画廊寄武等とyouれい!

須江まさのり

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第三章『画廊寄武等とYouしょく!』

48.謎の気配。

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「ごはっ!?」

 意識を取り戻した僕は考えられないほどの痛みに混乱した。

 その激痛は、すぐにもその場に倒れ込んでのたうち回りたいほどだったのだが、体はもう一切反応してはいないようだ。

 視覚もロクに働いては居ないようで確認は出来ないが、どうやら僕は背中から刀で心臓を貫かれているようだ。しかも、貫かれたその刃で体が吊るされているというそんな惨状だ。

 そんな激痛と混乱の中、かろうじて生きていた僕の聴覚は何者かの声を聞いていた。

「? どうしたんだよ夕蠅ゆうばえの旦那ぁ? ズッコケた勢いでブッ殺しちまったとかじゃねえよなぁ? 頼むぜまったく。こんな化け物女神の魂を封印して取り込むにゃあ、もうちっと手間がかかんだからよぉ」

 強大な敵を倒した後の気安さか、これまで伏せていた名を呼ばれた魔族の男は答える。

「いや、まだ死んではいない。……が、何だ……?」

「どうしたっていうんだよ? 迷惑だなぁ」

「いや……。一瞬、この少年の中から魂の気配が消えたような気がしたと思ったところで、かすかに魔力のようなものを感じた気がしたのだが……」

「魔力だぁ? ちょっとナニ言っちゃってんだよ? 迷惑だなぁ。まあ確かに普通とは違う魂の持ち主ではあるようだけどもよぉ……」

「ふむ……、瞬間的だったが確かに強大な気配を感じたような気がしたのだが……気のせいなのか……」

 夕蠅と呼ばれた男は、相棒とやり取りを交しながらこちらを観察しているようだ。

 僕からは見えないが、一人の人間を刀で貫いた片手で支えながら微動だにさせない、異形の仮面を被っている以外は全身タイツのような何の飾りもない明らかに人間のものではない姿を、僕は視覚ではない別の感覚で認識していた。

「おいおい頼むぜ迷惑だなぁ。ま、あのバカ女神と戦った後だからな。フラッシュバックっていうの? そんな感じであの女神の波動の記憶が錯覚として頭を過ったとしても仕方はねぇが……」

 そんな愚痴をこぼす男。こちらも人間とは思えない姿をしていた。

 髑髏のような顔に、いくつもの目が斜めに並んでいるという不気味な顔をしている。そんな頭を覆う外套の付いた黒い衣装。その格好はいかにも死神といういでたちだったが、それを象徴するべき大鎌は前のアリアという女神との戦闘で破壊されていたためその手には無かった。

 と、そんな認識をしたあたりで僕の耳は仮面の男の声を拾う。

「む……。どうやら勘違いだったらしい……問題はないようだ。悪かったな、お前は気にせずに己が悪事を続けるがいい」

 その言葉に、魔方陣を前に何やら念じながら死神は答える。

「くけけっ。言われなくても手は止めてねぇよ迷惑だなぁ。限界ギリギリの戦いを経験したからか今の俺っちの集中力は冴えっ冴えだ。大まかな作業はもう終わるぜ」

 そんな異形の二人の話を聞きながら、僕は思い出す。

『そうだ……。僕はこいつらから逃げようとして、それに失敗したんだな』

 一家心中の末の放火によって全てが焼き尽くされたという火災現場跡。そして、その現場で起こった事件を調査していた女神と、それを裏で糸を引いていたという死神や悪魔との死闘。

 その壮絶な戦いの結果、圧倒的な戦力の差を覆し神が敗れるという、そんなまさかの事態に直面して逃走を図ったものの。黙ってそれを見逃してもらえるわけもなく、こうして背後から串刺しにされているのだ。

『そのショックで僕は幽体離脱して生霊のような状態となり、ついにブラジャー様を封印から助け出すことに成功し、この世界の心理を学んで……あれ?』

 そんな現状の記憶が蘇るのと引き換えのように、意識を失っている間に見ていた夢の記憶が薄れていくのを感じて動揺した。

『何故だ……あの貴重な経験は死に際に観た夢だったとでも?』

 困惑する僕に、まだ残っていたブラ様の英知が答えを導き出す。

『そうか……霊体であった時の記憶は魂の体験。つまりこの体ではその記憶は維持できないというわけか?』

――いや何、その設定……。

 そんな疑問が浮かんだりもしたが、それどころではなかった。自分の体は既に死を迎えようとしている最中であるのだ。生き物の性として、その危機的状況に対処する思考を再優先せずにはいられないのだ。

