異世界で出会った王子様は狼(物理)でした。

ヤマ

文字の大きさ
3 / 92

3.金髪金目イケメンの威力が凄い

 思わずフルネームを呼んでしまった。
 下衆を睨んでいた琥珀色の瞳が剣呑の色を増して俊に向けられる。慌てて口を閉じたが後の祭りだ。

「お前、なんで俺の名前を知ってる」
「ひぇ」

 俊はまたも壁にドンと背中をぶつけた。
 思わず反射的に両手を挙げると壁に俊を追い込んだクレイグが至近距離にせまる。
 何をどうしたのか全く見えなかったが手ぶらだった彼の右手には短剣が握られ、俊の喉仏に鋭い剣の切っ先を向けていた。
 西洋風の両刃がギラリと光る。
 彼の綺麗な金髪の後ろで役目をしっかり果たした青年が仰向けに意識を失っているのが見えた。

「答えろ」

 作り物みたいに綺麗な瞳が警戒を露わに俊を射貫く。
 俊の胸の真ん中を押さえつける左手で身動きが取れず、右手の剣は少しでも俊が不審な行動を取れば容易く喉をかっ切る位置にある。

 この壁ドンは予想外だ。

 いやいや攻略対象のくせにヒロインに手をあげるのはタブーでは?? 女に手を上げる男を落とすゲームを買う乙女なんてそうそういないだろ!
 駄目出ししかけたが俊は真っ当なヒロインでもなければ女性でもないのだった。

 混乱している間も剣の先端は俊の喉元を狙っている。
 ともなく何か言わなければ殺される!
 見切り発車で俊は口を開いてしまった。

「貴方をこれから現代日本から飛ばされてくるヒョ、ロインとく、くっつけにきました!」

 途中噛んだが一息で言い切った。
 そして不審に歪んだ顔を見て言い切ったことに絶望した。

「意味分かんねぇ」

 ご尤もです。

 もう少し上手い言い訳を思いつけなかったのものか。臨機応変からほど遠い自身に目眩がする。
 地味な高校教師に生死の境にあって落ち着いて話をしろという方が無理だが、俊はどうしても彼とお近づきにならなければならない理由があった。

 第二十一王子こと俊は、自分ルートもしくはクレイグルートのしかもハッピーエンドでないと王位継承争いの飛び火で殺されてしまう設定なのだ。
 起承転結の承あたりで気持ちが離れてしまったヒロインと攻略対象を再び近づけ、絆をより強固なものとするための材料として悲劇が起こるのだが、まさしく二十一番目王子の死がそれにあたる。
 王位継承戦争のさなか、ろくに魔法も武器も使えないのに前線に押し出され、戦死する末子王子。
 病弱という設定の為、当て馬としての機能もそんなに果たさずただヒロインと少しの友情を育み癒やしとなった上で、死ぬ。
 傷ついたヒロインを攻略対象が慰め、私には貴方しかいない! 展開になるという寸法だ。

 捨て駒感がすごい。

 しかしながらクレイグルートだと蝶国の継承戦争が起こらない為か、ヒロインこそいないが前述したように田舎で花や野菜を育て幸せな老後を送るらしい。

 自分のルートでも確かにヒロインと幸せになるが、どう考えても煌びやかな金銀の王子が並ぶ中、銅ですらないアルミの俊を選ぶヒロインがいるとは思えない。

 となれば答えは簡単。

 不肖ふしょう立花俊、転生した先でくらい掉尾ちょうびを飾りたい。

 しかしそんなことクレイグに訴えたところで理解されるわけもない。
 眼前の綺麗な眉と眉の間に皺が刻一刻と増えている。
 クレイグは剣先を俊に向けたまま素早く右腕を俊の胸元に押しつけ左手の代わりに体を固定すると、空いた左手で俊の外套を捲り携帯品や恐らく武器などを確認し始めた。

 本格的に不審者扱いされていると気がついて慌てた。
 腰元の巾着袋には護身用にと持ってきた短剣が入っている。
 使い方は分からないし思い入れも無いから別に没収されてもどうと言うことはないが、問題は蝶が描かれていることだ。

