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十三 聞いた相手を間違えた可能性

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 結局、吉田から借りた写真集は使わなかった。あんなことがあって使えるわけがない。

『男子寮ですよ? 普通ですって』

 んなわけあるか。アイツ、ちょっとおかしいんじゃないのか?

(大体、今じゃBL本普通に読んでるし……)

 思うに、俺が腐男子だから、からかってるんだろう。よくBLあるあるセリフとか言ってくるし。あんな風に揶揄われたら、さすがの俺だって怒る。

(でもイケメンだから許しちゃうんだよねえ~)

 顔に弱いのも考えもんである。

 溜め息とともにラウンジでセルフサービスになっているコーヒーを淹れていると、見知った顔が声を掛けて来た。

「あ、ししょー」

「お、岩崎くん。コーヒー?」

 声を掛けて来たのは、栗原と同期であり俺の可愛い後輩でもある、ピンク色の髪が特徴的な青年、岩崎だ。

「ううん。俺は鮎川の部屋でインスタント飲むから」

「相変わらずラブラブだねえ」

 じゃあ、なぜここに居るのかと思えば、どうやら同じく同期の須藤と一緒だったらしい。後ろからぴょこんと顔を出してくる。珍しい組み合わせだ。

「須藤くんも一緒か。珍しいね?」

「備品の補充手伝って来たんです~」

「おお、偉い偉い」

 どうやら率先してお手伝いをしてきたようだ。岩崎はよく寮長の藤宮を手伝っているので、その手伝いなのだろう。見た目はヤンキーなのに良い子である。

「なんか先輩疲れてません?」

「あー……」

 須藤の言葉に、遠い目をする。栗原のせいで、何だか疲労がマシマシである。すっきりしたはずなのに、どうにもすっきりしない。

「いやー……。どうにもモニョモニョ……」

「何かモヤってんね」

「まあね……」

 言いながら、栗原の『普通だ』と言い張った言葉を思い出す。そんな訳ない。頭ではそう思っているが、もしかして、ということもある。もしかして、今どき男子はそんな感じだったりするんだろうか?

(俺がおかしいのか?)

 もしかしたら俺がオジサンだから知らないだけで、ヤングたちはそんなことないんだろうか。

 チラリ、須藤と岩崎を見上げる。

「あのさあ、変な事聞くけど」

「なんっすか」

「……君ら世代だと、友達とこう……互いに触りっこ~みたいなのって、普通?」

 岩崎はキョトンとした顔をして、須藤は頬を赤くした。どういう表情? 笑い飛ばしてくれないかな。「何いってんですか」って。

 だが、予想に反して、二人の回答は違った。

「まあ、普通じゃないっすか?」

「……普通かどうかは解らないですけど……。まあ、ありますよ」

「あるんだ!?」

 男の恋人が居る岩崎はともかく、須藤がそう言うとは思わなかった。俺がおかしいんだ!?

「え。それってどういう……」

「先輩、あんまり聞かないでくださいよ」

 頬を染めてそう言う須藤に、(そりゃそうか)と引き下がる。くそ、気になるが仕方がない。

「ししょー」

「え? なに?」

 岩崎が真面目な顔をして俺を見下ろす。

「そう言う話は、外でしないって言ってましたよ。大人は」

「あ。うん。そうだね。ごめんね。岩崎のご両親はちゃんとしてるんだね……」

 説教されてしまった。そうだよね。こんな話したらいけないよね。

「いや、オヤじゃねーっす。栗原が」

「……アイツかよっ!!」

 まともかよ!

 最初から最後まで、栗原に振り回された気がする。悔しい。

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