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本編1

好きになった?

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 ーーー初めてカフェテリアに行ったその日までは良かったんだ。
 俺はどこで選択を間違えてしまったのだろうか。



 その次の日から、俺がカフェテリアに行こうとすると、必ず黒崎が付いてきた。
 黒崎効果でみんなが道を開け、席を譲る。
 そのときに黒崎は必ずお礼を言うようになった。そこはいい。

 しかし、食事は必ず1度は黒崎にあーんされ、会話は質問攻め。

「好きな色は?」
「白」
「黒は?」
「普通」

「好きな食べ物とかある?」
「グミ」
「他には?」
「抹茶スイーツ」

「家族構成は?」
「両親と兄2人」

「髪は長いのと短いのどっちが好き?」
「長いの」

「金髪と黒髪どっちが好き?」
「黒髪」

「今付き合ってる人いる?」
「いない」

「空原とどういう関係?」
「親友」
「俺とは?」
「友達」
「友達かぁ…」

 などなど。合コンの定番のようなものから訳のわからないものまで。
 答えないとあーんされるので答えざるをえない。




 そして最近の黒崎。
 すっかりと俺の恋人として周りに知られている。
 大変不本意。あーんのせいである。

 黒崎は彼氏としてグミを常備。
 ファッションは白系になり、黒髪は元々だが、髪を伸ばし始めた(らしい)。
 もちろん眼鏡もかけている。
 まるきり俺の好み。


 そして俺に会うと、おすすめの抹茶スイーツを渡しながら、

「一条くん。どう?……俺のこと好きになってくれた?」

 と聞いてくるようになったのだった。
 それも毎日。


 食べ物に罪はないし、俺が受け取らなければ捨てると言うので、毎日抹茶スイーツを受け取っている。
 これはマジで、本当に美味しい。完璧。
 ……スイーツの袋に黒崎からのラブレターが入っていなければ、だが。


「好きになってくれた?」という質問には、「なってない」と答えている。
 もはやこれが挨拶みたいなものだ。

「なってない」と答えても黒崎は落ち込んでいる様子はなく、俺は自分の考えている、恋愛の"好き"と黒崎の"好き"が違うんじゃないかと思い始めたが、どうやら黒崎の"好き"も恋愛の方らしい。

 そう考えると、表面に出さないだけで心の奥では傷ついているのかな、とか思ってだんだん断りにくくなってきた。



 誰かに相談したいな。
 アジュはどうやら黒崎と俺がくっつけば良いと思ってるらしいし、ほとんどの知り合いは俺たちがカフェテリアであーんしているのを見て付き合っているものだと勘違いしている。

 ……あ。ひとりいるじゃん。話をちゃんと聞いてくれる優しい奴が。


 俺は栄に連絡した。

『明日の午前中、相談したいことがあるんだけど』

『OK。駅前のカフェおごりね』










 栄。フルネームは栄 銀弥さかえぎんや
 アジュと同じく高校のときからの親友。
 昔から面倒見がよく、優しいので人気者。
 俺は勝手に"心の友"だと思っている。


 そんな彼は当然急な俺の呼び出しに応じてくれた。


「珍しい。優里ちゃんが相談なんて」

「まあ」

「どうせ黒崎についてでしょ?あいつは本気で優里ちゃんのことが好きだと思うよ」

「うん、それはわかってる」

「そして優里ちゃんも黒崎のことが好きなんだよね?」

「うん……って、は??」

 流れで"うん"って言っちゃったけど、なにを言ってるんだ?栄は。

「だってそうじゃん。優里ちゃんが相手のことをよく考える優しい人だとは知ってるけど、好きじゃない人にあーんするほどお人好しではないでしょ?」

「……。」

「どうせ、最近黒崎に好きって言われても断りにくくなってきたんでしょ。それについての相談だよね?」

 こわ…なんでわかるの、栄。こわ……。

「おっしゃる通りです」

「それならもう解決したよね。どこを好きになったのか知らないけど、優里ちゃんは黒崎のことが好き。心は気付いてたんだよ。だから告白を拒否出来なかった」

 そう言って、見透かしたように俺を見てくる栄。

「よく考えてみ」と俺に時間をくれる。





 黒崎春樹。
 背が高くて、顔が良くて、頭が良くて。
 それは前情報。

 俺が見てる黒崎は、ごはんをきれいに食べて、しつこいけど優しくて、スイーツくれて、なんか最近は俺好みのイケメンになってるし。


 あー。好きなのかも。なんか不器用で、目が離せない黒崎のこと。
 建前で隠してたけど。

 そう考えると、心の中にあった小さなモヤモヤのようなものが消えていった。


 でも、全然黒崎のこと知らないや。
 好きな食べ物も色も家族構成も。
 黒崎の好みも知りたいな。



 そこまで考えて目の前の栄を見ると、「納得した?」と聞かれる。
 俺はそれに力強く頷いて、栄におごり分のお金を渡し、カフェテリアに向かった。




 ーーーーーーー

 優里の姿が見えなくなった後、俺は振り返って自分の後ろの席に背を向けて座っている男に声をかける。

「なあ、アジュ。あれでいいんだよな」

「ああ。あまりにも優里が鈍感でさ、絶対最初から黒崎のこと好きだったはずなのに気づかないから助かった」



 これでいいはず。
 俺だって親友には、すれ違ったりせずに幸せになってほしいんだ。








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