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赤い服の女 最後の戦い②

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-健太-
阿比留さんが着々と準備を進める中
「すいませんがコップに水を汲んできてもらえますか」

「あっ、わかりました」
そう言って下に降りて行くと美優ちゃんも付いてきた。

「ねえ健太君。緊張してる?」
そう言って美優ちゃんが不安そうな顔を見せる。

「えっ、あぁ、まぁそうかな」

「そっか。ならいいんだけど、なんか口数も少ないし、機嫌悪いのかな?私何かしちゃったかな?って不安になっちゃった」
そう言って美優ちゃんは困ったように笑う。

やってしまった。こんなに色々してくれてるのに俺は何をしているんだろう。
くだらない事で嫉妬し美優ちゃんを不安にさせてしまった。

「美優ちゃんごめん。大丈夫だから。傍にいてくれるだけで俺は安心出来るから、横にいてくれたら大丈夫だから」
そう言って美優ちゃんを引き寄せ抱きしめる。

自分の不甲斐なさと小者ぶりを痛感しながらも、『これからは美優ちゃんの為にも』と決意し、部屋に戻ると阿比留さんが準備を整えた所だったようだ。

「さぁ準備は整いました。始めましょうか」

そう言って阿比留さんは俺に座るよう促し

「佐宗さんちょっといいですか?」
そう言って美優ちゃんを呼び2人で内緒で話しだした。
さっきまでの俺ならイラッとしてたかもしれないが今は落ち着いていられた。

「えっ私がですか?わかりました」
そう言って美優ちゃんは俺の横に座った。

「何か言われた?」
俺は気になり聞いてみたが
「ううん。気にしないで。今は集中しよう」
そう言ってはぐらかされた。

「それではまずこの清めの塩を溶かした水を佐宗さんと2人で飲んでください」
そう言ってコップを渡されるがこの前の記憶が蘇り少し憂鬱な気分になっていると、
「この前気分悪くなったから嫌そうだね」
美優ちゃんが少し意地悪そうに言ってくる。

「いや、さすがにちょっと躊躇するなぁ」
少し苦笑いをしていると

「でも飲まないと進まないから頑張って。・・・それとも口移しがいい?」
最後は耳元で小声で囁き、少し意地悪そうな笑顔を浮かべている。

ぜひそれで!
そう思いながらもさすがにそれはお願い出来ないので気合いを入れて飲む事にした。

半分程飲み美優ちゃんに渡す。
美優ちゃんはすぐに飲み干し「ふぅ」と一息つく。

「薄い塩水だと思うんだけど、どう?」

「いや、凄く不味いんだけど俺の味覚がおかしいのかな?」
美優ちゃんと2人話していると

「では2人ともこの形代かたしろに息を吐きかけてください」
そう言って人型をした紙を渡される。
言われた通り息を吐きかけ阿比留さんに渡す。

「ねえ美優ちゃん。今、女の霊はいる?」
俺はどうしても気になり聞いてみた。

「ううん。今は見えないけど、・・・なんかね、ずっとこの部屋の空気が重い気がするの」
そう言って美優ちゃんは困惑の表情を浮かべている。

「それではお2人ともこれを首にかけ目を閉じて合掌してください」
そう言って勾玉の付いた紐状のネックレスのような物を渡されたので、従う。

それを確認し阿比留さんが何か呪文のような物を唱え始めると、途端に気分が悪くなる。
この前程の気持ち悪さまでは行かないがそれでも十分気持ち悪く息遣いも荒くなる。

「大丈夫?頑張って。まずはゆっくり呼吸しよう」
そう言って美優ちゃんが肩を抱き励ましてくれる。

美優ちゃんに言われるようにゆっくり深呼吸しながら落ち着こうとしていると、

「え~い!!」
『ビシッ!!』
背中に強烈な衝撃が走る。

「ぐはっ・・・えっ、何?」
俺は今度は物理的な痛みに苦しんでいると、

「痛っ・・・!ごめんね。健太君大丈夫?」
そう言って美優ちゃんが右手を押さえながら苦笑いを浮かべている。

どうやら美優ちゃんに思いっきり背中を叩かれたようだ。

さっきまで優しく肩を抱き励ましてくれてたと思ったらいきなり背中を全力で叩かれ、不意打ちにも程がある。

でもそれは憑いていた霊も同じようで、

「出たよ健太君」

そう言って美優ちゃんの表情が引き締まる。

俺は何も見えないが2人の視線が1点に集中している。
恐らくそこに女の霊がいるんだろう。

阿比留さんがそこに形代を置き呪文のような物を唱え続ける。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」
美優ちゃんも九字を唱え指を縦横に切る。

俺はその場で渡された勾玉を握り締めるしか出来なかった。

少し空気が震えた様な気がしたその時

「絶対に健太君は渡さない!絶対に!」
力強く叫び、よろめき倒れそうになる美優ちゃんを咄嗟に抱きしめる。

「あの女の霊の記憶が・・・」
そう言って美優ちゃんは意識を失った。

「え~~い!!」
阿比留さんも続いて力強く叫び一息をつく。

「さぁ後はこの形代をお焚き上げすれば終わりです」
そう言って阿比留さんが形代を大事に拾い上げる。

「一瞬ですが佐宗さんの中にも入ったのかもしれませんね。少し落ち着くまで待ちましょうか」
阿比留さんがそう促す。
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