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65 マーカスの兄
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「神子様、私はシェリング男爵家嫡男のダレルと申します。お目にかかれて光栄でございます。私共の領地を癒してくださりありがとうございます」
マーカスの兄は俺の前で膝をつき綺麗な挨拶をした。確かに委縮した感じは無い。
話を聞くと、彼らが出てきた集落で大怪我を負った人がいると知らせを受けて、その治療のためにここに来たのだと言う。
「私は僅かばかりですが治癒魔法を使えます。少しでも助けになればと駆け付けたのですが…」
そこで突然、ダレルが両手を地面について平伏した。
「神子様、お願いでございます! どうか彼の傷を癒してはいただけないでしょうか!? 私では無理でしたが神子様なら! 彼には妻子もいて、」
「うん。いいよ」
「ぶしつけとは思いますが、…は? あの…」
「その人の所に連れて行ってくれる?」
俺の言葉にダレルの顔は歪み、ぽろぽろと涙をこぼしている。兄弟揃って涙もろいみたいだ。ダレルは何度もお礼を言いながらマーカスと一緒に怪我人のいる家まで案内してくれた。
到着した家は集落の中で一番大きかった。この辺りの畑をまとめる役目を任せている人の家らしい。ダレルの呼びかけに出てきたのは酷く顔色の悪い女性だった。
「エリーゼ、顔色が良くない。治癒魔法を使い過ぎているな」
「ダレル様、でも、何とかしたくて、う、うぅ」
「神子様が診てくださるよ。ベスティンの所までご案内して」
「み、神子様?! ひっ、も、申し訳ございませんっ、私、」
ダレルの言葉に初めて俺たちに気付いた彼女は真っ青になってしまい、ぶるぶる震えて膝をつこうとするから慌てて止めた。
「あぁ、挨拶とかはいいから! それよりも、怪我人のところまで連れて行ってくれると嬉しいな」
俺から直接声をかけられると思っていなかったらしくて、驚きのあまり固まる彼女をマーカスが促す。
「アキラ様の治癒魔法は素晴らしいと王宮でも評判です。早くご主人の怪我を診てもらいましょう」
彼女はマーカスの言葉に泣きそうになりながら家の中に俺たちを招き入れてくれた。直ぐに怪我人のいる寝室に案内され、そこには痛みに呻く大柄な男性がベッドに横たわっていた。
「ベスティン! 神子様が診てくださるわ。きっと大丈夫よ」
男性は彼女の呼びかけに薄っすら目を開いたが、呼吸も荒く熱もあるようで朦朧としていてそれ以上の反応が無い。急いだ方が良さそうだ。
「どんな怪我なのか教えて」
「は、はい。主人は娘を庇って魔獣に襲われて、足と腕を爪で…」
布団をめくりながら教えてくれたので傷を確認出来たのだが、左手と左足に巻かれた包帯は血が滲み、それに頬に当てられたガーゼにも血の染みがあった。
この男性、ベスティンは元貴族で魔法を使えるので魔獣は倒すことが出来た。けれど娘を庇う事を優先したため大怪我を負ってしまったらしい。
「じゃあ治療するよ。浄化もしないとね」
魔獣にやられた傷だから、司祭が言っていたように治癒魔法だけでなく浄化魔法も使ってみた。きらきらと光の粒子が傷部分に降り注ぐ。
妻のエリーゼが見守るなか、呼吸も正常になり顔色も良くなったベスティンが今度はしっかりと瞳を開いた。それだけでなく、呆然としているけどベッドから起き上がって俺たちを見て驚いている。
「ダレル? なぜここに? 俺は…、どうして痛みが無い?」
「あぁ、あなた、ベスティン! 良かったっ。ううぅ…」
感極まって抱き着くエリーゼを受け止め、まだ混乱しているベスティンにダレルが説明をはじめた。
「ベスティン、本当に良かった。お前の傷は神子様が治してくださったんだよ。私やエリーゼの魔法ではどうにもならなかったのに、一瞬で治してしまわれたんだ」
俺が神子だと聞かされたベスティンは更に驚き、慌ててベッドから下りようとした。
「起きなくていいから! それより傷がちゃんと治ったのか確認してみてよ」
元気そうだけど血の滲んだ包帯が巻かれたままだ。俺に言われたベスティンがエリーゼと一緒になって包帯を外していく。頬に当てたガーゼも取ると、全ての傷は塞がり血も出ていない。痛みも無いようだ。
でも、魔獣に付けられた傷跡は消えずに残ってしまっている。
本当に治癒魔法では消せないのだと確認できてしまった。
マーカスの兄は俺の前で膝をつき綺麗な挨拶をした。確かに委縮した感じは無い。
話を聞くと、彼らが出てきた集落で大怪我を負った人がいると知らせを受けて、その治療のためにここに来たのだと言う。
「私は僅かばかりですが治癒魔法を使えます。少しでも助けになればと駆け付けたのですが…」
そこで突然、ダレルが両手を地面について平伏した。
「神子様、お願いでございます! どうか彼の傷を癒してはいただけないでしょうか!? 私では無理でしたが神子様なら! 彼には妻子もいて、」
「うん。いいよ」
「ぶしつけとは思いますが、…は? あの…」
「その人の所に連れて行ってくれる?」
俺の言葉にダレルの顔は歪み、ぽろぽろと涙をこぼしている。兄弟揃って涙もろいみたいだ。ダレルは何度もお礼を言いながらマーカスと一緒に怪我人のいる家まで案内してくれた。
到着した家は集落の中で一番大きかった。この辺りの畑をまとめる役目を任せている人の家らしい。ダレルの呼びかけに出てきたのは酷く顔色の悪い女性だった。
「エリーゼ、顔色が良くない。治癒魔法を使い過ぎているな」
「ダレル様、でも、何とかしたくて、う、うぅ」
「神子様が診てくださるよ。ベスティンの所までご案内して」
「み、神子様?! ひっ、も、申し訳ございませんっ、私、」
ダレルの言葉に初めて俺たちに気付いた彼女は真っ青になってしまい、ぶるぶる震えて膝をつこうとするから慌てて止めた。
「あぁ、挨拶とかはいいから! それよりも、怪我人のところまで連れて行ってくれると嬉しいな」
俺から直接声をかけられると思っていなかったらしくて、驚きのあまり固まる彼女をマーカスが促す。
「アキラ様の治癒魔法は素晴らしいと王宮でも評判です。早くご主人の怪我を診てもらいましょう」
彼女はマーカスの言葉に泣きそうになりながら家の中に俺たちを招き入れてくれた。直ぐに怪我人のいる寝室に案内され、そこには痛みに呻く大柄な男性がベッドに横たわっていた。
「ベスティン! 神子様が診てくださるわ。きっと大丈夫よ」
男性は彼女の呼びかけに薄っすら目を開いたが、呼吸も荒く熱もあるようで朦朧としていてそれ以上の反応が無い。急いだ方が良さそうだ。
「どんな怪我なのか教えて」
「は、はい。主人は娘を庇って魔獣に襲われて、足と腕を爪で…」
布団をめくりながら教えてくれたので傷を確認出来たのだが、左手と左足に巻かれた包帯は血が滲み、それに頬に当てられたガーゼにも血の染みがあった。
この男性、ベスティンは元貴族で魔法を使えるので魔獣は倒すことが出来た。けれど娘を庇う事を優先したため大怪我を負ってしまったらしい。
「じゃあ治療するよ。浄化もしないとね」
魔獣にやられた傷だから、司祭が言っていたように治癒魔法だけでなく浄化魔法も使ってみた。きらきらと光の粒子が傷部分に降り注ぐ。
妻のエリーゼが見守るなか、呼吸も正常になり顔色も良くなったベスティンが今度はしっかりと瞳を開いた。それだけでなく、呆然としているけどベッドから起き上がって俺たちを見て驚いている。
「ダレル? なぜここに? 俺は…、どうして痛みが無い?」
「あぁ、あなた、ベスティン! 良かったっ。ううぅ…」
感極まって抱き着くエリーゼを受け止め、まだ混乱しているベスティンにダレルが説明をはじめた。
「ベスティン、本当に良かった。お前の傷は神子様が治してくださったんだよ。私やエリーゼの魔法ではどうにもならなかったのに、一瞬で治してしまわれたんだ」
俺が神子だと聞かされたベスティンは更に驚き、慌ててベッドから下りようとした。
「起きなくていいから! それより傷がちゃんと治ったのか確認してみてよ」
元気そうだけど血の滲んだ包帯が巻かれたままだ。俺に言われたベスティンがエリーゼと一緒になって包帯を外していく。頬に当てたガーゼも取ると、全ての傷は塞がり血も出ていない。痛みも無いようだ。
でも、魔獣に付けられた傷跡は消えずに残ってしまっている。
本当に治癒魔法では消せないのだと確認できてしまった。
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