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N.G397年 ラフィン戦争⑩

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「急げ! 一気に突破するぞ!!」

 ザクスの命令と共に猛スピードで突っ込んで行く。焦土と化した地では殆どのセントラルボーデン兵が力尽き、息のある者達も戦意を喪失し猛スピードで抜けて行くザクス達をただ見つめているだけだった。

 しかし背後からは別部隊が迫って来る為、ザクス達はそのまま速度を緩める事なく国境越えを目指す。そして国境付近まで来た時、目の前には最後の難関が待ち構えていた。

「大佐! 国境付近に再びセントラルボーデン軍が集結しています。敵の数およそ百、距離およそ五千」

 望遠で敵を確認したオペレーターが緊張感を持って叫んでいた。

「二十人足らずの部隊に大層な出迎えだなおい。速度は落とすな! 距離三千まで来たら赤の信号弾を撃て!」

 ザクスが皮肉めいた笑みを見せた後、部下に命令を下す。

「大佐の先程の魔法があれば突破出来そうですが?」

「あれはもう使えない。バトルスーツの方がもう限界にきてる。このまま戦闘になったら俺はバトルスーツ無しで生身で戦う事になりそうだ」

 ライデルの問い掛けにザクスは笑みを交えながら答えていた。
 実際ザクスのバトルスーツは先程の戦いで魔法を使った直後に煙を上げて至る所がショートしていた。これは強過ぎるクリスタルの魔力にバトルスーツがついて来れなかった事が原因と思われる。

 その後敵部隊との距離が近付き部下は命令通り信号弾を撃ち上げた。
 すると国境の向こう側、つまりラフィン共和国側から敵部隊に対して銃撃が始まった。正面から向かって来るザクス達に集中していた敵部隊は突然の背後からの攻撃に慌てふためく。すかさずザクス達が正面から突入し、挟撃すると敵部隊は総崩れとなりザクス達は国境を突破しラフィン共和国側に辿り着いた。

「ヴェルザード、さすがだな。絶妙なタイミングでの援護だった」

「ありがとうございます。私以上に大佐に合わせられる者などいないと自負していますから」

 自らの本隊に無事合流したザクスが労いの言葉を掛けながら握手を求めるとヴェルザードは頭を下げ謙遜しながらもザクスの手を握り胸を張った。

 しかし救助したR.R隊の隊員達や今回救助作戦に従事した兵数名も負傷した為、一度非戦闘地域となっている中立地帯『サリア』まで下がる事になる。

 中立地帯『サリア』
 そこはセントラルボーデン国家にもラフィン共和国にも属さない中立した非戦闘地域である。多数の病院や医療施設を有しており主に戦争で負傷した兵や一般人等を受け入れ治療にあたっていた。
 そしてこのサリアに運び込まれる負傷者、それに付き添う者、出入りする全ての者は武器の持ち込みは一切禁じられている。
 ウィザードであっても一切の魔法の使用は禁止されており、これを破ればその者だけではなく所属する軍や国にまで重い罰則を課す事になる。
 故にサリア内では平穏を感じる事も出来たのだ。

「ではヴェルザード、少しの間、隊を頼んだ」

「ええ、お任せ下さい。僅かな時間ですが休息を楽しんで来て下さい」

 部隊をヴェルザードに任せ、ザクスは負傷者達と共にサリアの街へと向かって行った。
 サリアの街に入り、負傷者達を病院に預けるとザクスは街にあるオープンカフェに行き、テラス席で一人コーヒーを嗜んでいた。
 特に何かをする訳でもなくゆらりと流れる時間の中、コーヒーを飲みながら街行く人々を眺めている。すると後から聞き覚えのある声が聞こえた気がした。

「アイスコーヒーブラックで頂戴。あっ、出来れば濃いめでお願い」

 疑問に思いながら振り返る。そこには私服姿にサングラスを掛けたクリスティーナが少し離れた席で一人座っていた。

 ザクスは思わず席を立ち歩み寄って行く。しかし途中まで来た所で立ち止まってしまった。
『いや、今声掛けるべきか? 敵同士なんだし、何より今は一人でも誰かと待ち合わせの可能性もあるよな?』
 様々な事が頭をよぎる。

 意気揚々と立ち上がり近寄って行ったがいきなり困惑した様に立ち止まったザクスは周りから見れば挙動不審に見えていただろう。

 そんな周りからの不思議な視線が自らの後に向けられている事に気付いたクリスティーナが振り返ると背後に立つザクスと目が合った。

「わっ、ちょ、ちょっとそんな所で何してるのよ?」

「え? いや、ナ、ナンパしようかと」

 驚き問い掛けたクリスティーナに対して思わず心にも無い言い訳をしてしまう。しかしクリスティーナは吹き出し楽しそうに笑っていた。

「ふふふ、そっか、私ナンパされそうだったんだ。とりあえず座ったら? 貴方みたいに背の高い人が立ってたら目立つから」

 そう言ってクリスティーナが隣の椅子を引き促してきたのでザクスはひとまず腰掛ける。

「それで……君は何してるんだ? こんな所で」

「クリスでいいって言わなかった? 私は今イケメンな大佐さんにナンパされてたの。貴方は?」

 ザクスの真面目な問い掛けにクリスティーナは満面の笑みを浮かべて答える。

「……俺は仲間を病院に送り届けた後、ゆっくりコーヒー飲みながら一服してたんだよ」

「なるほど、似た様な物ね。私も病院に仲間送って行った帰りにカフェで落ち着こうとしたらナンパされちゃったのよ」

「しつこいな。声掛けちゃ悪かったか?」

 ずっとニヤニヤと口角を上げて話してくるクリスティーナにザクスも笑って返していた。

「ふふ、結果声掛けてくれなかったくせに。まぁいいわよ、どうせ退屈してたしお話しましょう。今日はゆっくり出来るでしょ?」

「ああそうだな。俺の事はザクスでいいからな」

「貴方有名過ぎてザクスなんて呼んでたら皆振り返るでしょ。ザックでいい? 顔が知れ渡ってないのが救いね」

 予想外な場所で再会を果たした二人はその後暫くティータイムを楽しんだ。
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