画廊寄武等とyouれい!

須江まさのり

文字の大きさ
18 / 103
youれい!

17.家に辿り着いて

しおりを挟む

 なんだか無駄な会話をしている内に僕らは家へと到着する。

 足を止めて脇に目を向けると、彼女も止まって無言でその家を眺めていた。

「ああ、僕ん家ここだから」

 その一軒家を見あげていた彼女は、僕の声にはっとしたように口を開く。

「え? ああ。つい、ぼーっとしていました。……へえ、洋風レトロという感じの、わりと素敵な家ではないですか」

「……まあ外見はそうだけど、中身は改装されてて、中途半端に古めな普通の室内なんだけどな」

 そう答えながら玄関を目指していたところで、ふとした疑問が頭をよぎった。

 そういやあ、こんなふうに女子を家に招き入れた事なんて、僕の人生には無かったな……。

 というか、産まれてこのかた友達すらもできた経験の無い僕だ。そもそも他人を自分の家に招き入れたことすら無いのだ。

 そんな自分の悲しい事実を今更自覚してしまい、玄関前で軽く思考停止に陥ってしまっていると、そんな挙動を不審に思ったらしき彼女が訊ねてくる。

「なにを固まっているのです?」

「日頃から日常会話のシミュレーションはしてはいたつもりだったが、これは盲点だった!!」

「は?」

 思考がフリーズ状態になっている中で質問され、ついつい心の声を口に出してしまっていた。

 どういう事かというと、今まで僕は引き篭もり生活を続ける中でも、自分の会話能力を低下させないように、イマジナリーフレンド的な疑似人格と脳内会話をする事で言語能力を維持してきたつもりだった。

 とはいえ、いくら自分の心の中に仮想的な他人の人格を作ってみせようとも、所詮は独りよがりな想像の域を出ていなかったようだ。

 なので、もう一人の僕もそんな言葉に反応すら出来ずにダンマリだった。

 〝他人を家に招き入れる〟というそんな発想自体が無かったため、そういったシチュエーションに関するボキャブラリーが僕の頭の中に構築されていなかったというわけだ。どんだけモテない人生を歩んできたんだよこの僕は!


 いや、それこそさっきの横断歩道で幻覚に囚われているらしき玲衣ちゃんの正気を取り戻そうとした時は、あんなに的確な言葉が次々と出てきたというのに、普通に女のコを自分の家に招き入れるための言葉はなんで一切思い付かないんだ? どう考えても逆だろ!

 そんなプレッシャーに押しつぶされそうになっている僕を不審に思ったのだろう、彼女は多少困惑した様子で訊ねてくる。

「いったい何なのです?」

「い、いや。な、なんでもないっす」

「なぜ、いきなり下手な敬語口調に? これまで一貫して、一人称が『僕』なのにもかかわらず無理して男っぽく話しているみたいな口調だったのに」

「そんなふうに聞こえてたんだ、僕の喋り……」

 と、そんな評価に羞恥心も刺激されてしまい、僕は狼狽する。

 いくら変わり者で通しているとはいえ、僕も思春期な男の子。
 女子を家に招き入れるだけの事で緊張してしまっている、などとは思われたくはない。

「い、いやぁ。君の敬語がうつったのかな、ははは……」

 などと話を逸らしつつも頭の中では、このシチュエーションで使うべき言葉を考えながら、その間を埋めるために話を続ける。

「まあ君のほうも畏まった敬語なんて使わずにタメ口でいいんだけどな」

「え? わたしとしては砕けた話し方をしているつもりなのですが、そう思われていたのですか?」

「ええ? それで砕けた口調のつもりだったの?」

「はい、わたしの言葉なんて敬語警察に掴まったなら、間違いを指摘されまくりですよ。ただ口調が丁寧っぽいだけで、二重敬語とか使いまくりですしね」

「ああ、そうなんだ……僕にはよく分からんが」

 心ここにあらずの状態なので……というのは見栄を張りすぎだろう。たとえこちらは万全の状況で聞いていたとしても理解できないっぽい、そんな話を聞き流しながら答えに至るまでの時間を稼ごうとしていた僕に、彼女は言う。

