【R18】タルタロスの姫は魔族の騎士に溺愛される

麦飯 太郎

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アルフレッドの来訪と再会

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 オッズライルの領地は、無事に旧ティアブール国の特別区となった。ソフィアはオッズライルの代表として、落ち着かない国民を安定させるために奔走してくれている。
 そして、旧ティアブール国は黒蝶騎士団が力を尽くしたことにより大きな混乱は起こることなく、王政を廃止し国民投票による新たな中立国を目指すと示した。だが、まだ旧貴族の力が強かったり、投票権について揉めることがあるので、今後も多くの対応が必要になってくるだろう。
 王国として、今まで王族や貴族だけで抱えていた問題や政治を国民が担うのは、一昼夜で出来ることではない。
 その点は、モルタール王国が中立国としてロックフェルト国が代表制を施策している国として、助言と協力をしてくれることとなった。
 そしてつい先日、旧ティアブール国という呼称を廃止し、ウーラ国という新国の樹立を宣言した。
 これでこの国は、本当に新しい一歩を踏み出したことになるのだろう。
 ……これでお役御免。
 あとはこっそりと見守るだけ……と思っていた。そのために、田舎にある小さな屋敷をフロストと内見をしたりした。なのに……。
 私達は今、モルタール王国からもロックフェルト国からも程近い、ウーラ国内の国境に屋敷を構えている。
 シンメトリーが美しい新築三階建ての白い屋敷だ。今はまだ夏の終わりなので花が咲き誇っているが、冬は雪が積もることも多い。
 なぜこんな所に屋敷を構えたのかといえば……。各国の代表からの申し出に押し負けたからだ。
 最初は、アレンとルーンが王城の離宮をまた使えばいいと言ってきた。しばらくの間ならば、それも良いかと思った矢先……モルタール王国の王女、ミーナの妊娠が発覚。相手はロックフェルト国の代表の息子であるイクルだ。急遽ロックフェルトに嫁ぐことになったミーナは、一人では寂しいから自宅の近くにある空き屋敷を使えばいいと言い出したのだ。
 ここで私の実の姉のイザベラが マリアは、モルタール王国で暮らします と宣言したことにより、黒蝶騎士団までがウーラ国で過ごしてもらわねば困ると言い出したのだ。
 戦争がようやく終結したのに、私の居場所を巡って勝手に争いが起きそうな雰囲気に、慌てて出した折衷案が国境屋敷というわけだ。
 王族や代表者が国境を跨ぐときは、先触れを出すことになっているが、この国境の屋敷だけは例外としたらしい。
 好きな時に会いに来てくれるのは嬉しい。しかし、皆忙しいので臣下や部下に引きずられるようにすぐに帰っていってしまうのだが……。
 一応、屋敷の名目はロックフェルト国とモルタール王国、そしてウーラ国の三国同盟筆頭管理官として、どの国からも連絡が取りやすい場所に身を置く……というものだ。
 おかげで、田舎でのんびり生活には縁遠い……忙しい生活をしている。

「なぁ、マリア。冬になったらオッズライルに行ってみないか?」

 フロストの言葉に書類に向けていた顔を上げる。同じ部屋だけれど、互いに別の机で仕事をするようになったフロストが、こちらの机に腰掛けながら顔を覗き込んできた。
 慌ただしかったため、まだ結婚はできていないけれど、愛しさは日々募るばかりだ。
 ふんわりと笑みを浮かべて いいですね と答えれば、フロストも嬉しそうに微笑みキスをしてくれた。

「んッ……こら、まだ仕事が残ってます」
「そんなこと言ったら、ずーっと仕事が残ってるだろ?」

 確かにそうだ。やっとひと段落と思っても、助言を求める書簡は毎日のように届く。もちろん、それ以外の私信も多い。
 最近、モルタール王国の離宮で世話になっていた、執事とメイドであるゴードンとフラン夫妻のたっての希望でとのことで、屋敷に住み込み管理してくれるようになった。他にもメイドや庭師、コック等々雇い入れ、結果的にかなり手が離れたとはいえ……。