 ここ、蝶国の象徴である蝶の意匠は王族の持ち物以外に付すことはできない。
 しかもご丁寧に二十一の数字付き。見つかれば身元がばれてしまう。

「えっと今の無しで! あ、あの、雇ってください!」
「は?」

 クレイグの手が腰の一歩手前で止まった。
 警戒が解かれる気配は無いが、俊にしては上手い展開になったと思った。

「へー良いじゃん、一人くらい毛並みの違う子がいても楽しそう」

 ひょこっとクレイグの後ろから顔を出したのは、茶色の髪と緑の目をした今風のこれまた如何ともしがたい美青年だった。

「ギン、先に帰れって言ったろ」
「いやー、クレイグが俺に荷物押しつけていきなり走り出すから何か面白い事が起こる予感がしてさ」

 イケメンはぷらぷらと手に持った麻袋をこれ見よがしに揺らした。
 緊迫した雰囲気を壊す上っ調子にクレイグは溜め息を吐いた。

 ギンと呼ばれた青年に見覚えがあった。
 確かクレイグルートで何かとヒロインの世話を焼いたり、クレイグとの仲を取り持ってくれたりするお助けキャラだ。

「だいたい楽しそうってだけで得体の知れないやつを雇えるか」

 ご尤もです。

 当人ですら同意する扱く真っ当な指摘にも軽快な口調は崩れず、遊び心って大事だよなどとギンは薄っぺらな答えを返している。

 あのな、とクレイグがまたも常識的な台詞を口にしたところで気がついた。
 意識が俊から逸れている。
 俊は手を上げたままひじで腰元をいじり短剣を入れていた袋を、音を立てないよう足下に落とした。

「おい今何をした!」
「ひえ!」

 流石と言うべきか異変に気がついたクレイグが再度剣をこちらに向け、またも特にときめかない方の壁ドンをしてきた。
 背中を塀に打ち付けた拍子に先ほど置いた袋を蹴り上げてしまう。

「いやあの、腰がかゆいなーって我慢できなくて」

 営業スマイルを貼り付けギンの真似をして軽く言ってみたが、琥珀色の鋭い視線は緩まない。
 ですよね。

「何これ」

 ギンが絹の袋を拾い上げたのを見て俊の顔から血の気が引いた。

 終わった。

 俊は心の中で手を合わせた。
 せめて極楽浄土へ行けますように。いやしかし超絶イケメンの手にかかるのならそれはそれでアリかも知れない。前の人生のような交通事故よりはきっとマシだ。

 無理矢理自分を納得させる理論を組み立て、さあやれ! と目を瞑るも一向に何も訪れない。
 それどころか、ぷ、と明らかな半濁音が聞こえた。

「何でこんないっぱい持ってんの?」

 目を開けるとギンが笑いを堪えるように口元を抑えている。その手元の袋には透明の綺麗なフィルムで包まれた色とりどりの飴玉やキャラメルのようなお菓子がたんまり入っていた。

「えっと、小腹が空いた時用に……お腹が鳴ったら恥ずかしいかなと」
「女子か!」

 すっかり忘れていたが、部屋で短剣を入れた袋を装着しようとしたとき、テーブルの上に置かれていた西洋風の菓子盆が目に付いた。
 とろりとした鮮やかな赤や黄色のキャンディ包みされたそれらがあまりにも美味しそうだったので、道中食べようと盆をひっくり返し中身を丸々袋に入れてきたのだった。

 幸いと言うべきか先ほど蹴飛ばした際に剣だけ飛び出し、飴玉だけが残ったのだ。
 王宮の周りにあるものとは月とすっぽんな小さくて光の弱い外灯は近場を照らすのみ。
 剣の姿は見えなかった。
 ほっと安堵しているとお助けキャラがその役割に恥じぬ台詞を発してくれた。

「飴玉持って丸腰でやってくる暗殺者なんていないでしょ。取りあえず話くらい聞いてあげたら」

 まだ少し笑っているギンを思わず拝みたくなった。

「怖い目に遭ったんだから動揺して変なことも言うよ」

 ギンの静かな声にクレイグはハッとしたように壁についていた手を引っ込めると、短剣を鞘に収めた。重厚な音が響いた。

「……悪かった。名を呼ばれて気が立ってたんだ」

 ばつが悪そうに形の良い眉が下がり、クレイグは謝罪した。
 驚いたのは俊だ。

「い、いえいえ! 我ながら怪しいことこの上なかったので謝らないでください」

 慌てて言うと、ギンが後ろで「確かに」と噴きだした。

「何処も何ともないか?」

 ギンを無視してクレイグは気まずそうに俊を慮った。
 全身に浴びていた貫かれるような殺気から一転、優しい言葉をかけられた。
 戸惑いながらも首を縦に振って肯定した。

