罰ゲームから始まる陰キャ卒業

negi

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 春休みになっても塾があるので代り映えしない毎日を過ごしている。毎日のように塾に通う僕に姉からは「和希もやっと勉強の楽しさが解ったみたいね」って言われて否定できなかった。だって理解できていくの楽しい。姉も積極的に勉強を教えてくれたおかげで入学当初に比べてかなり成績もアップした。
 高橋さんとはメッセージのやり取りはしていたけど、短い春休みは塾に通ってほとんど勉強していて終わってしまった。

 

 そして新学期が始まり二年生になっても僕は姫なようだ。

 初日に僕に声をかけてくれたのは物凄く背が高くて体格も良い人で、僕を見下ろす顔が戸惑いでいっぱいって感じで挨拶された。

「教室にいるんだから、同級生? だよな? あ、ごめん。俺は山川。よろしくな」

「同級生の小林だよ。こちらこそよろしくね」

「こら山川。早速姫に声かけてんじゃねえよ。あ、俺は板倉だ。よろしく」

「姫? …あぁっ! そうか、姫か! うわぁ、ホントに小さくて可愛いんだな」

 二人共大きくて大迫力である。この体格なら僕が同級生なのかを疑うのもわかる気がする。見上げる首が疲れてきた頃横から別の声がかかった。

「そうだろう? うちの姫はこの小ささが最高なんだよ」

「伊藤君やめて。 確かに入学してから身長ほとんど伸びてないけどさ…」

 元クラスメイトの伊藤君が何故かドヤ顔で僕の小ささをアピールしている。更に教室内に数名いる元クラスメイト達も頷いているのが目に入ってきてちょっと恥ずかしい。何だか注目されて居心地悪く思っていたら後ろから腕がのびてきてハグされた。
 今度は誰だ?

「小林はこのまま伸びなくて良いんだよ。ああ、小さいのって可愛いなぁ」

「野田君かぁ。いきなりハグされるとびっくりするってば」

「ごめん。また同じクラスなのが嬉しくてさ。相変わらず萌え袖なのも良い」

 そう言って後ろから僕の腕を持ってプラプラ揺らすのやめて欲しい。だって成長しなかったから袖が余ったままなんだよ。
 そんな元クラスメイト達とのやり取りを見ていた山川君がおずおずと聞いてきた。

「小林、俺もハグしていいか?」

「いいよ。どうぞ」

 僕の前まで来た山川君はそぉっと腕を回してハグしてきた。くっついて解ったけど身長差三十センチ以上ありそう。しかも体格も良いから体重差も凄いと思う。何を食べたらこんなに大きく育つことが出来るんだろう。

「ふわぁ、なにコレ。小さくてヤバい。何だろうこの感じ。凄く癒される…」

 それを聞いた元クラスメイト達が「そうだろう、そうだろう」と揃って頷いている。最初は緩かった山川君の腕がきゅうっと締まってきてちょっと苦しくなってきたから「手加減して~」と訴えたら慌てて離してくれた。

「なあ、俺もハグしてみたい。小林、いいか?」

 山川君から離れたら板倉君も僕に抱き着いてきて「うわ、思ってたより小さい」って驚いてる。なんか珍獣になった気分だよ。

 そしてこの事をきっかけに僕はまたクラスでの姫ポジが確定した。そのおかげか今度のクラスメイト達もみんな優しい。このクラスなら話すのが上手くない僕でもやっていけそうだよ。

 そして僕の小ささに感動(?)した山川君はハグ魔になってしまうのだった。


 ***


「小林おはよう! ハグさせて!」

「山川君おはよう。はいどうぞ」

 挨拶を返すと直ぐに抱き着いてきて「はぁ、癒される」と呟いているのが聞こえる。ほぼ毎日この調子で事あるごとにハグされる。大柄な山川君は家族もみんな体格が良いらしく、そんな彼にとって僕は衝撃的な小ささなんだって。もうね、小動物かぬいぐるみになった気分だよ。

「はぁ、癒しハンパない。小さいって凄いな」

「また山川が姫を独り占めしているぞ~」

「小林~、こっちにもおいで~」

「やめろ! 俺の癒し時間を邪魔するんじゃない!」

 周りの抗議に言い返した勢いで腕に力が入ったのか締まってちょっと苦しい。抗議を込めて腕を叩いたら緩めてくれたけど予鈴も鳴ったしそろそろ離して欲しいなぁ…。



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