「それでも」
「やだ。今はマリアを愛でたい気分なんだ」

 そう言ったフロストは後ろから抱きついて、ドレスの胸元に手を差し込む。ヤワヤワと胸に触れられ、形や重さを確かめるように手を添えた。

「――あッ」
「また大きくなった? 膨らみもそうだけど、ずっしり詰まってる感じがする。あー、ずっと触っていたい……」
「もうっ! フロストが沢山触るからでしょう!? この前、ドレスのサイズを少し直したんだから……これ以上太ったら、……そうだわ。訓練すれば」

 デスクワークが増え、フロストが甘やかすようにティータイムに誘ってくるので、タルタロスにいた頃よりもかなりふっくらとしたと思う。

「なんで? いいのに。マリアは今ようやく、普通の令嬢くらいの体型になったんだぞ?」
「んッ、アンッ、それでも、ドレスは綺麗に着たいもの……」

 胸を揉みながら乳首を指先で弾き、時折爪でカリカリと擦って楽しむフロストは、耳朶をねっとりと食みながら細く息を吐くように囁いた。

「なら、俺とエッチな運動しないか?」
「もう! バカなこと言わないで下さい!」
「バカじゃないさ。あれだけ汗をかけば体力も使うだろう?」
「使う筋肉が違うのよ!」

 そうか? と言いながら笑い、手は乳房への愛撫をやめない。

「そのままのマリアが好きだ。なぁ、ダメなんて言わないでくれ」
「ンッ……バカぁ」
「本当に大馬鹿だなー」

 ………………??
 フロストでも自身でもない声に、目を開き声の先を探す。
 だが、探すのはほんの一秒。目の前にある中央の応接セットのソファーで男が足を机に乗せて、優雅にこちらを眺めている。
 その顔は見覚えがあり、目を瞬かせてから大声をあげてしまった。

「魔王、アルフレッド!!」

 その言葉にアルフレッドは やぁ と軽い調子で返事をし手をあげた。

「何しに来た」

 威嚇をするフロストだが、まだ胸に手を突っ込んでいる。急いでフロストの手を胸から引き抜くと、フロストは舌打ちをしてからペーパーウェイトをアルフレッドに投げた。
 それを避け、軽く笑い続ける。

「続けていいぞー。お嬢さんの喘ぎ声はきっと可愛いんだろうな。それ、やれやれ」
「可愛いのは認めるが、お前に聞かせてやるつもりはない。消えろオッサン」
「そんなぁー、冷たいな。フロスト。魔王様だって泣いちゃうぞ」

 全く悲しくなさそうな声色で、笑いながら泣いちゃうと言われても誰も信じないだろう。もちろんアルフレッドも信じて欲しいわけではないだろうが。
 胸元とドレスを整え、立ち上がる。
 そして、フロストの手を引いてアルフレッドに対面するように二人がけのソファーに腰をおろした。
 相変わらず、艶めく肌と黒髪が美しい。服装は前回と同じ黒一色だが形が違い、今回はループタイをしている。ペンダントトップには黒く輝く鉱石があり、それが黒でも軽やかさを演出していると思う。

「どうやって入ってきたんですか?」
「そりゃ、正面から入って、廊下歩いて」

 それならゴードンが気付くはずだ。その疑問を察して、アルフレッドは 知り合いって錯覚させてきた と当たり前のように話す。

「お断りはしませんので、今度からは普通にお願いします」
「うーん。でも、それだとフロストが断るだろ?」

 隣のフロストを観ると、当たり前だろうと言うようにアルフレッドを睨みつけている。むしろ、今も一刻も早く立ち去れと思っているに違いない。
 だが、こうして今まで出てこなかったアルフレッドが自らやって来たということは、あの約束で何かしらの動きがあったのだろう。
 それが良い方向だとは……限らないが……。

「ですが、これではおもてなしどころか、お茶もお出しできません」

 立ち上がり、フランを呼ぼうとするとアルフレッドに手で制される。

「いや、今日は突然来たからな。今度はちゃんと連絡してから来るさ。そしたら、美味い茶を頼むよ」
「茶の味なんか分からねぇだろ」
「む、なんだ。少しくらいわかるぞ? 茶色か、赤か、味は変わらんが緑もあったな……あとは、黄色か?」

