38 / 52
第38話 調査討伐依頼
しおりを挟む
アルが弄られている中、見かねたエミリーはやれやれと言った感じにため息をつくと、咳払いしてその不毛な会話を遮った。
「そういえば、先程ガイがオルトロスがどうのと口にしていましたが、出没したのはヘルハウンドではなかったのでしょうか?」
話が脱線しているのをエミリーが軌道修正すべくそう言うと、皆驚きの顔に変わった。エミリーのみオルトロスと言うワードを聞いていたのだ。
「なんですって? オルトロス?」
エルフのリーダーが驚き問い詰めるように言うと、グレイヴィアは腕組みをしたまま、少し考え込むように顎に手を当てた。
「そうね・・・あの男、ガイと言ったかしら?あの者の行動から推測するに、アル君がヘルハウンドを倒したことを知り、格上の自分たちなら余裕だと考えたのではなくて?ヘルハウンド騒ぎで立ち入りを規制しているにもかかわらず、あのエリアに入ったのだと思うわ。おそらくアル君が倒したのはヘルハウンドの群れの一部で、それをオルトロスが率いていたとのだ推測するわ。彼らはそのオルトロスと遭遇し、這々の体で逃げ帰ってきて、偶々見かけたアル君たちに八つ当たりをした。そんなところではないかしら?」
その瞬間、打ち合わせ室の空気がピリッと引き締まった。
・
・
・
「オルトロス・・・」
エルフの誉れのリーダーが、先ほどの和やかな表情から一転、鋭い眼光をアルに向けていた。
グレイヴィアも腕組みを解き、真剣な表情で身を乗り出し、アルに事実確認をする。
「あなたたちが先日討伐したのは、確かヘルハウンドで、群れではなかったわよね?」
「はい、間違いありません。群れに出くわしたら生きていなかったと思います」
「だが、ガイが『オルトロス』と発っしていた・・・もしそれが事実なら、群れを率いる上位種がまだギルド周辺に潜んでいる可能性があるの。君の知っているガイたちの実力は?」
「そうですね。ただ、ランクEとは言えヘルハウンド単体ならセリーナ、その、魔法使いをきちんと守って魔法を放つことが可能なら勝てると思いますが、オルトロスはよくわかりません。うまく立ち回りさえすればヘルハウンドを倒す確率は高いと思います」
「なるほどね。オルトロスは同じBランクとは言え、ヘルハウンドとは比較にならないほど危険な魔物よ。ヘルハウンドがランクBなのは大抵群れているからなの。単体ならCランク寄りのBランクといったところね。オルトロスは二つの頭を持ち、知能も高い。もし本当にこの街の近くに現れたのだとしたら、早急に対処しなければならないわ。そこで、貴女たち《エルフの誉れ》に指名依頼として調査依頼を出したいの。可能なら討伐もね。今のこの街の最大戦力として、貴女たち以外に頼める者がいないのよ。受けてくれるかしら?」
エルフのリーダーは、少し考え込むように顎に手を当てた後、静かに頷いた。
「承知いたしました。私たち《エルフの誉れ》がこの依頼を引き受けましょう」
「ありがとう。助かるわ」
グレイヴィアは安堵の息を漏らし、アルの方へ向き直った。
「さて、アル君。君たちはどうする? オルトロスの調査・討伐任務に参加するかしら?」
アルは一瞬、リリィ、サラ、アイリスと視線を交わした。Dランクになったばかりで、上位種の討伐は危険すぎるかもしれない。先ほどエミリーがランクが上がった旨をガイに言っていたのが聞こえていた。だがしかし——
「その ・・・副ギルドマスター」
アルは覚悟を決めたように口を開いた。
「今回は見送らせてください。それが、パーティーリーダーとしての結論です。まだCランクにさえなっていない俺たちでは、正直なところ力不足だと思います。その、申し訳ありませんが、今の俺には道案内くらいしかできそうにありません」
アイリスがすぐに頷き、アルの肩に手を置いた。
「そうですわ! まだ一番ランクの高いアルでさえCランクにもなっていないのですもの。無理をして危険な目に遭うのは賢明ではありませんわ」
サラとリリィもアルの言葉に静かに同意を示した。
アルは苦笑しながらグレイヴィアに向き直った。
「もちろん、オルトロスの危険性は理解しています。しかし、今の俺たちではかえって足手まといになる可能性が高いと判断します。ですから仲間を危険に晒す気はありません」
グレイヴィアはアルの言葉を静かに聞き終えると、しばらくその瞳を見つめていた。そして、ゆっくりと頷いた。
「そうね。懸命な判断だわ。自分の力量を正しく理解することはハンターとして最も重要なことの一つよ」
「はい。ありがとうございます」