『僕は……このまま死んでしまうというのか?』

――そうだよ、ようやくこの場の状況に対する適切な思考をしてくれたようだな。

『再びブラ様の元に戻ることも出来ずに? そんなわけにはいかない!』

――そうじゃない感が半端ないが、とりあえず良しとしておこうか。

 そんな葛藤の中、声が聞こえる。

「くけけ、夕蠅の旦那ぁ。迷惑なこっちの作業は何とか一段落したぜぇ。後はアジトに戻って細かな調整が必要だがな……」

「そうか。では……」

 そんな言葉を聴いた直後、僕は自分の体が落下している感覚を覚えた。

 体を貫いていた刀が鮮やかな手際で引き抜かれ、支えを失った僕の体は質量保存の法則に則ってその場に残された。だからと言って何ができるわけでもない。今度は重力に従ってその場に崩れ落ち、ただ仰向けで地面に転がっただけだった。

 それと同時に傷口からは、栓の抜けた瓶を倒したかのように出血が勢いを増して、この体から溢れ出ててゆく。

 黒尽くめの男は、そんな僕に止めを刺そうとしたようだったが、それは実行されなかった。

「くけけけけっ、後はそいつの止めを刺して魂が出てくるのを待つだけ……? んー? なんだぁ、この気配?」

 死神は何かに気付いたかのようにそう呟いた。同時に仮面の男の方も何かを察知したようだ。

「む……この波動、神族か魔族かよくは解らぬが、何者かがこちらへ近付いている……だと?」

 その気配は何故か瀕死の僕にも感じ取れていた。

 悪魔のような禍々しさと神のような神々しさが混じり合ったような、得体のしれない気配だ。とても心地よいという波動ではない。

 そんな予想外の事態に、死神は判断を仰ぐように訊ねる。

「どうする夕蠅ゆうばえの旦那? 俺っちはもう手持ちの武器も無ぇし、式神や術だってほとんど品切れ状態でまともに戦えやしねえぞ?」

 先ほどの、女神との死闘で彼の自信はことごとく打ち砕かれている状態だったのだろう。その言葉は消極的なものになっていた。

 それは、夕蠅と呼ばれた魔族の男も同じだったようだ。

「そうだな……その女神の力はまだ使えぬのか?」

「まあ、やってできねぇ事もねえと思うけどよぉ、あいつの力は規格外だったからなぁ……。封印が安定しているのを確認できるまでは慎重にいきてぇところだなぁ」

「そうか……。ここで判断を誤るわけにもいかん。こんな訳の解からぬ気配を発する相手に対して、何の策も無いまま遭遇するわけにもいくまい。我々はまだまだ悪事を為さねばならぬのだからな。レンズよここは引くぞ」

「分ったから俺っちを名前で呼ばねぇでくれよ、迷惑だなぁ」

 夕蠅のその慎重な判断に、レンズと呼ばれた死神は文句を言いながらも同意するしかなかった。
 更に言えば、正体が掴めない相手との戦いはもうこりごりだったのだろう。

「ったく迷惑だなぁ。そのガキ、珍しそうな魂をしてそうだったのによぉ……」

 瀕死状態で地面に転がっている僕の体を未練たっぷりに見下ろしながら、「それもこれも、あんな化け物みたいな迷惑な女と戦ったせいだ」と吐き捨てた死神レンズに対し、魔族の男は行動を促す。

「……ゆくぞ、撤退だ」

「くけけけ。解かってるよ旦那ぁ。迷惑だなぁ」

 そんな新たな気配の登場は、彼等に地面に横たわる男子に止めを刺すのを失念させていた。

 お蔭で瀕死状態だとは言え僕はそこで僅かに寿命を引き延ばす事が出来たわけだが、それが自分にとって幸運だったのかそれとも不運だったのかは、まだ分からなかった。

 それはそうだろう。僕は心臓を刀で貫かれていたのだ。それこそ、漫画に出てくるスーパードクターでも対処のしようは無いだろう。

 ただ、もしもここにやって来たのが神様だったりするならば、そんな状況からでもこの命を救ってくれるかもしれない。

 どこかの女神様のせいで既に僕の中で神という存在に対する信頼性はかなり揺らいではいたのだが、今の自分が持てる希望はそれくらいだった。

 ただ、そこに現れたのは、

「にゃっ? 殺人現場!?……嫌っ!」

 何気なく道を歩いていて、そこで血まみれで倒れてている人間を発見してしまったにしてはやけに軽薄な、そんな反応をする女性だった。
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