 指を折りながら色を数えているけれど、どうやら本当に味はよく分かっていないようだ。だが、だからといってもてなさないわけにはいかない。
 茶の味は分からなくとも……菓子の善し悪しは分かるだろうか。とりあえず、次は甘いものとしょっぱい菓子を両方用意してみようと思った。
 すると、パッと手を広げたアルフレッドはフロストを指差し、そうだそうだと笑い始めた。

「こんな茶の話をしたいんじゃない。大事な大事なフロストちゃんのお話だ」
「殺すぞ」
「殺せるなら殺して欲しいな。死ぬ体験もしてみたい」

 軽い調子で言ったあと、立ち上がったアルフレッドがフロストの腕を掴む。無理矢理立ち上がらされたフロストは、ムッスリとしたまま顔を背けている。

「反抗期の息子だな」
「嫌いなだけだ」
「救ってやったのに」

 両手で顔を覆い泣き真似をしたアルフレッドに、フロストはゴミを見るような視線を投げている。だが、それも本当にアルフレッドの言う通り、反抗期の息子を持つ親のようで思わず笑ってしまった。

「お。お嬢さんが笑ったから、俺の勝ちだな」
「勝ち負けじゃない。用が無いなら帰れ」
「用事はあるぞ? お前を人間にしに来た」
「……………………?」

 思わずフロストと首を傾げた。
 いつかはと思っていたが……こんな早く? 冗談ではないのだろうか?

「で、でも……まだ……」

 しどろもどろ口を開くと、フロストを立たせたままアルフレッドは私の隣に座った。
 違う。これは時を止めているのだろう。
 アルフレッドが隣に座って、フロストが微動だにしないのはおかしい。だが、それには突っ込まず、アルフレッドの言葉を待つ。

「……お嬢さんは本当に賢い。フロストにはもったいないよ」
「私にもフロストはもったいないです。ですが、互いを必要としていますので」
「いいな。青春だな……。では、そんなお嬢さんに種明かし。俺は戦時には魔王に、平和時には神のような存在になるとは言ったよな? まぁそんなことだから、今は魂が欲しいわけじゃないし、実は救う魂の数とか関係なかったんだ」

 そういうことかと腑に落ちる。だから、こんなにも早くフロストを人間に戻してくれるというわけだ。

「ここ数百年はずっと魔王だったからなー。飽きてきたし、俺は元々平和主義なんだ。まぁ、また魂が欲しくなるような時代を作ってくれるなよってことで。……フロストを頼む、あいつは凄く寂しがり屋だから」

 そう言うと、アルフレッドはわしゃわしゃと頭を撫でてきた。その髪が乱れたまま時止めを解除したので、フロストはすぐに時止めに気付きアルフレッドに詰め寄る。

「くっそジジイが。マリアに何を言った」
「そんなの内緒に決まってるだろ」

 立ち上がったアルフレッドは軽やかにステップを踏む。そして、両腕を広げ さぁて! と叫んだ。

「そろそろいくぞ! 人間に戻してやる!!」

 その言葉に、何が起きるのかと期待と不安で胸が高鳴る。できるなら、フロストに辛い思いはして欲しくない。
 今まで悲しく辛い思いをしてきたのだ。
 彼はこれから幸せになるべきだ。
 ……その幸せを、私も共に歩みたい。
 怒って、泣いて、笑って、歳を取り、シワが増えて、いつかは同じ墓に入れたら……。
 胸の前で手を握り、祈るように見守る。

「歯ァァ食いしばれぇぇぇぇ!!」
「は!? どういう――ドゥフ!!」

 ……殴り飛ばされた……。
 それはそれは豪快に、アルフレッドの拳がフロストの左頬にストレートに決まった。
 口を開けたまま、アルフレッドとフロストを交互に見る。
 床に転がったフロストも頬を押さえながら呆然としているが、アルフレッドはやり切ったというような達成感を感じている表情だ。
 意味が分からない。だが、ハッとしてフロストに駆け寄る。

