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オールスターゲーム

オールスターゲーム2日目 3

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カウントはノーボール、ワンストライク。


しかもバットをミドルバランスタイプに変え、ホームランを狙っている。


「打てるモンなら、打ってみぃ!」


天海が2球目を投げた。


バレットと呼ばれる160超えのストレートがアウトコース低めへズバッと決まった。


「ストライクツー!」


国分は一度もバットを振っていない。

ボールの軌道を見て打つポイントを決めている。


「おい、ダイスケ…あっという間にツーストライクだぞ?
バット振らなきゃ打てないだろうが」


「1球あれば十分ですよ。
これで球筋はよく分かった」



これまで3度の最多安打に輝いた優秀なヒットメーカーは、巧みなバットコントロールで安打を量産する。


「1球だけじゃ、アイツを打ち崩すのは不可能に近いぞ」


「その不可能を可能に変えてみせますよ」


余裕の表情でバットを構える。


「アレじゃ、ただの置き物やないかい!
ボーッと突っ立ってないで、一度ぐらいはバット振ったらどうなんや!」


「そう怖い顔しないでくださいよ、パイセン!
こっから先はガチの勝負なんですし」


物怖じしない度胸満点なメンタルを持つ。


「1球あれば十分だと?ほんなら、この球打ってみぃや!」


3球目のバレットが放たれた。


(ココだ…)


国分はインコース低めのバレットにバットを合わせた。



バキッ…!


「ウグッ…」


バットが真っ二つに折れた。

ジャストミートしたハズだが、それ以上にバレットの球威が勝った。


力ない打球はピッチャー正面に転がった。


「当てただけでも褒めたるわ!」


天海がゆっくりと一塁へ送球。


「アウト!」


「て、手が…」

先程の衝撃で国分の両手は痺れている。


「バカなヤツだ…力でアイツに敵うワケがないだろ」


外崎は呆れた様子で国分を見た。


これでツーアウトとなり、次の日バッターは元メジャーリーガーのボーン。


【3番指名打者ボーン。背番号44 琉球マシンガンズ】


195cm109kgの巨体がノッシノッシと歩を進め打席に入った。


国分同様、巧みなバットコントロールだけではなく、長打も十分なパワフルなバッティングを併せ持つ。


現在打率.338はリーグトップ。


「さぁ、この相手にはどう攻めるか」


外崎は天海のリードに任せている。


「はぁ~、それにしてもデカいなぁ…的が大き過ぎてどこから攻めればええんか」


巨体を大きく見せる構え。


しかし、バットのグリップは指一本分短く持っている。


ボーンはツーストライクに追い込まれると、ノーステップからのコンパクトなスイングで単打を放つ器用さを持っている。


メジャーでもボーンはパワーヒッターではなく、アベレージヒッターの部類に入る。


「とやかく考えてもしゃあない!オールスターだし、投げたい球投げればええんや!」


天海がサインを出す。


外崎はインコースに寄った。


ノーワインドアップから初球を投げた。


鋭いスライダーがインコースを抉る。


「ボール!」


ボーンは悠然と見送る。


「さすが首位打者…あれを振らないとは」


ボーンは顔色一つ変えずバットを構えたままだ。


「緩急つけたピッチングで打ち取るしかないだろうな」


外崎はボーンを分析した。


それに対して天海はどんなピッチングをするか。


「It's a pretty good slider.
Few pitchers throw sliders like this in the major leagues.(中々良いスライダーだ。メジャーでもこんなに曲がるスライダーを投げるピッチャーはまずいない)」

ボーンはボールの軌道をよく見ている。


(ボーンの得意なコースはインコース高め…苦手なコースはアウトローの変化球。アイツはどうやって攻めるのか)


外崎の頭の中には両リーグのバッターのデータがインプットされている。


ボーンは不動の構えでマウンド上の天海をジッと見ている。


「それにしてもデカいなぁ…」


次のサインを出した。


外崎は動かず真ん中にミットを構える。


天海が2球目を投げた。


今度は一転して速い球、バレットを放った。


ズドーン!というミットの衝撃音が響いた。


「ストライクワン!」


163km/hのバレットに場内がどよめく。


カウントはワンボール、ワンストライク。


強面のボーンの顔が更に険しくなる。


「そんなに睨まんでもええやん」


天海はニヤッと笑った。


「それじゃ…お次はこれや」


サインを出した。


大きく息をついて3球目を投げた。


真ん中低めからワンバンになるフォーク。

ボーンはバットを止めた。


「塁審!」


外崎が三塁塁審を指した。

しかし、三塁塁審の判定はセーフ。


「ほぉ、よく止めたなぁ。選球眼は良さそうやな」


次はどこへ投げるか。


カウントツーボール、ワンストライク。


「ヨシ、次はこれにしよ」


サインを出し、速いモーションから4球目を投げた。


バレットがインコースへ。


ボーンは腰を引いたが、ボールは鋭く変化してストライクゾーンに入った。


「ストライクツー!」


左バッターのインコースから真ん中に入るツーシーム、所謂フロントドアでツーストライクと追い込んだ。


「fu…」


ボーンは大きく息を吐き、コンパクトな構えに変えた。


カウントはツーナッシング。


「フルカウントまで投げる必要は無いわ…ここで決めたる」


サインを出し、5球目を投げた。


「oh!」


タイミングを外したチェンジアップがアウトローへ。


ボーンは辛うじてバットに当てたが、打球は平凡なショートゴロ。


白石が捕って一塁へ送球。


「アウト!」


スリーアウトチェンジとなった。


1回の表、アポロリーグの攻撃は三者凡退で終了。


1回の裏ネプチューンリーグの攻撃は1番中山の打順から。
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