アルが頭を下げると、エルフの誉れのリーダーは先ほどとは違い、感心したような笑みを浮かべた。
「堅実な判断ね。無謀な新人が多い中で冷静に状況を見極められるのは、あなたの才能かもしれないわ」
アルは少し気恥ずかしさを覚えながらも、今回の決断に間違いはなかったと改めて確信した。今は焦らず、力を蓄えるべき時なのだ。
「それと、先ほどポロッと口にしてしまったからもう知っていると思うけど、改めて言うわね。アル君、Dランクへの昇格、そして貴女たち3人ともFランクからEランクへ昇格よ。おめでとう。今回の件であなたたちの功績は認められたわ」
エミリーの言葉に真剣な顔で頷くアルとは対照的に、3人は満面の笑みを浮かべ、静かにだがハイタッチをする。
「ところで、Eランクの君たちがよくBランクのヘルハウンドを倒せたわね。君のギフトは類稀なものなのかしら?」
副ギルドマスターが素敵な笑みを浮かべながらアルに問うたが、その瞬間、エミリーが慌てて口を挟んだ。
「副ギルドマスター、申し訳ありませんが他の冒険者もいる中で、ギフトについてお聞きになるのはマナー違反です」
「そうね、失礼したわ。今回はこのくらいにしておきましょう」
グレイヴィアは悪びれた素振りもなく、ウインクするとそう締めくくり、打ち合わせ室を後にした。
「そういえば、先程ガイがオルトロスがどうのと口にしていましたが、出没したのはヘルハウンドではなかったのでしょうか?」
話が脱線しているのをエミリーが軌道修正すべくそう言うと、皆驚きの顔に変わった。エミリーのみオルトロスと言うワードを聞いていたのだ。
「なんですって? オルトロス?」
エルフのリーダーが驚き問い詰めるように言うと、グレイヴィアは腕組みをしたまま、少し考え込むように顎に手を当てた。
「そうね・・・あの男、ガイと言ったかしら?あの者の行動から推測するに、アル君がヘルハウンドを倒したことを知り、格上の自分たちなら余裕だと考えたのではなくて?ヘルハウンド騒ぎで立ち入りを規制しているにもかかわらず、あのエリアに入ったのだと思うわ。おそらくアル君が倒したのはヘルハウンドの群れの一部で、それをオルトロスが率いていたとのだ推測するわ。彼らはそのオルトロスと遭遇し、這々の体で逃げ帰ってきて、偶々見かけたアル君たちに八つ当たりをした。そんなところではないかしら?」
その瞬間、打ち合わせ室の空気がピリッと引き締まった。
・
・
・
「オルトロス・・・」
エルフの誉れのリーダーが、先ほどの和やかな表情から一転、鋭い眼光をアルに向けていた。
グレイヴィアも腕組みを解き、真剣な表情で身を乗り出し、アルに事実確認をする。
「あなたたちが先日討伐したのは、確かヘルハウンドで、群れではなかったわよね?」
「はい、間違いありません。群れに出くわしたら生きていなかったと思います」
「だが、ガイが『オルトロス』と発っしていた・・・もしそれが事実なら、群れを率いる上位種がまだギルド周辺に潜んでいる可能性があるの。君の知っているガイたちの実力は?」
「そうですね。ただ、ランクEとは言えヘルハウンド単体ならセリーナ、その、魔法使いをきちんと守って魔法を放つことが可能なら勝てると思いますが、オルトロスはよくわかりません。うまく立ち回りさえすればヘルハウンドを倒す確率は高いと思います」
「なるほどね。オルトロスは同じBランクとは言え、ヘルハウンドとは比較にならないほど危険な魔物よ。ヘルハウンドがランクBなのは大抵群れているからなの。単体ならCランク寄りのBランクといったところね。オルトロスは二つの頭を持ち、知能も高い。もし本当にこの街の近くに現れたのだとしたら、早急に対処しなければならないわ。そこで、貴女たち《エルフの誉れ》に指名依頼として調査依頼を出したいの。可能なら討伐もね。今のこの街の最大戦力として、貴女たち以外に頼める者がいないのよ。受けてくれるかしら?」
エルフのリーダーは、少し考え込むように顎に手を当てた後、静かに頷いた。
「承知いたしました。私たち《エルフの誉れ》がこの依頼を引き受けましょう」
「ありがとう。助かるわ」
グレイヴィアは安堵の息を漏らし、アルの方へ向き直った。
「さて、アル君。君たちはどうする? オルトロスの調査・討伐任務に参加するかしら?」
アルは一瞬、リリィ、サラ、アイリスと視線を交わした。Dランクになったばかりで、上位種の討伐は危険すぎるかもしれない。先ほどエミリーがランクが上がった旨をガイに言っていたのが聞こえていた。だがしかし——