「フロスト!! 大丈夫ですか!? ア、ア? アルフレッド……何を……??」
「いやぁ、スッキリ決まったなぁ!! おい、フロスト、歯は抜けてないか?」

 ブルブルと震えたフロストが立ち上がる。

「ジジイ……」
「大丈夫みたいだな。あー、良かった良かった。知ってはいたが、本当に人間に戻したのは初めてだからな! 」
「はぁぁぁ???? これが人間に戻すやり方だと!? 嘘つくな!! もっとやり方あるだろ!!」
「無いんだわ。それが」
「嘘つくんじゃねぇ!!」

 詰め寄ったフロストが文句を言い続けているが、アルフレッドは良かった良かったと軽快に笑いながら、こちらに向かってウィンクをしてきた。

「ほ、本当に……?」
「あぁ! あ、そうだ。お前の使い魔、姿見せられるようにしといたから、これからも傍で使ってやってくれ。あと、まぁ、平和になったんだし各国廻って観光してくるから、また会ったら遊んでくれよ? 遊びにも来るからなぁー!」

 言いたいことを言い終えたのか、こちらの返事を待たずにアルフレッドは窓を開き、勝手に飛び降りて去っていった。

「二度と来るな!!」

 窓の外に向かって叫ぶフロストの隣に立つ。その横顔はいつも通り整っていて、たとえ怒っていても美しい。変わったところは何も無いように思えた。
 頬に手を添えてみる。
 タルタロスで過ごした頃に、何度かフロストは体温が低いと思っていたが、今は私よりも温かいのではと思うことも多い。
 今もじんわりと熱が手のひらを伝ってくるようだ。

「フロスト……」

 見えている頬はいつもの頬だけれど、反対側はきっと腫れているのだろう。あれだけ殴り飛ばされれば、痛みもあるに違いない。
 色々と聞きたいことはあるけれど、フロストが人間になったという実感がいまいち感じられないので、とりあえず氷嚢を用意してもらおうと振り向く。
 すると、そこには小さな少年が立っていた。

「――!? フ、フ? フロスト……??」

 身体は固まったまま、まだ窓の外を眺めているフロストの袖を引っ張る。

「どうした?」

 異変に気付いたフロストも振り向き、同じように固まった。
 目の前に居るのは……小さなフロストだ。
 まだあどけなさの残る顔立ちと、筋肉が付いていないけれど大人になりかけているという、発展途上のフロスト……。

「え? フロスト? 子供いたの?」
「は? はぁ!? 違ッ!! 俺はマリアが初めてだ!!」
「え、あ、そうなのね……」

 その言葉には反応せず、フロストは少年の周りをグルリと回る。そして顔を近付けじっと見つめた。

「……………………。使い魔……お前、アリストだったのか?」

 フロストの言葉に、少年は弾けるような笑顔になり何度も頷いた。

「――ッ!! うん!! アリストだよ!! 兄さん!!」
「アリスト――ッ!!」

 混乱した頭で簡単なことを簡単に整理する。アリストと名乗った少年は、フロストを兄さんと呼んだので兄弟なのだろう。だが、フロストが戦場で死にかけたのは何百年も前の話だという。
 ということは、この少年もずっと姿を見せずにフロストの側で見守っていたということだろうか。その疑問に対する答えは、アリストがあっさりと話した。

「僕が死んだ後、兄さんが魔族になったでしょう? その時に、魔王様に僕も頼んだんだ! 僕を魔族の使い魔にして下さいって!」
「でも、使い魔は……」
「人間には戻れないよ」
「知っていてどうして!! 俺は死にかけだったから魔族になったんだ! お前は……新しく生まれ変われば幸せに……」

