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N.G397年 ラフィン戦争②

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 N.G0397年四月
 依然戦争を優位に進めていたラフィン共和国だったがそんな中、ラフィン共和国軍本部へザクスは呼び出しを受けていた。
「ザクス・グルーバー中佐只今戻りました」

「よく来てくれた中佐。実は部隊再編に伴い君に部隊を一つ任せたいと思っていてね、どうだ引き受けてくれるかね?」
 
 これまでザクスは研究室や実験施設に籠り研究や実験を重ねてきた。時にはこの前のように試作型を試す為に前線に行く事もあったが所詮は技術士官、後方で研究開発にあたる事の方が圧倒的に多かった。
 そんな自分に部隊を一つ率いろ? 一体軍は自分に何を求めているのか? ザクスは困惑の色を隠せなかった。

「いや、自分は技術士官です。そんな自分が部隊を率いて何をすればいいのですか?」

 素直な疑問をぶつけるザクスを見て呼び出した将軍はニヤリと笑った。

「確かに君は技術士官ではあるが優れたソルジャーでもあるね? 先の補給基地での戦いも聞いているよ。君程優秀な戦力をただの技術士官として後方に置いておくのはもったいない。そこで、君には部隊を率いてもらい、そこで開発した試作品を君達で試してもらいつつ、前線での作戦にも参加してもらいたい。勿論君にもメリットはある。軍から命令がない限りは好きに動いてもらってかまわない。君の好きに動かせる独立した部隊だ。それともう一つ、君を大佐に昇格させよう。これまで開発してきた兵器とこの前の戦果の報酬だよ。どうかね?」

 得意げな笑みを浮かべ前のめりになって尋ねてくる将軍に対して、もはやザクスに拒否権はないように思えた。仕方なくザクスは了解する。

「しかし将軍。自分は所詮技術屋です。最悪、作戦の立案等をサポートしてくれる人材が一人は欲しいのですが」

「わかっておる。君に部隊を任せるとなった時に真っ先に名乗りを上げた人物がおってな。そ奴は今までも部隊を率いていたから最高のサポートをしてくれるだろう」

 将軍からそう聞かされある男が頭に浮かんだ。

 あまり乗り気がしないまま将軍に教えられた部屋の前までやって来たザクスだったが部屋の扉を前に一度立ち止まる。
『この部屋であってるよな? やけに部屋が静かに思うんだが大丈夫だろうな?』
 今一度部屋の番号を見て合ってる事を確認したザクスは扉を開け部屋に一歩踏み入れた。
 次の瞬間――

「全員! 敬礼!!」

 ザクスが部屋に入るやいなや怒号の如き掛け声と共に全員が直立不動で立ち敬礼をしている。
 あまりの出来事に寧ろザクスの方が圧倒されていたがひとまず皆の前に立ち敬礼を返していた。

『まずい。俺が来るまでずっと直立不動で待ってたのか? 威厳のある話し方した方がいいのか? いや無理だぞ』

 敬礼をしながら全員を見渡しザクスは悩んでいた。本当はもっと気楽に話したいのに全員の顔が強ばっているからだ。
 この部屋の雰囲気を作り出しているのは恐らく部屋の端から最も綺麗な敬礼をし熱い視線を送ってきているヴェルザードのせいである事は明白だった。

「皆ご苦労。ひとまず座ってくれ。このままじゃ話し辛くてしょうがない」

 ザクスが笑って皆に語り掛けると一人を除いて座り、数人の表情は綻んだ。しかし大半の者はいまだ緊張の面持ちでじっと見つめてきている。

「ヴェルザード。君も座ってほしいんだが?」

「いえ、自分はここで大丈夫です」

 そう言って後ろ手に組み直立不動のままヴェルザードは立っていた。
『彼はそっとしとくか』
 そう思いザクスが挨拶を始めようとすると突然部屋の扉が勢い良く開く。

「す、すいません。遅れてしまいました。部屋を間違えてしまって……」

 彼女は頭を下げながら入って来て可憐な笑顔でやり過ごそうとしたがすぐにそれが通用しない雰囲気である事を察したようだ。

「貴様……何を考えている! 所属と名前を言え!!」

「ひっ!! な、名前はエルザ・アンダーソンです。所属は……」

 怒りに震えるヴェルザードが怒号を浴びせるとエルザは体をびくんとさせて怯える様に報告するが自らの所属の所で言葉に詰まってしまった。

「所属はウチだよな。ヴェルザード、今日は我々の初顔合わせだ。怒る気持ちもわかるが今回は大目に見よう」

 ザクスが優しくエルザに語り掛けると振り返りヴェルザードにも同じく語り掛けた。若干納得出来ない様な表情を浮かべたヴェルザードだったがザクスに言われては仕方ないとばかりに引き下がる。

「しかしエルザ・アンダーソン。初回から遅刻して何も罰しないのでは示しもつかない。そうだな、今回はヴェルザードの横でずっと彼と同じ様に立っていてもらおうか。どう思うヴェルザード?」

「ザクス大佐がそう仰るなら問題無いかと」

 ヴェルザードが納得した様に敬礼すると、エルザも即座に横につき「申し訳ありませんでした」と言って同じく敬礼をしていた。

「さてと、ではようやく始めようか。皆お疲れ様、俺がこの隊を率いるザクス・グルーバー大佐だ。皆は……」

 ドタバタとした始まりではあったが、この日ザクス・グルーバー大佐率いるラフィン共和国第十四独立機動隊が結成された。
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