「それにわたしは特別タケトさんに対して敬意を払っているというわけでもないですしね。ただこの話し方が好きなだけで、これまで積み上げてきたキャラ作りが……ではなくてえーと……馴染んでいるこの口調を今更変えるというのもなんだか変な感じですので、このままでよろしいでしょうか」

「ふーん、そういうものなのか……」

 何やらまたこちらが軽く傷付きそうな言葉や、メタなセリフとかがあったような気もするが、上の空で答えを返しつつ、僕は言葉を続ける。

「まあ君がいいならそのままの喋り方でも別にいいさ。……とにかく家に入りなよ」

 そんな必死の思考が実を結んだのか、ようやくそれらしい言葉をどうにかひねり出せた僕は、内心ガッツポーズで|(よくやった自分!)などと、そんなしょうもない自画自賛をしていた。

 すると、その僕の不審な挙動をいぶかしげな眼で見詰めていた彼女が言う。

「あのー、もしかして……」

 その言葉に僕はぎくりとしてしまう。この天然少女は、なんだかんだで僕への指摘だけは無駄に察しが良い所を要所要所でみせてきたからだ。

「もしかしてタケトさん、わたしを家に連れ込んで、なにか良からぬ事を企んでいるのではないでしょうね!」

「だから違わい! 変な話題を蒸し返そうとするな! ってかさっきも言ったはずだが、触ろうとしても手が体をすり抜けちゃうような相手に、いったいどんな事ができるって言うんだよ! こっちが何をしようとしても壁すり抜けて逃げられてお終い、どころかそっちには逃げる必然性すらないだろ」

 何だか自己弁護に関しては妙に饒舌で相手に対する思いやりも無くなってしまう、そんな僕に彼女はおずおずと肩をすくめる。

「それもそうなのかもしれないのですけれど……」
「……けれど?」

 こっちはてっきりまた『幽霊じゃなくて透明人間がどうのこうの』とか、そんな掛け合いを始めるのかと思っていたのだが、どうもそんなつもりはない様子で彼女はそっと道路側を指差した。

「今のタケトさんって、端から見ると独り事で声を荒げている、そんな変な人に見えているようですが……」

「え?」

 彼女の家の焼け跡からの帰り道、不自然なほど道行く人とすれ違う事が無かったせいで、すっかり油断してしまっていたのだが、最後の最後でそんな幸運も尽きたようだった。

 彼女が示した方に目を向けると、お向かいのおばさんが道路を跨いだ向こう側から、怪訝そうな表情でこちらを眺めている。

 その不審げな目は僕のみへ向けられていて、傍らにいる彼女に視線を向ける様子は見えなかった。

 もし、そのおばさんにも彼女の姿が見えていたのだとしたら、どうしたって着物少女に対して興味が惹かれる筈だ。既に透明人間設定を貫くのが面倒になったのか、その体はもう完全に地面から宙に浮いちゃっているし。

 しかし、そのおばちゃんにそんな様子は見て取れない。

 つまりそれは相手からは僕の姿しか見えていない証拠だとも言えた。

 だとするなら、このやり取りがどう受け取られていたのかは、もはや明白だ。

 ここまで完全に失念していたが、この状況は他人から見れば会話口調で独り言をしているようにしか見えないという、僕はそんな状況を演じ続けていたのだ。

「あわわわっ!? ど、どーもこんにちわです!」

 遅ればせながら慌てて作り笑顔で挨拶をしてみせるも、軽いパニック状態に陥ってしまっていた僕は、相手の返事も待たずにそのまま逃げ込むように家の中に入ってしまっていた。

そうして玄関のドアを閉じてようやく一息ついてから、自らの行動の失態に気付く。

「ぐぐ……、近所の人に奇行を曝してしまったかもしれない……」

 意外に他人の目や世間体を気にするタイプの僕は、一人玄関で後悔の念に包まれながら項垂れてしまうのだった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...