お兄ちゃんは妹の推しキャラに転生しました

negi

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24 アリスター

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 生徒会室の中はちょっと物々しい雰囲気で、兵士が壁際に並んで立ち、拘束された二人の後ろに暴れない様に一人づつ兵士がついて腕を抑えている。二人の前に立つのは殿下、イグナーツ、クラレンスと、隠れていた俺も出てきてその後ろにはヒューイもいる。

「くそっ、アリスターを離せ! アリスター! アリスター!」

「なんで? クラレンスは俺の言う事聞いてくれるんじゃないの? ダニエルに魅了が効いてるのに、なんであんた達には効かないんだよ!?」

 喚き散らすアリスターに向かって殿下が告げた。

「女神から力を授かったセレスティン・アッシュフィールドがいる限り、私達にはお前の魅了は効かないし、クラレンスも元に戻っている」

 ……今、耳を疑う発言が聞こえた気がする。

( ちょっとぉぉ!? 殿下? ここで女神ネタ出すの止めてー! )

 叫び出しそうになった俺と違ってクラレンスとイグナーツは平然としてるし、ヒューイも何故か頷いてて兵士達の視線が俺に集まってる気がする。いたたまれないのは俺だけみたいで、殿下が俺を見て言った。

「さあ、セレス。まずはダニエルを元に戻してやってくれ」

「…わかりました」

 もちろん直ぐ戻してあげたいと思っていたからダニエルの前まで行って膝をついて肩に手を置いた。そうすれば、クラレンスの時と同じように少しぼんやりとしてから目を見開き愕然とした表情に変わった。

「俺はっ、なんでこんな事をっ? ふぐっ! うっ…。はぁ、はぁ、申し訳、ありませんっ…ぐぅっ」

 殿下が許可して拘束を解かれたダニエルは蹲って頭を両手で抑えていて苦しそうだ。やはり酷い頭痛に襲われているのだろう。兵士に支えられてソファーに運ばれても自分を責める言葉が聞こえてくる。そんなダニエルの変化をすぐ側で見せられたアリスターが顔を引きつらせて俺に向かって喚き散らす。

「なにあんた⁉ なにをしたんだよ! こんな、元に戻すって…。大体なんでここにいるんだよ! あんたはケイデンに犯られた筈なのにっ…ぐっ」

 殿下の威圧がアリスターにのしかかる。苦しそうに呻いたアリスターの身体が床に転がった。そこに殿下の冷たい声が宣告した。

「お前はもう二度とその魅了の力を使う事は出来ない。セレスが封印するからだ」

「は…? 封印? 嘘だ! これは俺がこの世界に来た特典で貰ったんだぞ! そんな事出来るわけ無いだろっ!」

「では、両目を潰すのでもかまわないが…。セレス、お願い出来るかな?」

 残酷な事をさらりと言った殿下が兵士に指示して転がっていたアリスターを座りなおさせて後ろ頭を掴んで固定した。

 殿下に言われて今度はアリスターの前に立った。押さえつけられた顔が憎しみに歪んで俺を睨みつけてきた。きっとこの人は反省なんてしないタイプなんだろうな。

「君の魅了の力は人の心を壊し尊厳を奪うものだ。決してこの世界にあってはならないものだから封印する」

「うるさい! みんな俺の言いなりになるはずだったんだ! お前なんかに邪魔されなきゃ、この国を好きに出来たのに。お前さえっ、ぐぅっ…」

 兵士の拘束が強くなり呻くアリスターの額に指を伸ばす。触れる寸前に吸収されていた銀のプレートを出してそのまま押し当てた。プレートはまばゆい虹色の光を放ち室内がまるでミラーボールに照らされたようになった。指を外しても額に張り付いていたプレートは吸い込まれるように吸収されていってそれに伴い光も消えていった。
その様子を見た室内の人達から驚きの声が上がり、アリスターの身体がびくりと跳ねて硬直したかと思うと絶叫が上がった。

「うわああああああっ!! やめ、やめろぉぉっ! あああああっ!! 俺、俺が、消える! 俺が無くなるぅっ⁉ 嘘だ!こんな、………あ、」


 見届けている俺達の前で急に静かになったアリスターの目が虚ろになり、身体から力が抜けてぐにゃりと崩れ落ちるのを拘束していた兵士が受け止めて床に寝かせた。


 これで魅了のスキルは封印出来た筈だけど、確かめるにはどうしたら…

 すると、寝かされたアリスターから嗚咽が聞こえてきた。

「うぅ、…ありが、とうございます。ずっと、支配、されていて、表に出る、事が出来ませんでしたっ。これで、やっと、う、ぐす、」

 泣きながら言っている内容に驚きが隠せない。今言葉を発しているのは本来のアリスターなんだろうか? 殿下たちも訝しげに顔を見合わせている。

「支配されていたとはどういうことだ?」

 まだ疑いを含んで殿下が問いかける。アリスターは寝転がっていた身体を起こし拘束された状態で跪き、何とか姿勢を正して顔を上げた。涙の残るその顔は作りは同じなのにまるで別人だった。

「私は頭の中に入り込んできた男にずっと行動を支配されていたのです。けれど、セレスティン様が女神様の力でその男を私の中から追い出してくれたのがわかりました。本当に、なんと感謝をお伝えすれば良いのかわかりません…」

 そう言ってまた涙を流すアリスターに嘘を言っている様子は感じられない。魅了スキルを封印するどころか転生者の魂ごと追い出してしまったと言う事だろうか。



 既に消灯時間を過ぎているのもあって詳しい話を聞くのは明日に見送る事となった。それまでアリスターは寮の部屋に軟禁されることになり、兵士に連れられて生徒会室を出て行った。ダニエルは兵士が用意した担架に乗せられて医務室に運ばれることになった。流石に明日の話し合いへの参加は無理そうだ。

 ダニエルを見送ってから殿下が口を開いた。

「明日の朝アリスターの尋問を行うので三人には同席してもらいたい。クラレンス、体調は大丈夫か?」

「ああ、心配ない。私は魅了されていた時間が短かったおかげで酷い状態にはならずに済んだからな。セレスティンのおかげだ。本当に感謝している」

「たまたま近くを歩いていたから直ぐ気付けたので良かったです」

 本当にあのタイミングで見かける事が出来て良かった。それが切っ掛けになってアリスターの捕縛に辿り着けたんだと思う。

 それから俺達五人も解散してそれぞれの部屋に帰ることになり、殿下が私室の扉の前まで付き添ってくれて包帯の巻かれた俺の手を取りそっと撫でて気遣ってくれた。

「色々あって疲れただろう? 明日の話合いまではゆっくり休んだ方が良い」

「はい。お休みなさい。ジークハルト様」

 「ああ、お休み。セレス」

 触れるだけのキスをして一度胸に抱きしめてくれた。なんだか離れがたくて背中に手を回して自分からも抱き着いて胸に顔を埋める。

「そんなに可愛いと帰りたくなくなる…」

 そう言って強く抱きしめてくれた後、もう一度キスを交わして殿下は帰って行った。






 一人になってベッドに入ってから、初めてこちらから声をかけてみた。

「なあ、アリスターの魅了のスキルは封印したよ。これでこの国が滅亡する未来は回避できたのか?」



 次の瞬間、俺はあの白い空間にいた。



『 もちろんよ~! 本当にありがとう! 』

「でもまだ殿下の婚約者に決定してないよ?」

『 あれはあなたが消極的だったから…ね? ごめんなさ~い! 』

「は? なんだよそれ。…まあいいや。アリスターの魅了を封印したら人格が変わっちゃたんだけど?」

『 パッチが強すぎて弾き出しちゃったんだよねー。あれは無理やり輪廻に帰しといたから心配ないよ 』

「封印どころか消滅させちゃったのか?」

『 後は運め・の番・なるだ・よ~。うふふふっ 』

「その運命の番ってなんだ?」

『 こらっ、駄目よ! 干渉することを言っちゃあ 』

「あ~、それでぶつぶつ途切れるのか?」

『 本当にありがとう~。もう大丈夫だから安心してね~ 』




 白い空間はいつの間にか自室のベッドの上に戻っていた。柔らかな布団に沈んでいると眠気が襲ってきた。今日は、本当に疲れた。
 それに、この国の滅亡は回避できたんだ。もうゆっくり休もう…。




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