画廊寄武等とyouれい!

須江まさのり

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最終章『画廊寄武等のyouかん』

84.闇の底の僕

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 僕のせいではないとイマトオは言った。

 その言葉を聞いて、そう思おうとした。そのために、考えるのをやめて本来の意識に思考を委ねようとした。

 だが罪悪感のような感情が止まらない。

――何故だ?

 僕は思う。

 自分がそんな罪の意識みたいなものを覚える必要は無いはずだ。

 理解できない。

 僕はその理由を己の中に有る人嫌いだと考え、その思考を纏めた。

 これだから、人と関わるのは嫌だった。

 人と関わると、こんなふうに理解のできない感情に苦しめられる。
 自分は悪くないのに。

 だから昔、僕は人と関わるのを止めたんだ。

 感情自体を持たないようにして。
 自分には元々そんな感情は無いのだと、そう思い込んだ。

 それなのにこの感情はなんだろう……。

 耐え切れないほどの理解不能な感情に押し潰されそうになったその時……。

 胸を押さえている自分の手に握られているブラに気付く。

――ああ、これを第一に考えて自分の人生の人生を生きろと、彼女にそう言われたんだっけ。

――僕はその遺言ともいえる言葉に逆らう事は出来ないのだ。

――それこそ、無かった事に出来る夢の中でくらいしか……。

 そんな思考を読み取ったようにイマトオは言う。

「いやあの……そこでブラが出てくるんだい?」

 そんなイマトオの問いに、まるで夢の中のように僕ではない別人格が言うかのように、僕の口で答えた。

「ああ。その夢の中ですら彼女に言われてしまったからな。『自分の復讐なんて考えずに生きてほしい』と。そこまではっきりと言われてしまったなら、もう僕はそれに逆らうわけにはいかないだろう?」

「そんな君の生き方でキミはいいのかい?」

「そうだよ。お笑いだろ? 僕はあの子に頼まれた最初の願い事を叶えてあげることは出来なかったしな。ならせめて最後の願いには従うべきだろう」

「なるほどね……。なぜキミがそこまで頑なに復讐心を否定するのか分かったよ。それしかタケト君の中でキミのその意識が生き残る方法は無かったってわけだ……」

「なんだそりゃ?」

 なんだか理解不能な話になってきてそんな疑問を挟んでみたのだが、そんなこちらの言葉を無視したままイマトオは話を続ける。

「タケト君にとってあの子の言葉はそれほど強大だったって話さ。ましてや最後に残した遺言みたいなものだからね。タケト君はその言葉に従ってその願いと反する思考は徹底的に排除されてしまうだろう」

「ああ、それくらいこの体に掛っている枷は強力なんだ。だから僕……いや俺はもう何の力も無い普通の人間……ですら無い。夢に現れた架空の存在として忘却されるだけのそんな雑念でいいんだよ。それで意識や記憶の奥深くにでもわずかに存在できるならな」

 てか自分自身ですら僕の疑問を無視して話を続けていた。

「それが君が今まで生きてきて、自分の意識を残す方法だってわけかい?」

「だから何だよそれ! 僕はいったい何の話をしてるんだ?」

 別人格とイマトオの会話を聞いていながら、そろそろ寝ぼけていた意識が目覚め始めてきたのか、ようやくそんな疑問に至った時だった。

「っていうか、あたしは何やってるのよーーーーーーっ!?」

 そんな叫び声がバスルームから響いた直後、バスルームのドアが開く音がして、あーちゃんがドタバタと二人の居るリビングへと駆け込んでくる。

「やあ、あーちゃん。もう正気に返っちゃったのかい?」

 そんな風にニヤケ顔で訊くイマトオを、彼女は睨みつけながら言った。

「なんであたしがタケトに思考の誘導なんてされてんのよ!? あんた、何かしたんじゃないでしょうね!?」

「まさかぁ、ボクが男子に力を貸すわけなんてないだろう? ボクが手を貸すのは女の子限定さ。まあこっちはこっちでキミに席を外しててもらう準備くらいはしていたけれどね」

 イマトオはそう言いながら、どこから取り出したのかいつの間にか手にしていた何かをあーちゃんへと投げ渡す。

「な、何よこれ?」

「それは『神秘の醤油』だよ。それをかけると、どんな食べ物の味も格段に上がるという魔法の調味料さ。バスルームに残ってるインスタントタケト君で試してみるといい。まったく別の風味に変わって食も進むハズだから」

「わーい! それじゃ、さっそく味見してこよーっと♡ いえぃ! って、もう引っかかるか!!」

 そう言って、普通の真空タイプの刺身醤油のパックを床に叩きつける。今までの真剣な空気を台無しにするような、そんなノリツッコミだった。

 だがそれで落ち着いたのか、彼女もようやく平常心を取り戻したようだ。

「……でもまさか、こうもすんなりと当然のように契約で与えた能力を使いこなして、独力であたしの思考を操作するなんてね……。すっかり、油断しちゃったわ」

 そう言いながら、ようやく僕に目を向けた。

 僕は右手にブラを握ったまま呆然と立ち尽くし、この状況が理解できないかのように辺りを見回すのだった。

「え、えーと……。今、僕は何してたんだっけ」

「ちょっとタケト、どーしたの?」

 そんな彼女の問いを無視して言う。

「いやいや、あーちゃん自分のキャラを忘れたのか? 口調が違うだろ」

「あれはもういいの!」

「そうかぁ、僕は結構好きだったんだけどなぁ。ねえ、お願いだからあの口調に戻って、そして僕にブラをくれないか?」

「にゃっ! んっ! そう言われるとあげない訳にはいかないよね。うん! って、もうその手は効かないって言ってんの!」

 乗りツッコミが気に入ったのか、そんなリアクションを返すあーちゃんの前で、僕は頭を抱えた。

「しまった! まず何より先にまずブラを要求すべきだったぁっ! なんで最初の時にこの手を使わなかったんだぁ。画廊寄がろうより武等たけと、一生の不覚だぁ!」

 どうやら僕の意識は完全に覚醒していたようだ。先程までのイマトオからの言葉に対し真面目に落ち込み狼狽していた自分は、もうそこには無かった。

 今はただ、寝ぼけてブラを手に入れるチャンスを逃していた己の失態に気付いて、後悔の念でその場に崩れ落ちてしまう。

 というか僕の心はブラを手に入れ損ねた後悔と自責の念で奈落の底状態だった。

「いや……タケト君ねぇ……。ここはあの子に対する後悔と自責の念で落ち込むところだったんだけど、なんでそんなしょうもないことでそこまで落ち込んじゃってんだよ……」

 そんなイマトオの声にも反応できないくらい僕の意識は深く沈んでいた。

 それを見て何かを察したように〝あーちゃん〟はイマトオに詰め寄る。

「ちょっとあんた、あたしが居ない間にタケトに何かしたの?」

「うーん、まぁ、色々と話しはしたけれどねぇ……。なんだかボクが思っていたのとは、ちょっと違う展開になっているようで、こっちも戸惑うばかりだよ、あははは」

「なに笑ってんのよ!?」

 そんな声を聞きながら、僕は後悔の闇に落ちてゆくのだった……。

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