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2章

なぜいつもそばにいる?

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「相沢、遅刻は外に立っとけ!」


いつものように廊下で反省。

こっちの学校に来てから、頑張って色々と直してったんだけど、遅刻だけは何故かダメ…

まあ寝る子は育つって言うし…

男子じゃなくて女子の廊下での反省。
最初はよっぽど珍しいらしく、校内の色んなところから覗きに来てたんだけど、最近は誰も見に来やしねえ。


数十分反省の後、一発頭を叩かれ教室の中へ。


こんな感じで、面白くないワンパターンの1日が始まる。





1時間目、数学。

黒板に理解不可能な数字と記号が並ぶ。

教師がバカな奴らを無視して授業を進めるので安眠が出来る。

3時間目、体育。

着替えの時の教室の外の様子が面白い。
突然、廊下に飛び出すと、2、3人の男子の姿が…

絶対覗いてないと言うけれど、嘘付けよ!
どんなに真面目そうにしたって、顔に出てるぜ。
素直に言えば、少しぐらいなら見せてやるのに…
減るもんじゃないしさ。

女子は女子で、たいして胸の無い奴が、一生懸命隠して着替えてる。
大丈夫だって。
そんな貧相な体、誰も見たがらないって…
女は"グラマラス"がポイントなんだそうだ。
兄貴たちが、エロ本を見せながら説明してくれた。
「お前も頑張ってこう言うナイスボデーになれ!」だってさ。
ただのデブにしか見えないんだけど…

最悪なのが昼休み。

やい!どこのどいつが、女の子はバレーボールって決めたんだ?
教室でくだんねー恋愛話をするのが嫌だから、外に出てんのに、みんなおちゃらけバレーばっかしてやがる。
俺としては、野球とかサッカーがしたいのに…

あの事件以来、親戚家族一同から「乙女変身命令」発令中。
今度こそ、絶対女の子らしくしないと、何が起きる事やら…

ちっきしょー!
なんで女って、こんなに面白くねえんだ。


学校が終わり下校時間。
ある意味、学校よりこの時間の方が苦痛かも知れない。

何故か俺の横にぴったり付いてくる物体。
なんでいつもこいつと一緒に帰ってんだろ…
いつの間にか、気が付けば横にいた。


「ななこさぁぁん、待って下さいよぉぉ!」

はぁー、ムカつく!
もっとチャキチャキ喋られないのか!

このオタク系の物体、となりのクラスの大野誠。

デブでトロくて、何1つ良い所が見当たらない。
俺に思いを寄せてくれてるのはわかるんだけど、兄貴たちの英才教育のお陰で、男の裏の裏まで知り尽くした俺が、男に恋愛感情を持つなど有り得ない。

そう兄貴たちのせいなんだ。
あいつたちのせいで、俺の人生は大きく曲げられた。

普通の14歳の女の子と言えば、オシャレや恋愛に多感なお年頃。
ネイルがどうだとか、このワンピがどうとか言われても、全くと言っていいほどわからない。
友達と話していても、宇宙人と話してるみたいで、いつも「可愛い~!」なんて適当な愛想笑い。

ぶっちゃけホントの友達がいねーんだよ。

いつも孤独なんだよ。
いつも1人ぼっちなんだよ。

泣き事言いたきゃねーけど、俺だって一応「女」なんだ。
ちょっとだけ女ってもんに憧れちまう…

ま、今更どうしようもないけどさ…


「な、ななこさぁぁん、ななこさぁぁんってば!」

な、なんだよ!

「さっきから怖い顔しちゃってぇ~ ななこさんらしくないですよぉ~」

やべ! 俺、男になってたか?

「ううん、なんでもない。」

ニッコリ笑顔。

「良かったぁ~! 怒ってるかと思った♪」

慣れってのは怖いもんで、最近こいつの喜ぶ姿が、一瞬可愛い時がある。

「ところでななこさぁぁん、今日学校で楽しい事ありましたぁ~?」

何故か毎回こいつは、同じ質問をしてくる。

「まぁ色々ね…」

いつも通りの無難な答え。

「僕はねぇ~… 今日も給食が最高でした♪」

はいはい。
よく毎回同じ事を、そんなに楽しそうに言えるね~…

「あ、そうなの… へぇ~…」

あ~ウザイ。
早く別れたい。

「今日、僕の家で遊びませんかぁ~?」

うっそぉー!
マジで!!!