「その ・・・副ギルドマスター」
アルは覚悟を決めたように口を開いた。
「今回は見送らせてください。それが、パーティーリーダーとしての結論です。まだCランクにさえなっていない俺たちでは、正直なところ力不足だと思います。その、申し訳ありませんが、今の俺には道案内くらいしかできそうにありません」
アイリスがすぐに頷き、アルの肩に手を置いた。
「そうですわ! まだ一番ランクの高いアルでさえCランクにもなっていないのですもの。無理をして危険な目に遭うのは賢明ではありませんわ」
サラとリリィもアルの言葉に静かに同意を示した。
アルは苦笑しながらグレイヴィアに向き直った。
「もちろん、オルトロスの危険性は理解しています。しかし、今の俺たちではかえって足手まといになる可能性が高いと判断します。ですから仲間を危険に晒す気はありません」
グレイヴィアはアルの言葉を静かに聞き終えると、しばらくその瞳を見つめていた。そして、ゆっくりと頷いた。
「そうね。懸命な判断だわ。自分の力量を正しく理解することはハンターとして最も重要なことの一つよ」
「はい。ありがとうございます」
アルが頭を下げると、エルフの誉れのリーダーは先ほどとは違い、感心したような笑みを浮かべた。
「堅実な判断ね。無謀な新人が多い中で冷静に状況を見極められるのは、あなたの才能かもしれないわ」
アルは少し気恥ずかしさを覚えながらも、今回の決断に間違いはなかったと改めて確信した。今は焦らず、力を蓄えるべき時なのだ。
「それと、先ほどポロッと口にしてしまったからもう知っていると思うけど、改めて言うわね。アル君、Dランクへの昇格、そして貴女たち3人ともFランクからEランクへ昇格よ。おめでとう。今回の件であなたたちの功績は認められたわ」
エミリーの言葉に真剣な顔で頷くアルとは対照的に、3人は満面の笑みを浮かべ、静かにだがハイタッチをする。
「ところで、Eランクの君たちがよくBランクのヘルハウンドを倒せたわね。君のギフトは類稀なものなのかしら?」
副ギルドマスターが素敵な笑みを浮かべながらアルに問うたが、その瞬間、エミリーが慌てて口を挟んだ。
「副ギルドマスター、申し訳ありませんが他の冒険者もいる中で、ギフトについてお聞きになるのはマナー違反です」
「そうね、失礼したわ。今回はこのくらいにしておきましょう」
グレイヴィアは悪びれた素振りもなく、ウインクするとそう締めくくり、打ち合わせ室を後にした。
25
あなたにおすすめの小説
最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます
わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。
一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します!
大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。
身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)
長根 志遥
ファンタジー
命令を受けて自らを暗殺に来た、身寄りのない不思議な少女エミリスを引き取ることにした伯爵家四男のアティアス。
彼女は彼と旅に出るため魔法の練習を始めると、才能を一気に開花させる。
他人と違う容姿と、底なしの胃袋、そして絶大な魔力。メイドだった彼女は家事も万能。
超有能物件に見えて、実は時々へっぽこな彼女は、様々な事件に巻き込まれつつも彼の役に立とうと奮闘する。
そして、伯爵家領地を巡る争いの果てに、彼女は自分が何者なのかを知る――。
◆
「……って、そんなに堅苦しく書いても誰も読んでくれませんよ? アティアス様ー」
「あらすじってそういうもんだろ?」
「ダメです! ここはもっとシンプルに書かないと本編を読んでくれません!」
「じゃあ、エミーならどんな感じで書くんだ?」
「……そうですねぇ。これはアティアス様が私とイチャイチャしながら、事件を強引に力で解決していくってお話ですよ、みなさん」
「ストレートすぎだろ、それ……」
「分かりやすくていいじゃないですかー。不幸な生い立ちの私が幸せになるところを、是非是非読んでみてくださいね(はーと)」
◆HOTランキング最高2位、お気に入り1400↑ ありがとうございます!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる