65 / 89
65 マーカスの兄
しおりを挟む
「神子様、私はシェリング男爵家嫡男のダレルと申します。お目にかかれて光栄でございます。私共の領地を癒してくださりありがとうございます」
マーカスの兄は俺の前で膝をつき綺麗な挨拶をした。確かに委縮した感じは無い。
話を聞くと、彼らが出てきた集落で大怪我を負った人がいると知らせを受けて、その治療のためにここに来たのだと言う。
「私は僅かばかりですが治癒魔法を使えます。少しでも助けになればと駆け付けたのですが…」
そこで突然、ダレルが両手を地面について平伏した。
「神子様、お願いでございます! どうか彼の傷を癒してはいただけないでしょうか!? 私では無理でしたが神子様なら! 彼には妻子もいて、」
「うん。いいよ」
「ぶしつけとは思いますが、…は? あの…」
「その人の所に連れて行ってくれる?」
俺の言葉にダレルの顔は歪み、ぽろぽろと涙をこぼしている。兄弟揃って涙もろいみたいだ。ダレルは何度もお礼を言いながらマーカスと一緒に怪我人のいる家まで案内してくれた。
到着した家は集落の中で一番大きかった。この辺りの畑をまとめる役目を任せている人の家らしい。ダレルの呼びかけに出てきたのは酷く顔色の悪い女性だった。
「エリーゼ、顔色が良くない。治癒魔法を使い過ぎているな」
「ダレル様、でも、何とかしたくて、う、うぅ」
「神子様が診てくださるよ。ベスティンの所までご案内して」
「み、神子様?! ひっ、も、申し訳ございませんっ、私、」
ダレルの言葉に初めて俺たちに気付いた彼女は真っ青になってしまい、ぶるぶる震えて膝をつこうとするから慌てて止めた。
「あぁ、挨拶とかはいいから! それよりも、怪我人のところまで連れて行ってくれると嬉しいな」
俺から直接声をかけられると思っていなかったらしくて、驚きのあまり固まる彼女をマーカスが促す。
「アキラ様の治癒魔法は素晴らしいと王宮でも評判です。早くご主人の怪我を診てもらいましょう」
彼女はマーカスの言葉に泣きそうになりながら家の中に俺たちを招き入れてくれた。直ぐに怪我人のいる寝室に案内され、そこには痛みに呻く大柄な男性がベッドに横たわっていた。
「ベスティン! 神子様が診てくださるわ。きっと大丈夫よ」
男性は彼女の呼びかけに薄っすら目を開いたが、呼吸も荒く熱もあるようで朦朧としていてそれ以上の反応が無い。急いだ方が良さそうだ。
「どんな怪我なのか教えて」
「は、はい。主人は娘を庇って魔獣に襲われて、足と腕を爪で…」
布団をめくりながら教えてくれたので傷を確認出来たのだが、左手と左足に巻かれた包帯は血が滲み、それに頬に当てられたガーゼにも血の染みがあった。
この男性、ベスティンは元貴族で魔法を使えるので魔獣は倒すことが出来た。けれど娘を庇う事を優先したため大怪我を負ってしまったらしい。
「じゃあ治療するよ。浄化もしないとね」
魔獣にやられた傷だから、司祭が言っていたように治癒魔法だけでなく浄化魔法も使ってみた。きらきらと光の粒子が傷部分に降り注ぐ。
妻のエリーゼが見守るなか、呼吸も正常になり顔色も良くなったベスティンが今度はしっかりと瞳を開いた。それだけでなく、呆然としているけどベッドから起き上がって俺たちを見て驚いている。
「ダレル? なぜここに? 俺は…、どうして痛みが無い?」
「あぁ、あなた、ベスティン! 良かったっ。ううぅ…」
感極まって抱き着くエリーゼを受け止め、まだ混乱しているベスティンにダレルが説明をはじめた。
「ベスティン、本当に良かった。お前の傷は神子様が治してくださったんだよ。私やエリーゼの魔法ではどうにもならなかったのに、一瞬で治してしまわれたんだ」
俺が神子だと聞かされたベスティンは更に驚き、慌ててベッドから下りようとした。
「起きなくていいから! それより傷がちゃんと治ったのか確認してみてよ」
元気そうだけど血の滲んだ包帯が巻かれたままだ。俺に言われたベスティンがエリーゼと一緒になって包帯を外していく。頬に当てたガーゼも取ると、全ての傷は塞がり血も出ていない。痛みも無いようだ。
でも、魔獣に付けられた傷跡は消えずに残ってしまっている。
本当に治癒魔法では消せないのだと確認できてしまった。
マーカスの兄は俺の前で膝をつき綺麗な挨拶をした。確かに委縮した感じは無い。
話を聞くと、彼らが出てきた集落で大怪我を負った人がいると知らせを受けて、その治療のためにここに来たのだと言う。
「私は僅かばかりですが治癒魔法を使えます。少しでも助けになればと駆け付けたのですが…」
そこで突然、ダレルが両手を地面について平伏した。
「神子様、お願いでございます! どうか彼の傷を癒してはいただけないでしょうか!? 私では無理でしたが神子様なら! 彼には妻子もいて、」
「うん。いいよ」
「ぶしつけとは思いますが、…は? あの…」
