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赤い服の女⑲ 再会

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-健太-
  喫茶店を出てこの周辺に留まるのはかなり危険だという事がわかったのでとりあえず今は駅の東口側にいるので反対の西口側へと移動する。
 
西口側は東口側と違ってゲームセンターやカラオケ等が沢山あるわけじゃなく、ファーストフード店が1件あるぐらいだから向こうにいるよりかはリスクは低いはずだ。
 
そしてその1件だけあるファーストフード店に入りやっと1人で考え事が出来る。
 
この後美優ちゃんが帰って来て近くにいたから合流しに行くわけだが、さて俺は駅周辺で何してたんだ?
何処か行ってた帰りに7時ぐらいにこの辺を通ったから
っていうのが1番自然かな?
 
じゃあ俺は今日何処に行った帰りなんだ?
1人でぶらっとツーリングか?明日行くのに?
いや寧ろ明日の下見がてら?
いやだいたいそこまで深くは聞かれないかな?
 
う~ん。これなら初めっから
『遅くなるんなら心配だし駅から送って行くよ』
って素直に言った方がよかったかな?
 
結局、考えがまとまらないまま7時を迎える。
 
「美優ちゃんから連絡ないなぁ」
そう1人で呟きながらスマホに視線を落とす。
 
『とりあえず駅に向かって行くか』
そう思いファーストフード店を後にする。
 
しかし駅に着いても美優ちゃんから連絡は無く、どうしようかと悩んでいたが
『仕方ない。改札の出口付近で待っていよう』
そう思い改札に向かって歩きだす。
 
今日、昼頃から駅前付近をずっとウロウロし、一旦バイク屋へ行ったがまた夕方頃からずっと駅前にいる。
 
もうここまで来たら立派なストーカーじゃないだろうか?と自分に問いただす。
 
そんな自問自答をしているとLINEの通知音が鳴る
 
『ようやく駅まで帰って来ました。
健太君はどうですか?
また教えてね』
 
来た!遂に。今日1日の苦労が報われる。
 

『おかえり~
  長旅お疲れ様でした。
  俺もちょうど今駅前にいたから改札まで迎えに行ってもいい?』
 
そう改札の出口付近からLINEを返す。
 
『やっと2人で会えるのか。まぁ明日まで待ってもいいんだろうけど、ちょっとぐらい今日会ってた方が明日も喋り易いと思うしな』
  
そんな事を考えてると美優ちゃんが駆け寄って来て
くれた。
 
そして美優ちゃんが『ずっと持っててね』と言って御守りをくれた。
 
『なんて良い子なんだ』
俺は素直に感謝した。
 
「九州へはお墓参りとか?やっぱり疲れてるかな?」
 
「ああ、うん。まぁおばあちゃんに会いに行ってたの。ちょっと疲れたけど電車で座ってただけだし大丈夫だよ。」
そう言って笑いかけてくれる。
 
『あっ今幸せかもしれない』
そんな些細な幸せを噛み締めていると突然
 
「あっ健太君」
 幸せな世界に浸っていたのに一気に現実に引き戻すこの聞き慣れた声は
 
「あっ佐和子・・・」
 
もう既に今日3度目だな・・・
今俺は女の子と2人で歩いてるんだから少しは気を利かせてスルーしろよ。
 
「あっ健太君今日駅前でウロウロしてたのって待ち合わせしてたから?」
 
おい!俺の今日1日を台無しにするなー!!
 
「おい。邪魔しちゃ悪いから行こうぜ」
 
泰文・・・ちょっと1歩遅いよ。
 
少し落ち込んでいたがふっと気が付くと美優ちゃんが横にピッタリ寄り添って腕を掴んで来た。
 
『えっ、これって?』
 
あまりの予想外の展開に混乱していたが状況を整理すると、
なるほど。
あいつら見た目やんちゃだからな。美優ちゃんを怖がらせてしまったかもしれない。
 
「ごめんね。変な奴らに絡まれちゃったね」
そう言って謝るが
 
「ううん。大丈夫だよ。楽しそうな人達だね」
そう言って微笑んでくれた。
 
しかしせっかく腕を組むようなシチュエーションになったんだ。
このチャンスを逃すものか。
 
「美優ちゃんご飯てどうするの?家で用意されてる感じ?」
 
「えっ、ううん。何も考えてなかった」
はにかんだ様に微笑んで来た。
 
「よかったら明日の事も話したいし何処かで食べない?」
 
「うん。いいね。そうしよう」
普段はキリッとした印象の目尻を今は下げながら笑いかけてくれる。
 
今日の美優ちゃんは色んな笑顔を見せてくれる。
それが嬉しかった。
 
駅前のファミレスで食事をしながら明日の事を決めていく。
集合は11時。
2人で気ままにツーリング
 
それだけ決めて美優ちゃんも疲れているだろうから今日はここまでとなった。
 
そして美優ちゃんを家まで送る事になった。
 
「大丈夫。膝で俺の腰辺りをグッと挟んでくれた方が安定するから」
 
「えっとこんな感じかな?」
 
「そうそう。後はしっかり掴まって身体を委ねてくれたらOK」
 
「はい。じゃあお願いします」
 
そう言って後からギュッと掴まってくる。
 
『ダメだ。今最高に幸せかもしれない』
そう思いながらも邪《よこしま》な考えもつい頭をよぎる。
 
「じゃあしっかり掴まっててね」
そう言ってバイクを発進させる。
 
事前に美優ちゃんから聞いて家の付近までは行き、後は美優ちゃんの指差す方へ行き無事、美優ちゃんの家までたどり着く。
 
「怖くなかった?」
初めてバイクに乗るという事なので気になって聞いてみた。
 
「うん。全然大丈夫だったよ。ありがとう送ってくれて」
美優ちゃんは元気な笑顔を向けてくる。
 
「そうか。よかった。じゃあまた明日やね」
そう言って帰ろうとすると
 
「健太君」
そう言ってぽんぽんと叩いてくる。
 
「ん?」
 
「あっ、えっと・・・やっぱり明日。明日楽しみだね」
さっきとは違う笑顔で笑っているがそれは、困っているようにも、戸惑っているようにも、本当に笑っているようにも思えた。
 
「とりあえず無事帰れたらLINEちょうだい。まぁ、私は忘れてたからアレなんだけど」
そう言って今度はいたずらっぽく笑う。
 
「大丈夫。俺はちゃんとLINEするから」
笑いながらそう言ってその日は別れた。
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