上 下
19 / 195
第2章 晃編

惨め

しおりを挟む
 晃は意気揚々と宿を後にしてギルドに向かう。すれ違う人々の姿に本当に異世界なんだと痛感させられていた。また、文明レベルがくかなり低い事に落胆しつつも、ターニャのような綺麗な女性との出合いに期待を膨らませていた。

「さあーってと、さくっと契約してダンジョンに行くぞー!」

 と勇んで冒険者ギルドの周りにいる冒険者に声を掛けていく。

 そして地面を転げていた。

「ちょろちょろ邪魔なんだよ。お前のようなガキのお守りなんかする奴はいねえぜ、目障りだ」

「鬱陶しい」

「消えろクズが」

「ぼけが!」

「ああん?ふざけてんのか!そうだな支度金として金貨100枚持ってくるなら話ししてやんぜ」

「うせろくそガキ」

 殴られたり押されたり、蹴られたりと散々だった。

 何人に声を掛けた事だろうか。ギルドの前で何度も地べたを這いずり回っていた。

 ターニャはそんな様子を見てしまい助けに行こうとしたが、一際背の高い上級冒険者に止められた。

「君の知り合いか?ならやめておけ。自らが助けを求めるまでは駄目だ。求められもしないうちに君のような見目麗しい女性が助けに行くと彼が余計に惨めになる。誰もが通る道だ。特に年端もゆかぬ歳なら尚更だ。自ら解決するしかないんだ。それにあの少年は俺をも超える潜在能力を持っていると何となく感じる」

 彼も助ける事をせず、ギルドから離れるついでにわざわざ反対方向の晃の近くをただ単に通るのだがその時に一言

「少年よ諦めずに頑張れ。おいお前、複数でいたぶって楽しいか?俺もダンジョンでお前らを見掛けたらいたぶるようにするよ」

 その男は晃より頭一つ大きく強者の雰囲気があった。ただそれだけを言うと晃に暴行を加えていた者達は慌てて逃げるように去っていった。

 晃は暫くその後ろ姿を見ていてやがて気絶した。見兼ねた者がギルド内に運んできてベンチに寝かせ、ロビーにいた職員に

「冒険者に襲われていたんだ、誰か見てやってくれ」

 顔が腫れていて血塗れだった。別の職員が駆け寄り、ターニャにタオル等を取りに行かせていたが、戻って来る間に晃は目を覚まし、職員の静止を振り切り外に繰り出す。何度も新たな者にお願いしているが誰も見向きもしない。

 ターニャはそんな晃を見て涙を流していたが、先輩から大丈夫と、見た目は派手にやられているけど重症では無いし、骨も折れていないと言われ、ただただ見るだけしか出来ない自分がもどかしかった。

 そんな中流石に血まみれの晃に暴力を振るう者はいなくなったが、冒険者自体が殆どいなくなった。そう、ダンジョンに行っているからだ。

 晃もそれに気が付き、一旦離れターニャに教えられた店にポーション等を買いに行く。回復系、魔物避け等を買っておく。そして人のいない所で収納にしまう。ギルドを後にしてから、収納にあった塗り薬を塗ると段々傷が治っていた。

 先程も身ぐるみ剥がされそうになったが、財布も持ってないのかと蹴られていたりした。今日は服のみで装備は収納に入れていたから取られる物がなかったのだ。

 そして昼食を安い食堂店で食べ、ダンジョンに向かう。

 ダンジョンに出入りする者に片っ端から声を掛けるも

「修行してから出直せ」

 等と相手にされなかった。
 夕方になりお腹が減ってきたので引き上げて宿にの食堂で食べようとしたら、宿の主に着替えてから来いと言われ、風呂に入り洗濯をしてから出直した。

 血塗れになっていて頑張って血糊を洗い落としていた。
 大風呂に行ったが、湯を掛けると辺りが血に赤くなったのを見て己がボロボロだったのだと気がついていたが、今は薬のお陰で既に痛みがなかった。

 風呂上がりに食事をしたが、妙に腹が減っていて、出された食事は本来食べきれない量だったがぺろりと食べ部屋に戻る。

 そして涙に目を腫らし悔しさに涙した。普段はお気軽な性分だが流石に心が折れかけていた。

「あーあー今日は駄目だったな。でも明日こそは行ける気がする!あーもう今日は寝る!」

 ふて寝してしまう晃であったが、まだ深刻には捉えていなかったのであった。
しおりを挟む

処理中です...