「助けていただいてありがとうございます。えっとそれで、雇っていただけますか?」

 緊迫した空気が和んだどころで思い切って話題を戻す。
 クレイグの顔がまた険しくなった。

「取りあえずもう真っ暗だし根城に帰ってからにしようぜ!」
「わ!」

 ギンがクレイグと俊の肩に後ろからガッと腕を回してきた。
 二人の間から顔を出した彼が俊に向かってウィンクをした。
 願ってもない提案に俊は目線で感謝を伝えた。残念ながらウィンクは返せない。
 両目を瞑ってしまう。

「……もう一回武器が無いかを確認してからだ」

 何か言いかけていたクレイグは不承不承ながらギンに同意した。
 クレイグがまた外套を捲り今度は両手で俊の体を触り始めた。
 足下から始まり、腰、腕、胸元などを念入りに調べられる。
 完全に信用したわけでは無いだろうが、初めのように殺気と怒気は感じられない。

 余裕が出来たお陰か妙に触られる感覚が研ぎ澄まされている。
 隠そうと思えばどんな場所でも隠せるのだから仕方ないと思うが、体をこんなすみずみまで触られた経験など無いので、途轍もなく恥ずかしかった。
 更に悪いことにごく近くで見るクレイグは本当に綺麗な男性だったのだ。

 切れ長の凜々しい目に高い鼻梁、逞しく均整の取れた体つきはディスプレイ越しとは比べものにならないほど男性としての魅力に溢れている。
 俊やその他大勢の人々と同じような服装なのに芸能人なんて目では無いほど俊の目を引きつけた。
 女性なら一度は抱きしめられたいと思うのだろうな。
 俊は女でもないのに彼のせいで心音が高まっていくのを感じた。

 俊の襟元に手を添えたままクレイグが顔を上げる。
 彼を見ていた俊と必然的に目が合った。

 思ったより距離が近い。

 俊は動けなかった。
 外灯に照らされた瞳は完全無欠の琥珀のように透き通っている。
 キラキラ光を放つそれが俊の黒い目を映して揺らいでいた。
 クレイグは一瞬体を強張らせると、無理矢理顔を背けた。

「……変な顔すんな」
「へ、へん?」

 クレイグに見とれていた事に気がつき慌てて俯く。
 頬に当てた手の平を冷たく感じる。つまり頬の体温が高いのだ。

「……俺はクレイグ・シラーだ。二度とさっきの名前を口にするな」

 クレイグが身を屈め、俊の耳元で囁いた。
 近さに身を強ばらせたが彼はすぐに離れた。

「行くぞ」

 俊の返事を待たずクレイグはギンに向き直り何事かを告げた。
 ギンはそうこなくっちゃと頷いた。

 どうやら面接会場への切符を手にしたらしい。
 背後から盗み見たクレイグの目尻が少し赤らんでいる気がする。明度の低い外灯の下だから見間違いかもしれないが。

 シラー、と俊は覚えさせるように舌に乗せた。出自を隠している身としては確かに本名を呼ばれると都合が悪いのだろう。
 だがゲームにそんな設定あっただろうか。

「はいじゃあちょっとごめんねー」

 ギンの声とともに、ぬ、と眼前に白い布が現れ俊は目隠しをされた。
感想 36

あなたにおすすめの小説

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

【完結】顔だけと言われた騎士は大成を誓う

凪瀬夜霧
BL
「顔だけだ」と笑われても、俺は本気で騎士になりたかった。 傷だらけの努力の末にたどり着いた第三騎士団。 そこで出会った団長・ルークは、初めて“顔以外の俺”を見てくれた人だった。 不器用に愛を拒む騎士と、そんな彼を優しく包む団長。 甘くてまっすぐな、異世界騎士BLファンタジー。