弱肉強食

tanaka

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 「みんなぺろり、ですって?」と、鼠が大きな声をした、「そんなおかしな名前ってありゃしない。印刷した名前だって、そんなの、まだ見たことがありゃしないわ。みんなぺろりなんて、いったい、なんのこったろ」
 鼠は頭を振って考え込んでいたが、そのまま丸くなって寝てしまった。
 それからは、もうだれも猫を名付け親に頼もうというものもなかった。しかし、冬が近寄ってきて、外にはもうなんにも見つからない頃になると、鼠は、自分の蓄えておいたものを思い出して、
 「いらっしゃい、お猫さん、二人が閉まっておいた脂肪の壺のところへいきましょう。あれは、さぞおいしいでしょ」言った。
 「おっと承知の助」と、猫は二つ返事、「おねずさんにゃ、さぞおいしいことだろ。味のよくわかるおねずさんの舌を、おちょぼ口からぺろりとだしてみたらね」
 二匹そろって、出かけた、ところが、いくところへ行ってみると、脂肪の壺は、せんに置いたところにちゃんとあるにはあったけれども、肝心の中身は、空っぽだった。
 「なんだ、こんなことになっていたのか」と、鼠が言った、「これで、すっかり分かったわ、あなたのようなのが、ほんとうのお友だちってぇものなのね。食べたにもなんにも、名付け親になっては食べて、最初は上皮をなめて、その次には半分ぺろりとしてやって、その次には……」
 「だまらないか」と、猫がどなりつけた、「もう一言いってみろ!てめぇを、食っちまうぞ」
 「みんなぺろり」と、舌の上まできていた言葉が鼠の口から出たか出ないうちに、かわいそうに、猫は一足跳びにとびかかって、鼠をひっつかみ、ぐうっと、鵜呑みにしてしまった。









注:この話の原型は北方ゲルマン族の「熊と狐」だという説がある。狐が、蜂蜜の籠を持っている熊と友だちになっ  て、名付け親を頼まれたと嘘を付いては三度外出して蜜をなめてしまい、そのたびごとに熊に子の名前を聞かれ  ると、後になってみればその意味がわかるよな思わせぶりの名を言う。しまいに、盗みぐあいの事が熊に見つか  ると、それは熊が自分でなめたのだと剛情を張る。結局、狐は、どちらがなめたか、日向で昼寝をしてみればわ  かると言い出して、熊の寝ている間に熊に蜜をなすりつけておくという話 
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