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異世界への扉

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僕としては動物と人間が争う世界をなんとかしたい。でもこの世界の、病院に訪れる動物達の事だって助けたい。しかし僕の身体は一つだけ、どちらも救うなんて出来るわけがなくて…どちらかを選ばなければ、何も救えない。

「なんとかしたいのは山々なんですが、病院に来る患者さん達が気掛かりで…。」
「そう言うと思っておったわ。なに、心配はいらぬ。向こうの一年がこちらの一時間じゃ、歳も向こうでは取らぬよう神々に協力を頼んでおいた。」

神様にとっては世界の理を都合の良いように操るなど、造作もない事のようだ…だがそれならなんの気兼ねも無く向こうに行ける。一日くらいなら病院を休みにしても大丈夫だろう。

「わかりました、一日だけなら。」
「おぉ、助かるぞ。すまぬのう…うむ、それではこれよりスキルを与えよう。」

「その前に、荷物をまとめたいのですが…」
「あー、そうじゃったな、用意が出来たらまたここに来るのじゃぞ、道は覚えておるか?」

「大丈夫です、それでは一度家に帰りますね。」
「うむ、うむ。気を付けるのじゃぞ?」

僕は一礼すると背後に現れた扉を開けて、何を持って行くべきか考えつつ家路を急いだ。家について旅行用鞄を引っ張り出し、恐らく使えないだろうが携帯と充電器、歯ブラシと歯磨き粉、下着類、白衣と聴診器、ペット用おやつ等…詰めれるだけ詰め込んで家を飛び出す。

見慣れた我が家を外から見詰め、行ってきますと呟くと、走ってあの路地裏に戻った。

「荷物はまとめたようじゃのう。」
「はい。あ、神様…よろしければこれ、食べますか?」

白い扉を開けて戻ってきた私を出迎えてくれた神様に、犬用ビーフジャーキーを差し出した。すると神様は大きな尻尾をふっさふっさと振って、ジャーキーを咥えた。

「うむ、いただこう。昔、主から渡された干し肉は美味かったぞ。これも同じ物か?」
「あれは少ししょっぱ過ぎたので…それは塩分を控えた動物用のおやつです。」

「ほう…それでも美味いのう、これは良い供物じゃ、儂は満足したぞ。」

ジャーキーを一口で食べた神様は、緩やかに尻尾を振りつつ満足気に目を細め、ペロペロと舌を出した。こうして見ると大きな犬のようだなぁ…

「あぁそうじゃ、儂も主と共にあちらの世界で生活するからの、色々知らぬ事があるじゃろうて…儂が教えよう。」
「えっ、神様が人前に姿を見せても良いのですか?」

「姿から漂う神力さえ消せばわからん筈じゃ。それでじゃな、あちらの世界で生活する間に呼ぶ名前を考えてくれぬか?」
「わかりました、そういう事なら。…そうですね、こちらの世界で狼の神様は真神と呼ぶのですが…それをそのまま頂いて、マカミで良いでしょうか?」

「うむ、構わぬぞ。儂はマカミじゃな、童よ…今更じゃが主の名は?」
「白島透です。」
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