特殊なチェンジアップを習得するまでファームで練習したのだが、一向に習得する気配が無い。
左腕で160を超えるストレートを投げるのは魅力だが、チームにはアクーニャという同じタイプのピッチャーがいる。
しかも、アクーニャはクチージョ(スペイン語でナイフの意味)と呼ばれる真っスラと、フォーシームと同じ速さのランサ(スペイン語で槍の意味)と呼ばれるツーシームを投げ、ジェイクと比較しても遜色は無く、むしろアクーニャの方が球種は多い。
そうなれば、ジェイクよりもアクーニャを起用したくなるのは当然の事。
元メジャーリーガーのジェイクにとって、バッター転向は屈辱的だ。
「もし、Noと言ったらどうしますか?」
「ボクは監督だ、Noとは言わせない」
櫻井の目が鋭く光る。
ジェイクはしばし沈黙の後、フゥとため息をついた。
「日本でもアメリカでも、カントクの言う事は絶対…Understand…ボク、ファーストやります!でも、ピッチャーはまだ諦めてません」
ジェイクも真剣な眼差しで答える。
その目を見て、櫻井は穏やかな笑みを浮かべる。
「フフフ…勿論だよ。
もし、キミがピッチャーを諦めると言ったら…ボクはキミを放出しようと思ってた。
ジェイク…キミは二刀流として新生グランツの象徴になって欲しい。期待してるよ」
「ハ、ハイ!」
櫻井はジェイクの才能を見抜いていた。
才能って、どの部分が?
と思われるだろうが、それはまたの機会で。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる