ダンジョンから始まる異世界生活〜異世界転移した勇者なのに誰も拾ってくれませんから、ダンジョン攻略しちゃいます〜へなちょこ勇者の成長記

KeyBow

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第5章

不味かった

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 皆で一つに繋げたテーブルを囲み朝食を食べていた。皆はそうでもないが、晃の様子が変で、明らかに無言で美味しくなさそうに食べていた。そう美味しくなかったのだ。それで不機嫌そうに食べていた。ただ、不平は言わなかったが、表情が暗く覇気がなく、終始無言だった。

 パンはパサパサして殆ど味がしないし、スープも少し塩味がする薄い味だ。
 そして申し訳程度の野菜がある、そんな感じの質素な朝食だった。

 質素なのは許せる。しかし殆ど味がしないのだ。自分の味覚がおかしくなったのかと思う位に味がしないのだ。しかし、これが一般的な宿の食事なのである。

 一般的な家庭の朝食も同じような物を食べる。晃は知らなかったのだ。普通の者達、つまり一般市民がどういう物を食べているのかを。拠点となる屋敷の料理などは料理人がお金をかけて料理を作ってくれていた。そう晃は基本的にダンジョンでの儲けがかなり有り、金持ち度でいうとピラミッドの頂点近くに位置する感じでお金を持っているのだ。贅を凝らした料理が出るとは言わないが、ふんだんに調味料を使っている。それでも舌の肥えた日本人であれば、この世界基準での贅沢な料理も薄味と感じるような味付けで、ちょっと味が足らないと感じるような料理である。

 それが一般庶民となると、調味料が高くて滅多に使わないので味が更に薄い。その為愕然としていたのだ。

 エニーが宿を選んでいた。高級宿であればそれなりに濃い味の料理を食べられるのだが、晃に現実を知って貰おうというような事になった。宿選びは一般的なのをとはいえ、流石に安宿は嫌だということになったが、結局選んだのは中級宿で、普通の家庭が食べる料理が出る宿だ。普通の冒険者が普通に泊まる宿、そういった所を考え、今回の宿をチョイスしていた。当初イザベラと泊まっていた宿などはダンジョン街の宿のよれ為、香辛料をふんだんに使う店の為まあまあ満足していたのだ。

 宿を出た後、馬車の中で晃が質問をしていた。

「ねえ皆は普通に食べていたけど、あそこの宿の料理って全然美味しくなかったのだけども、みんなはどう思う?」

 エニーが落胆していた。

「あのね、晃様、さっきのがこの世界での一般的な朝食よ。みんなあれで満足して食べているのよ。あの味のしないパンとかが普通なのよ」

「いつも食べてるのはもうちょっと柔らかくて美味しいよね」

「あのね、普段お屋敷で食べているパンのお値段と、今日食べた宿のパンのお値段がどれ位違うか知っていますか?」

「うーん、そんなに違うの?」

「ええ、ー桁違うのよ。大体10倍程度も値段が違うのよ。庶民でも買えなくはないけども、日常的に食べるものとしては高過ぎて普段は中々手が出ないの。普段食べているお料理もそうよ。お屋敷でも高級な食材を使っているわけではないけれども、それなりに調味料を使ってくれているから、あれだけのお料理を出してくれているの。今日は宿で作ってもらったお弁当でお昼を済ませるの。これが普通のお弁当だから、普通の冒険者が食べる昼食だと思って欲しいの」

「晃様が旅が初めてだと言うから、一般の、庶民の味というのがどういうものかというのを知って貰った方がいいかなと思ったの。」

「そうかぁ、実を言うとね、お屋敷のお料理でも味が物足りないんだ。僕のいた国ではね、もっと豊富な食材が安く、味の濃い調味料が安価に入手出来るんだ。なのでもっと味が濃く、お屋敷のお料理よりも美味しいものが普段から一般庶民でも食べられているんだ。正直お屋敷のお料理でも味が足らないんだ。だから驚いたんだ。そうかこれが一般的な料理なのかと」

 皆がハッとなった。まさか元の世界に帰っりたいというホームシックにでも掛かれば大変だ!となり晃を宥めに掛かった。まずソレイユが晃の手を自らの胸に押し当て

「ごめんなさい。晃ががそんなふうに思っているなんて私達は知らなかったとはいえ、無神経な事をしてしまったんですね。お詫びに気の済むまで私の胸を揉んでください」

 晃はハッとなった。反対側の手はターニャがやはり自らの胸に手を押し当て

「ごめんなさい。私の胸で満足してくれるか分からないけれども、どうか私の胸を触り元気になってね」

 何が元気になるのかよく分からないが、晃は添えられた手を動かす事ができなかった。ただ、手には2人の心臓の鼓動がドクンドクンと感じられ、2人共心臓の鼓動が速くなっているのが分かった。

「あ、ありがとう。そんなに気を使って貰わなくても大丈夫だよ。多分向こうの世界に帰りたいと僕が思うとか、そういう事を思うんじゃないかと心配してくれてるんだろうけれども、僕はね、向こうにもう帰りたいとは思っていないから。ただ心配なのは強制的に向こうに送られてしまう事だけなんだ」

 皆が晃に抱きついて泣いていた。ごめんなさいごめんなさいと。晃は嬉し恥ずかしだった。皆が自分の事を想ってくれているのは分かっているし、今はまだ彼女達の想いにちゃんと向き合い、想いに対して応えていないのだ。そろそろきちんと自分の去就を決めた方がいいのかなとは思うので、今回の3人目の勇者の捜索が終わり、屋敷に帰ってきた時には何かしらの答えを出さなければならないとは思っているのである。

 そして2日目の馬車での移動は順調に進み昼休憩で宿で用意して貰ったお弁当を食べるのであった。
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