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しがらみ編

入会するメリット

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「カヤはどうなの?」
「うん、アンタに会う前は殺す方向で考えていたわ」 
「そんなぁ、かやちゃーん」
「いや、アカネ、まだ殺してないし」
「今は違うと?」 
カヤは椅子の背もたれに寄りかかって、腕を組みながらこちらを真っ直ぐに見つめてくる。

「アンタがいるから」
 
 自信満々な目でこちらを射抜いてきた。
 思わず視線を逸らしてしまう。
 確かにたまたま前世の仕事スキルで色んな人を救うことは出来たが、この世界じゃEランクで下から数えた方が早い存在だ。
 五神族ではない人間だし、そもそも異世界人だ。
 蒼い瞳はどこまでも透明で30年以上生きてきて、こんなに純粋な眼は初めて見たように思える……そして、この眼差しは俺を信用してくれている。
 はは、やれやれ、しがらみに馴染まされていくな。

「理由はともかく、殺して片を付ける方向じゃ無くてよかった。一人殺すだけでは済まなくなるし、大切な人も去っていくかもしれないからね」 

 アカネの方へとほほ笑む。

「おにいちゃん」
「それなら王道で、カイロン商会よりボッカイ魔法協会に入りたくなるようにするしかない」
「……だから、それを話しなさいよ」
「慌てるなって、聞きたいことは沢山あるんだよ」
「はぁ……長くなりそうね、それじゃ、食べたものを片付けしてからね」 

 食器を洗ったあと、場所を移して作戦会議室で話し合うことになった。

「さて、何が聞きたいワケかしら?」 

 円卓テーブルに肘をつきながらアカネは憮然とした表情をしている。

「そもそも前までは無資格魔術使い達にどうやって入会を促してきたんだ?」
「そりゃ、無資格どもに会うたびに勧誘してあげてたわ」
「勧誘? ……それって脅迫の間違いじゃない?」
「……うんうん」 

 アカネの肯定にカヤはムムっとした顔になる。

「カヤからすれば、入るのが当然という気持ちは分かる。しかし、無資格魔術使いはどうなの? 入ることによるメリットはあるの?」
「メリット? なんで、メリットなんて考えるの!? 入ってないことがデメリットじゃない!!」
「どうして?」
「どうしてって、まともに魔術も使えず不安定な魔術紋で暴走したら魔物化して自分だけじゃなく周りの人も危険にさらすのよ? そんなままで良いワケないじゃん!」
「そのことをちゃんと相手に伝えている? もしくは伝わっている?」

 ごく一部が魔物化する程度なら、自分は大丈夫だと根拠のない自信で見て見ぬフリをし続ける魔術使いは少なくないだろう。それに勝るほど魔術の力は代え難いものと感じているに違いない……不安を抱えたままだろうが。
 興奮して立ち上がっているカヤの動きが止まる。

「……入ってから教えるつもりだったわよ?」
「ちなみにアカネは、どうなの?」
「え、え、ボク? ……ボクは人と話すの苦手だから」
「そうか、なら逆に良かったかもしれない」

 えー! と二人は不思議そうな顔になっている。

「聞いた限りでは、無資格魔術使い達は、ボッカイ魔法協会に入るメリットを感じてないのではなく、ボッカイ魔法協会に入るメリットを知らないだけかもしれない」
「あー、そうかもね」 

 そうかもねって、ほんとおかしなところが抜けているんだよな。

「納得してないで、それなら動けばいいんだよ。知ってもらうために広告をするんだ

「こうこくをする?」
「そう、入ることによって得られるメリットを書いた紙チラシを手渡しで配るのさ」
「だれが?」
「三人でだよ」 
「わかった、パシーを殺そう」  

 どこかに行こうとするカヤにアカネはしがみつく。

「離してアカネ! ボッカイ魔法協会会長のアタシが下賤な者がやるような事を何故しなきゃいけないの? 屈辱よ、こんなのアンフェアよ!」 

 うがーっと暴れるカヤにブンブンとアカネが振り回されている。

「うわーん、お兄ちゃぁぁん」 

 眼がバツ印になってしまっているアカネを助けるためにここはカヤをチョロくしなければ。

「いや、だからこそカヤにしか出来ないんだ!」
「私にしか……出来ない?」 

 ピクピクっとカヤの耳が動いている。いいぞ、小チョロだ。

「そうだよ! えーっと……高貴で気高く最強なカヤ・シドウが敢えてチラシを配るからこそ意味がある」
「高貴で気高く美しく可愛いアタシが……」

 いや、そこまで言ってないけど、ノッてくれているならドンドンいこう!

「そう、天井に咲く可憐な花のようで実は隠れ巨乳」
「え!?」「え!?」「え!?」 

 やばー、慣れないことを言ったせいかオブザーバーで見てしまった隠れ巨乳情報が駄々洩れだ!
 な、なんとか誤魔化そう

「か、隠れ居住している場所から、とうとうボッカイの街に降り立った魔法の王、その名は魔王カヤ! それがこの企画のコンセプトなのだ!」 

 き、キツイ、隠れ居住ってなんだよぉ。

「アタシ、チラシ配る!」

 大チョロ入りました!
 大きく頷くカヤにアカネは笑顔で抱き着いた。
 まぁ、結果オーライか。

「か、勘違いしないでよね! 別にアンタの為にチラシ配るワケじゃないんだから!」
「いや、会員増強のためだろ」
「アンタ、ホントにムカつく! キー、ムカつく!」 

 言質は取ったのでキーキー言っているのを無視する。

「でも、チラシを配っただけで入会してくれるのかなぁ」 

 不安げなアカネの頭をポンポンと叩く。

「そこはとっておきのアイデアがあるんだ」
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