「今日は何か用事があったような…」

誰が行くかよ。
いくら俺でも身の危険を感じる。

「ななこさぁぁん、いつも断りますよねぇ~ いつになったら来てくれるのかな…?」

死んでも行かね~よ。

「でもぼくぅ~そんなななこさんの照れ屋さんな所も好きですぅ♪」

うげっ!
さらに引っ付くんじゃねえよ!

は・な・れ・ろ!!!

流石に小走りで逃走モード。

「あぁ~… ななこさぁぁん、かけっこですかぁ~… ぼくぅ負けませんよぉ~!」

ち、違う!
追って来るんじゃねえよ!

逃げる俺。
追う大野。

ぶっちぎるつもりが、全く離れない…

あれ? こいつこんなに足が速かったんだ…

だんだん疲れてスピードダウン。
ヤバい! 追いつかれる!

「お先にぃぃぃ~!」

………???

なんで追い抜いた???


ドンドンちっちゃくなる大野の姿。


とうとう見えなくなっちまった。


何だったんだ今のは…?


こいつの行動はいつも変わってる。
この間だって、突然、空を指差して「あの雲に乗りません?」なんて言い出しやがって…

大野の理論では、何でも諦めたらダメなんだとか。
どんな事だって頑張れば、ゴールまで行けなくても、ちょっとでも近づく事が出来る。
最初から諦めていたら、同じ所につっ立ったまま。
つまり、少しでも進みたいなら、何でも諦めずにチャレンジする事が大切なんだそうだ。

言ってる事は正しいと思うけど、こいつの場合、違う訳じゃん。
どう考えたって、雲になんか乗れる訳ないし…
そんなの信じて、雲に乗ろうとするもんなら、周りからどんだけ馬鹿にされる事か…


だいたい、俺は何をしたってダメなんだよ……


…ん?
何か声が聞こえる。


「……さぁぁ~ん…」

なんと、大野が戻って来た!


「……はあはあ… なんでななこさんは走って来ないんですかぁ~?」

なんでって言われたって…


「諦めたらダメって言ったでしょ! そこで終わっちゃうって言ったでしょ!」

そんな真面目な顔で言わなくたって…

「僕はななこさんと一緒に走りたいんです! ななこさんじゃないとダメなんです!」


何を突然……

そんなに俺を見つめるな……


「……ぼく…」

……なんだよ。


ゴクッ…

なんだ?この変な気持ちは…


「ブランコを見つけちゃったんですぅ~♪」

な、なんだよ。
さっきの大野は何だったんだよ。

「あっちの公園に、ブランコがあるんですよぉ~ 一緒に乗りましょうよぉ~!」

なんでブランコ…?
ガキじゃないんだから……



数分後……



キーコー キーコー ……



「たっのしぃ~! ヒューヒュー!」

どうもこいつの頼みだけは、断れねえんだよなぁ~…

どう言う訳か、こいつと一緒にバカやってると、なんだか居心地良いし…

「ななこさぁぁん、ぼくね、占いを知ってるんですよぉ~」

占い…?

「こうやってブランコをこぎながら数を数えるんです。い~ちぃ~に~ぃ~さぁ~ん… そうやって、20まで数えたら思いっ切りジャンプ! その跳んだ距離で占いが出来るんですよぉ~♪」

なんだそりゃ?
そんな占い、聞いた事ないぞ。

…ま、いいか。
今日も大野のバカに付き合ってやろうっと。
面白いかも知れね~し…

「じゃあ行きますよぉ~! それっ! い~ちぃ~に~ぃ~……」

なんだかとっても懐かしい。
ちっちゃい頃、こんな事してたような…

「……じゅうごぉ~じゅうろくぅ~…」

もうブランコは、ずいぶんと高く上がっている。

「……じゅうしちぃ~じゅうはちぃ~…」

ちょ、お、大野!
ちょっと高く上がり過ぎなんじゃ…

「……じゅうくぅ~にじゅう! それっ!」

思いっ切りジャンプ!



あれ? 変だぞ?

いつまでたっても地上に降りない…

空中に浮かんだままだ。


俺は不安になり叫んだ。


「大野ぉーーー!!!」



その途端、今度は凄まじい力で地面に吸い込まれる。


どこまでも落ちて行く俺…

いつの間にか、気を失ってしまった。
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