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第三章『画廊寄武等とYouしょく!』
78.束の間の邂逅
しおりを挟む都合よくいきなり降りだした雨の中、化けタケトは呆れるような声を出した。
「なんだよそれ。意識も無いのに結局この子にとってうまいこと行くようになってるってのかよ」
そんな言葉に反応するように、少女の口が動いた。
「これは……雨……?」
「ああ、そうだ。お陰で町を襲っていた火も消してくれたよ」
「そうですか……それよりもわたしが今見ていた記憶の持ち主のだったとか、そんな声が聞こえたような気がしたのですが、それって本当なのでしょうか……」
「まあなんとなくそう思っただけで、確かめる方法なんて無いけどな。それでもあの子の記憶の底にはここでの出来事を覚えていたみたいだったな」
「今回の出来事を知っていた……。もしそうなのだとすれば、わたしがその人の過去の自分とかいう可能性は有りますけれど……わたしは生まれた時には既にこの姿だったので幼少期の記憶なんてあるはずが無いですしね」
「へえ、そうなんだ。だったらなおさら今世の君じゃなくて来世の君だっていうほうがしっくりくる話だな」
「……いやあの……、わたしけっこう興味深いことを言ったつもりなのですが、『へえ、そうなんだ』で済ましちゃいます?」
「何が?」
「どんだけ他人に興味が無いのですか……まあいいです。ではその記憶に直接訪ねてみましょうか」
そう言って着物少女は化けタケトの膝から下りると、お決まりの印を結んで何やら念じ始めた。
「ていっ、残留思念具現化の魔法っ!」
「いや何やってんの……?」
相変わらずの唐突な展開に呆れる化けタケトだったが、そのまま絶句してしまう。
「最後に……画廊寄くんに会いたかったな……」
そんな言葉とともに、彼女とは別の白い和服を着た女の子の姿が宙に現われたからだ。
それは顔姿はうり二つだったが、そのうっすら透明な姿はかつて彼が出会った幽霊少女玲衣の姿だった。
「お、俺……いや、僕はここに居るぞ?」
そんな彼の言葉に、宙に浮いていた幽霊少女は言った。
「……あなたは誰でしょう? そんな悪魔だか魔物だか判らない方に知り合いなど居ないのですが……?」
「こ、これは、えーと、ちょっと待って。今すぐ脱ぐから」
その言葉に動揺した化けタケトはそう答えると、その異形の姿が真っ二つに割れて、その中から元の赤シャツ姿をさらしていた。
「いや、なんですかそれ……」
「それってそんな簡単に脱げたのですか? というか、わたしの危機だった時には不可逆だとかなんとか、そんなことを言ってませんでしたっけ?」
そんな二人のツッコミを受けながら、前回言っていた事との整合性などは無視するように夢の中の僕は弁明をする。
「いや、ちょっとばかり君の敵討ちをしようかな、なんて思って……」
「はあ? わたしは死んでなんていません! 透明人間なだけなので、敵討ちだなんてそんな縁起でもない事をされる謂れなどはありません」
相変わらずの口調で無茶な主張を始めた彼女は、更に言った。
「というか、なんでそんな姿になっていたのです? あなたはわたしと一緒に人間になってくれるのではなかったのですか?」
「いや、そんな約束をした覚えはないが……」
「でしたね。でも、そんな約束があったなら感動的じゃありません? というかこの際ですから前世とかでそんなことを誓い合ったことにしておきません?」
「なんだよそれ、無理して良い話に持っていく必要も無いだろ」
そんな指摘をする僕に対し、彼女は僕が追い求めていた笑顔をこちらに向けてくれていた。
「うふふ。わたしはやっぱり人の姿をしているタケトさんが好きですね」
そんな彼女に感化されたのか、夢タケトの方も思っても居なかった言葉を口が勝手に発していた。
「ああ……。僕も人であろうとしている、そんな君が好きだ……」
「何ですかそれ? それではまるでわたしが人ではないみたいではないですか。わたしは人間ですが?」
――なんだか逆ギレされてしまった……なんか怖い。
そう感じつつも、彼は楽しくなってしまう。
「いや、透明人間じゃなくて普通の人間になりたいとか、君がそう言ってたんだろ?」
「まあ、それはそうなのですが……」
それは理解できないやり取りだったが、何故か夢の中の僕の心は満たされているかのように感じる。
彼女のほうも互いの言葉に満足したように微笑みを返しながら言った。
「わたしの事はもう忘れてください……。わたしも忘れますので……。ですが、またどこかで出会ってくださいね。その時の報酬は何が良いでしょう、やっぱりブラジャーですか?」
「まだこっちの話も終わってないのに続編の紹介? たいして読者も居ないっぽいのに?」
「ええと、いきなりですみません。どうやらもう時間切れのようです……」
「は? 玲衣ちゃん!? いやちょっと待って……」
そう言ったそばから、玲衣ちゃんの姿がどんどん薄くなり始めた。
「いやちょっと待ってくださいよ、こっちはお聞きしたい話があるのですが」
着物少女も同様に引き留めようとするのもむなしく、その幽霊少女はそのまま幻のごとく消えてしまうのだった。
「おい、どういうことなんだ?」
「分かりません。何か不具合が起こったようで……もうこのブラからは何の思考も読み取れなくなっているようで……」
「は? どういう事なんだ」
「えーと……即席の魔法でしたので、何かしらの副作用が起こったのでしょうとしか……」
「なんだよそれ? てかもっとちゃんと確かめてくれ」
「いいえ。もう無理なようです……」
努力という過程を完全放棄したようなそんな態度に、夢タケトは必死に頼み込む。
「お願いだから、もっとしっかり調べてみてくれ、他に何か彼女の言葉は残ってないのか!?」
と、彼は化けタケトだった時の抜け殻が持っていたブラを取って、それを相手に委ねるようにして頼み込むのだが、やっぱり彼女は何のチャレンジを試みようともしてくれないまま言葉を返すのだった。
「……あのこれ、そんなにあっさりと渡してしまって大丈夫なのですか……?」
「今はそれよりも、彼女の言葉が聞きたいんだよ!」
「えーと……やっぱり、無理みたいです……」
「ってか早っ! 諦めるの早っ!! どんだけ努力するのが向いてないんだよ?」
雨の中、そんな叫びが誰も居ない街に響くのだった……。
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