 フロストの言葉が詰まる。見守っているだけの私ですら胸が苦しくなっているのに、フロストの苦しみは計り知れない。

「その時はそんなに深く考えてなかったんだ。ただ、兄さんの傍に居たかった。でも、魔王様から、姿は見せるなって言われてたから……今まで黙っててごめんなさい」

 しゅんと項垂れたアリストの頭にフロストは手を乗せた。ゆっくりと撫でて、その後に抱き締める。
 どうやら二人とも涙を流しているようだったので、そっと部屋を出た。
 殴られた頬を冷やすための氷嚢を取りに行くと、ゴードンとフランがお茶をしていたので、簡単に来客があったことと、その人が行方不明だったフロストの弟を見つけてくれたと伝えた。
 驚いていたが、二人は勢いよくお茶を飲み干し、部屋の準備をしないと! と、浮き足立って駆け出していった。
 ゆっくりと部屋に戻ると、泣き終えた二人はソファーに腰掛けて笑っている。
 もう、大丈夫だろう。

「マリア」
「マリア様! 申し訳ありません!」

 アリストが立ち上がり、頭を下げる。氷嚢をフロストに渡し、そっとアリストの肩に手を置いた。

「僕、その、最初に挨拶すべきなのはマリア様なのに……!」
「謝らないで。今まで……色々と手伝ってくれてありがとう。助かったわ」

 ……よくよく考えれば、軍服を預かってくれていたのも、嫉妬したフロストと森で身体を重ねた時に放り出した荷物を運んだのも、タルタロスでの最中に誰も入らないように扉を守っていたのも、他にも細かく色々と頼んだ気がする。
 逆に居た堪れなくて目を閉じたが、一旦忘れようと心を落ち着かせた。

「アリスト……って私も呼んで良いかしら?」
「はい!! あの、僕もその……」
「??」
「あの!! 姉さんと呼んでよろしいでしょうか?!」
「ね、ねぇさん??」

 そんな風に呼ばれたことがなかったので目を瞬かせると、満面の笑みのアリストが眩しい笑顔を向けてきた。無邪気なフロストを見ているようで、胸もドキドキと高鳴る。

「兄さんのお嫁さんなら、僕の姉さんですよね? 僕、ずっと姉さんが欲しかったんです。だから、兄さんがマリア様に惚れたって知った時は嬉しくて飛び上がったんです!!」

 クフフと両手を口元にやり、笑う姿が可愛らしい。堪らなくなって、抱き締めて もちろん、そう呼んで欲しいわ と伝えると、声を上げて喜んでくれた。

「そうだわ、ゴードンとフランにフロストの弟が見つかったって伝えておきました。実はずっと探していたってことにしてあるわ」

 フロストに目を向けると、目を丸くして いいのか? と聞いてきた。

「何がですか?」
「あー、いや。大丈夫か。アリストは年を取らないから不審に思う奴もいるだろうけど……どうにかなるだろう」

 ハッとしたが、もう遅い。だが、アリストは見かけを成長させることならできますよ? となんでもないように、少年から大人に姿を変えた。 
 フロストと似ているが、アリストの方が目尻が下がり柔和で優しい雰囲気がある。

「しばらく子供でいて、少しずつ大人になっていけばいいですか?」
「すごいわね……。そうしてくれると助かるけど、辛いとか痛いとかはないの?」
「全くないですよ! 僕、勉強したことがないので、子供の姿で勉強してみたいです! 馬にも乗りたい! あと、兄さんと姉さんの子供が産まれたら、その子と川遊びとかもしたいです!」

 なんだか、可愛らしい提案に思わずクスクスと笑ってしまう。だが、フロストは黙ってじっとこちらを見つめてきた。
 どうしたのかと首を傾げれば、そっと近付き抱き締めてくる。

「……マリア」
「どうしました?」
「俺、人間になったんだな……」

 どうやら、アリストが子供の話をしたので、ジワジワと実感が湧いてきたのだろう。それは私も同じで、抱き締め返してゆっくりの頷いた。

「マリアだけで良かったのに、人間に戻してくれてありがとう。それに、アリストに再会できて、俺は……幸せだ」
「私もよ」

 溢れる涙を抑えきれずにいると、少年に戻ったアリストが同じように涙を流しながら、小さな両手を広げて私達二人を包んでくれた。
 そうしてしばらく泣いていると、三つのカップを乗せたトレーを持ってきたフランが部屋を訪れ あらあら と優しく微笑んでくれたのだった。
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