画廊寄武等とyouれい!

須江まさのり

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最終章『画廊寄武等のyouかん』

86.僕はそれでいい

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「えーと……何だかカッコつけているらしきところに悪いけど、それって〝『ブラジャーなら何でもいい』|(だったらランジェリーショップにでも行って自分で買ってこいや!)という変態〟から、〝ひとつのブラジャーにこだわる変態〟に変わっただけのような気がするのはボクの気のせいかなぁ……はは……」

 イマトオはどうでも良さげにツッコミを入れていたようだったが、そこはもう他者の入り込む余地のない僕たち二人だけの世界だった。

「そ、そんなの……タケトじゃないよ……。出会った時のタケトは、あたしのブラを手に入れようと、あんなに必死だったのに」

 そんな彼女に、僕は精一杯の誠意を込めた言葉で語る。

「すまない。僕はもう君と出会った時の僕ではないんだ」

「そんなのって……」

「いやあーちゃん、一見シリアスっぽいやり取りをしているつもりなのかもしれないけど、タケト君はキミを見てないよ。その手にしているブラに対して語ってるんだけど、キミ的にはそれで良いのかい?」

 イマトオの客観的な視点からの指摘が入るが、それは僕たちに割って入ることは出来なかった。

「嫌だよぉ、元のタケトに戻ってよぉ……」

「それは無理だ、もう決めたんだ」

 僕はそう告げると、呆れた様子で座っているイマトオに顔を向けた。

「あんたの思惑に乗ってみせよう。やっぱりあの悪魔達には報いを受けさせなければならないようだ」

「ふーん。それは物騒な話だねぇ。でも、どうやって?」

 それまでこちらの復讐心を煽ろうとしていた態度はいったいどこへやら、興味なさげにそう訊ねるイマトオに僕は根拠のない自信をみなぎらせながら言った。

「別に……あーちゃんとの契約で手に入れた力で戦って倒す。それだけさ」

「あははは勇敢だねぇ。でもすんなりと勝てると思っているのかい? 偶然な幸運があったとはいえ、相手ははあのアリアちゃんにすら勝っちゃった奴等だよ? しかも今はあのバカ女神ちゃんの力も取り入れて強化されているっぽいよ」

「今の俺に他の選択肢は無いからな」

 なんだか無駄にカッコよさげに振る舞っている僕を茶化すようにイマトオは訊ねた。

「勇ましいねぇ。愛ゆえにかい?」

「いや。あの子の残したブラジャーへの信仰だな」

「はあ?」

 それを聞いたあーちゃんは頭に大きな〝?〟を浮かべてから、そんな二人の会話に割って入ってきた。

「わけわかんない、なんなのよそれ?」

 その言葉に、僕は自分が手にしていたブラに視線を向けながら語り始める。

「このブラ様は霊体だ。実体が無い」

「それがどうしたっていうのよ?」

「つまりそれは、このブラ様の本体はこの世には無いということだ」

「なんだかまたしょうもない話が始まりそうだねぇ、あはは……」

 そんなイマトオの茶々は無視して話を進める。

「あいつらはこのブラ様の持ち主だった人を殺害したのみならず家ごと焼き払った。しかも、ブラジャー様を焼いてしまったのみならず、本来有るべきだった場所をも灰にした許されざる異教徒どもだ。更には他にも居たであろうその眷属(ブラ)達をも灰にしたまさに悪党でもある! 例え天が許したとしても、そんなのはこの僕が許しはしない! 必ずやこの手で天誅を下して見せる!」

 大舞台で見栄を切る役者のような口調で言い切った僕に対し、イマトオは呆れた様子で呟くように言った。

「まあ結果的に目的は同じみたいだし、キミがそれでいいんなら別に良いんだけどねぇ……」

「何なのよそれ……」

「君と出会った時から僕はブラ様一筋だ。それは何ひとつ変わっていないはずだ。何か問題でも?」

「そりゃ……問題は無いけど……」

 あの子の命を奪った奴らに復讐したいという意識は僕の中にはあるらしい。しかし今の主人格である僕を納得させて行動に移させるためには、それがギリギリの線だったのだろう……。

 この思考はもうブラ信仰には逆らえない。何故かと問われてもそれは僕自身も覚えていない、魂に刻み込まれたそんな決意なのだろう。

 そんな規律に逆らおうとする裏人格は、その呪縛のような縛りからの抜け道を見付け出したようだ。

 今はもう居ない彼女を悼む想いと、その彼女から託された願いを両立させるにはこれしかなかったともいえる。

 不老不死の契約には、あーちゃん以外の恋愛対象となりうるもののためにはその力は使えないという縛りはあるらしいが、恋愛感情とは違い信仰心にまでは特に規制はされていないのだ。

 だから僕は、あの子の為にではなくブラへの信仰心故にあの死神と悪魔を討ち滅ぼす。そこに誰かへの想いなどは無い。

 愛も。
 恋も。
 罪悪感も、後悔も無い。
 ただ、ブラジャーさえ有ればいい。
 それが今の自分。

 これからは自分よりもこのポシェットの中にあるものを大切にしてくれと。そして、これからは自分の人生を歩んでほしいと、あの子は言ったのだから……。

 あの子にとってこの結論は本意ではなかったかもしれないが、僕なりにその願いを遂げようと最大限の決意が生んだ結果だ。

 自分は周囲の人々の想いを踏みにじる、そんな最低のクズ人間でいい。

 それが今の自分だ。

 自分の思考の確認するように、そんな言葉を頭の中で繰り返す僕に、イマトオはどうでも良さ気に訊ねてくる。

「あのさぁ、玲衣ちゃんだっけ? そう名乗ったあの子の本名を知っているんだけれど、いちおう教えておくかい?」

 そんなイマトオに対し、俺の意識は興味の無さそうな態度で視線だけを向けて答える。

「……まあ、どうせ忘れるからいいよ興味は無いし」

 僕はそうして、イマトオの申し出を断った。

 それを訊く意味は無い。

 その名は既に僕の心のどこかに巧妙に刻み込まれているのだろうから。

 それはもしかするとこの体が死しても消えないのかもしれない。

 その名前を知りたい?

 いいや、それは言わぬが花、知らないままでいいだろう。

 その名はこの心の奥底に有ればそれでいいのだから……。
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