「その人の所に連れて行ってくれる?」
俺の言葉にダレルの顔は歪み、ぽろぽろと涙をこぼしている。兄弟揃って涙もろいみたいだ。ダレルは何度もお礼を言いながらマーカスと一緒に怪我人のいる家まで案内してくれた。
到着した家は集落の中で一番大きかった。この辺りの畑をまとめる役目を任せている人の家らしい。ダレルの呼びかけに出てきたのは酷く顔色の悪い女性だった。
「エリーゼ、顔色が良くない。治癒魔法を使い過ぎているな」
「ダレル様、でも、何とかしたくて、う、うぅ」
「神子様が診てくださるよ。ベスティンの所までご案内して」
「み、神子様?! ひっ、も、申し訳ございませんっ、私、」
ダレルの言葉に初めて俺たちに気付いた彼女は真っ青になってしまい、ぶるぶる震えて膝をつこうとするから慌てて止めた。
「あぁ、挨拶とかはいいから! それよりも、怪我人のところまで連れて行ってくれると嬉しいな」
俺から直接声をかけられると思っていなかったらしくて、驚きのあまり固まる彼女をマーカスが促す。
「アキラ様の治癒魔法は素晴らしいと王宮でも評判です。早くご主人の怪我を診てもらいましょう」
彼女はマーカスの言葉に泣きそうになりながら家の中に俺たちを招き入れてくれた。直ぐに怪我人のいる寝室に案内され、そこには痛みに呻く大柄な男性がベッドに横たわっていた。
「ベスティン! 神子様が診てくださるわ。きっと大丈夫よ」
男性は彼女の呼びかけに薄っすら目を開いたが、呼吸も荒く熱もあるようで朦朧としていてそれ以上の反応が無い。急いだ方が良さそうだ。
「どんな怪我なのか教えて」
「は、はい。主人は娘を庇って魔獣に襲われて、足と腕を爪で…」
布団をめくりながら教えてくれたので傷を確認出来たのだが、左手と左足に巻かれた包帯は血が滲み、それに頬に当てられたガーゼにも血の染みがあった。
この男性、ベスティンは元貴族で魔法を使えるので魔獣は倒すことが出来た。けれど娘を庇う事を優先したため大怪我を負ってしまったらしい。
「じゃあ治療するよ。浄化もしないとね」
魔獣にやられた傷だから、司祭が言っていたように治癒魔法だけでなく浄化魔法も使ってみた。きらきらと光の粒子が傷部分に降り注ぐ。
妻のエリーゼが見守るなか、呼吸も正常になり顔色も良くなったベスティンが今度はしっかりと瞳を開いた。それだけでなく、呆然としているけどベッドから起き上がって俺たちを見て驚いている。
「ダレル? なぜここに? 俺は…、どうして痛みが無い?」
「あぁ、あなた、ベスティン! 良かったっ。ううぅ…」
感極まって抱き着くエリーゼを受け止め、まだ混乱しているベスティンにダレルが説明をはじめた。
「ベスティン、本当に良かった。お前の傷は神子様が治してくださったんだよ。私やエリーゼの魔法ではどうにもならなかったのに、一瞬で治してしまわれたんだ」
俺が神子だと聞かされたベスティンは更に驚き、慌ててベッドから下りようとした。
「起きなくていいから! それより傷がちゃんと治ったのか確認してみてよ」
元気そうだけど血の滲んだ包帯が巻かれたままだ。俺に言われたベスティンがエリーゼと一緒になって包帯を外していく。頬に当てたガーゼも取ると、全ての傷は塞がり血も出ていない。痛みも無いようだ。
でも、魔獣に付けられた傷跡は消えずに残ってしまっている。
本当に治癒魔法では消せないのだと確認できてしまった。
210
あなたにおすすめの小説
最強βの俺が偽装Ωになったら、フェロモン無効なのに狂犬王子に求愛されました~前世武道家なので物理で分からせます~
水凪しおん
BL
前世は日本の武道家、今世は平民β(ベータ)のルッツ。
「Ωだって強い」ことを証明するため、性別を偽り「Ω」として騎士団へ入団した彼は、その卓越した身体能力と前世の武術で周囲を圧倒する。
しかし、その強さと堂々とした態度が仇となり、最強のα(アルファ)である第一王子・イグニスの目に止まってしまった!
「お前こそ俺の運命の番だ」
βだからフェロモンなんて効かないのに、なぜかイグニスの熱烈な求愛(物理)攻撃を受ける日々に突入!?
勘違いから始まる、武闘派β×最強王子のドタバタ王宮BLファンタジー!
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる
ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。
・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。
・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。
・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる