異世界で神子になりまして

negi

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83 マーカスの報告

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 マーカスが新たに届いた陳情書を持って部屋にやって来た。
いつも通り応接間で面会をしたんだけど、彼が持ってきたのは陳情書だけではなく、マーカスに続いて部屋に入って来た彼の護衛が大きな木箱を抱えていた。

「アキラ様が祈りを捧げてくださった北西の農地の住民から、畑の方の収穫はまだですが、近くの山の実りが良い出来だからと転移陣で送られてきました」

 たくさん送られてきましたが、ここにはひと箱だけ持ってきましたと差し出された木箱を開けてみれば、中にオレンジ色の果実がぎっしり詰まっていた。部屋の中に甘い果物の香りが広がる。

「わ、これって杏、だよな?」

 箱の中にはドライフルーツやシロップ漬けで知っている、杏とよく似た果物が採れたての瑞々しい状態で詰められていた。生の杏は写真でしか見たことは無いけど、そっくりだ。

「アキラ様のところではアンズと呼ぶのですか? こちらではマレと呼ばれている果物です。是非召し上がってください。甘くて美味しいですよ」

 侍女を呼んでさっそく切ってもらうと、テーブルの上に美味しそうなオレンジ色の果実が食べやすい大きさに切られて出された。一切れ食べてみれば、果汁が溢れ桃に似た柔らかい食感と甘さが口いっぱいに広がる。

「やっぱり杏だ。生のを食べるのは初めてだけど美味しい!」

「生も美味しいですが、ジャムにしたものも美味しいですよ。たくさん採れると日持ちしないですからジャムにするんです」

砂糖はたくさん消費しますが、今頃ジャムをたくさん作っていますのでそのうちジャムも届きますと言われて、ふと、疑問に思って聞いてみた。

「干し杏にはしないの?」

 ジャムを作るよりも天日干しするだけだから簡単だし、砂糖も使わない。むしろそっちの方がポピュラーじゃないのか? それに、ドライフルーツにすると数か月くらいもつんじゃなかったかな…。干し杏じゃなくてマレだから…、干しマレになるのか? 
う~ん、ドライマレの方がしっくりくる? 

「干しマレ? この大きさのマレの実を天日干しですか?」

 どうやら考えていたことが口から出ていたようで、俺の呟きを聞いたマーカスが身を乗り出して聞いてきた。

「え? この世界にドライフルーツって無いの?」

 マーカスに話を聞くと、もっと小さな実のドライフルーツはあるらしい。俺の知るドライフルーツの代表格は干しブドウだ。あれくらいの大きさの実のドライフルーツは存在しているってことだよな。

「俺の居た世界でこの果物はドライフルーツの定番だったよ。天日干ししてドライフルーツにすればかなり日持ちするはずだよ」

ドライフルーツといえば干して水分が抜けた状態だ。それって魔法で再現できるんじゃないか? 試しに皿に残っていたマレの実に向かって魔力を当てて水分を抜いてみると、みるみるうちに俺の良く知るドライフルーツに変化していった。

「そうそう、こんな感じ。マーカスも食べてみなよ」

 勧めつつ自分でも一切れつまんで口に入れれば、生とは違う噛み応えと凝縮された美味しさで、やっぱり干し杏そのままだった。

「うん。美味しい! リックとエドも食べて!」

両手に一切れづつ取って、いつも通り両隣に座る二人の口元に持っていけば、その手を取られて指ごと食べられた。

「ちょっ、わっ?! 舐めないで!」

「とても美味しいですよ…チュッ」

「ええ、本当に美味しいです… チュッ」

ホントにこの二人はぁぁぁ!! 

一気に茹で上がり、慌てて取り返した手で顔を覆って隠した。手のひらに熱が伝わるから、絶対真っ赤になってるよ!!


「…生で食べるよりも甘い、それに日持ちもする…」

羞恥に悶える俺の耳にマーカスの呟きが聞こえてきた。
本当にこの男は動じなくなったよな…。


「マーカス、アキラ様から賜ったご教示を無駄にするな」

俺の腰に手を回してきながらエドが言った言葉が、顔の熱を冷まそうと必死な俺には直ぐに理解出来なかった。

「ゴキョウジ?? ……あっ!! ご教示か?! それって干し杏のこと? そんな大層な事は言って無いと思うんだけど…」

天日干ししたらって言ってみただけなのに、そんな大袈裟なって思っていたら、エドの言葉に顔を上げたマーカスの眼差しには熱が籠っていた。

「分かっております。直ぐに領地へ伝えます。アキラ様、『干しアンズ』というお名前をいただいても良いでしょうか?」

「へ? うん、いい、けど。…でも、干しマレやドライマレじゃなくて良いの?」


 聞きなれた名前の方がわかりやすいと思ったのに、むしろ新しい名前の方が良いと言ったマーカスは、嬉しそうに退室していった。
エドとリックもそれでいいって顔になってる。わかって無いのは俺だけ?
まあ、マーカスが嬉しそうだし、張り切ってるみたいだからいいか。
出会った頃に比べてその瞳には活気がみなぎってるし、護衛も嬉しそうだった。


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