犯罪者達の鎮魂曲(レクイエム)

いずくかける

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犯罪者達の鎮魂曲(レクイエム)

オラトリオ

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「うわああああ!! あのじいさんやっちまったあああ!!」
「やべえぞ! 刑殺官が来た! 逃げろ!」
「冗談じゃねえ!! 巻き込まれるぞ!!」

 広場は逃げ惑う人々でパニックになっていた。

「お、おいゲルノ兄……、あんな女が刑殺官なのか……?」
「間違いねえガルノ……、あいつがレイラだ……」

 それはキャリーから見たら異様な光景だった。女刑殺官が細剣でハーディの持つカバンを突き刺し、その背には倒れた老人、さらに背後にはランバダ兄弟が震え、周囲の人間は必死に逃げまどっている。
 女刑殺官はニヤリと笑いながらハーディに話しかけた。

「はーでぃはん。あんたが犯罪者としてれくいえむに戻ってきたちゅう話は噂で聞いてはりましたけど、これは一体なんのつもりなんどすか?」

 ハーディは手に持っているカバンを微動だにさせないまま、チラッと背後の老人を見た。

「こいつには用がある。それが終わってから殺せ、『レイラ・チルアウト』!!」

「ハーディ、おぬし、どうしてここにおるんじゃ……?」

 跳ね飛ばされ、尻餅をついた老人が困惑しながらハーディの顔を見る。

「ドン! てめぇはいつも厄介事ばかり起こしやがって――ッ!!」

 話の半ばでレイラはさらに細剣を押し進めた。貫通はしていないものの、細剣はギリギリとカバンに突き刺さっていく。
 ニヤニヤと笑うレイラとは対称的に、ハーディの顔には余裕が無い。

「いけまへんなぁ、はーでぃはん。今話をしとるんはうちやろ? よそ見をしてる暇なんかないんと違いますか?」

「レイラ……てめぇっ!」

「気安くうちの名前呼ばんといてくれますか? 犯罪者とお近づきになりとおないんで」

「へッ、……そうだな。その態度はおおむね間違ってねぇ」

 ハーディとレイラはニヤリと笑いあい、そして睨みあった。

「さすがにはーでぃはんでも、武器を持たな無力や。そこの老人と一緒に殺したろ」

「カバンの中じゃっ!!」

 レイラは腕を引き一度カバンから細剣を引き抜くと、再びハーディめがけて突き出した。切っ先が狙ったのはハーディの首である。
 後ろからそれを見ていた老人は思わず叫んだ。
 老人の言葉を耳にしたハーディは、その一瞬でカバンの中から二丁の拳銃を取り出した。


ガキィィィイイイイイイイイイイイイイイインンンン!!


 再び広場にけたたましい金属音が鳴り響く。
 レイラの細剣を止めたのはハーディが左手に持ったシルバーの拳銃だった。
 左手でレイラが突き出した細剣を止めたまま、素早く右手に構えた黒い拳銃をレイラに向けた。

「こらあきまへんわ」

 ハーディが容赦なく右手の引き金を引くと、レイラはその弾丸を上半身を捩り避けた後、背後へ跳びハーディと距離を取った。その動作が終わった時、

ダァーーーン!

 と、広場に銃声が響く。
 レイラに避けられ、行き場をなくした弾丸はマーリーの看板に命中した。

「ま、ここは一旦、はーでぃはんの顔を立てて引くことにしますわ」

 ハーディの腕途刑からも警告音が鳴り響き始めたが、ハーディはレイラに左右の銃口を向けたまま睨み付け続けていた。

「せやけど、うちも手ぶらでは帰れまへんなあ」

 一瞬レイラの姿が消え、再び現れた時にはすでにランバダ兄弟の首をはねていた後だった。

「代わりにこいつらの首、持って帰りますわ。ほなはーでぃはん、お達者で」

 レイラは感じ悪くそう言い残し、屋根の上へと飛び去って行った。
 ハーディはその後ろ姿を睨み続ける。その目はどこか切なく、罪悪感を感じさせる瞳だった。

 突然、ハーディは後ろからゴンッ、と杖で頭を叩かれる。

「いってぇなてめぇ! なにしやがる!」

「貴様! わしの大事なカバンを盾替わりにしよって! 大穴が空いたわ!」

 ハーディを杖で殴ったのは先ほどの老人ドンであった。
 理不尽な攻撃を受けて、ハーディは怒りを露わにして叫んだ。

「それがどうしたってんだ!? こっちは命を助けてやったんだ! 少しは感謝しやがれ!」

「偉そうに言いおって! わしはそんな事一言も頼んではおらんわ!!」

「なんだとこのくそじじぃいいい!!」

 怒りに任せてハーディはドンの首根っこを掴みぶん投げた。
 小柄な体は軽々と宙を舞う。

「キャッ!」

 投げられたドンはそばで見ていたキャリーに突っ込み二人して地面に倒れこんだ。

「いてて、あの……おじいちゃん、大丈夫ですか?」

 心配されたドンは、ちょうど手の置き場となったキャリーの胸を2回揉んで返事をした。

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


パンッ!


 今度は広場にビンタの音が響き渡った。


*** *** ***


 3人はその後、ポールの情報屋マーリーを訪れていた。
 不満そうなポールに構わずにそれぞれが椅子に座りくつろいでいる。

「あいたた、まったく! 暴力的な小娘じゃ!!」

 キャリーに叩かれた頬を撫でながらドンはチラリとキャリーを見やる。
 その頬は赤く腫れていた。

「あのああのあの! ドンさんが胸を揉むのが悪いんです!」

 キャリーはたった二日間でに二人に胸を揉まれている。そこだけ聞けば完全に痴女である。
 二人の会話にリップは呆れる。

「ほんっとスケベじじいなんだから……」

(結局こうなるじゃねえかよ。今日はもう仕事できねぇなぁ)

 ハーディは災難しか引き連れてこないと知っていたポールは、早くも今日の営業は不可能だと確信していた。
 椅子に座った5人はハーディを除いて、下らない会話に花を咲かせている。
 ハーディはというと二丁の銃をそれぞれバラし整備していたが、突然組み立て途中の黒い銃をドンに向けて引き金を引いた。


カチン


 小さく、乾いた音がマーリーに響く。

「おいドン、『デイトナ』が少し重くなったな」

「たかが10グラムほどじゃ、その分強度を上げておる。『ハロルド』の方もそれに合わせて5グラムほど重くなっとるわ」

 ドンはハーディの不満にそう答えた。

「銀のハロルド、黒のデイトナ。刑殺官ハーディの愛銃だねぇ。俺っちは知ってるぜぇ?」

「えぇー!! ハーディさん。あの、刑殺官なんですか!?」

 ポールのセリフを聞いたキャリーはびっくりして立ち上がった。
 やけにレクイエムに詳しい秘密が、そして人間離れした強さの秘密が判明し、キャリーは納得した。

「俺は元刑殺官。今はただの犯罪者だ。てめぇと変わらねえよ」

 ハーディはそう答える。

「恐怖の暴力刑殺官よ。んで、そっちのおじいちゃんは鍛冶屋なの。これでも武器を整備させればレクイエム一の腕なんだから」

「これでもとはなんじゃ! まったくびっくりしたぞ。わしに銃を預けて急にレクイエムから見なくなったと思ったら、いきなり帰ってきおって! それも犯罪者になって帰ってきおった。ここにはお前に恨みを持つ奴は大勢いる。なかでもあの3人は――」

「それよりじじい」

 ハーディはドンの話を遮った。老人の話は途中で止めなければ長くなると昔から知っていたからだ。

「じじい、ここ最近キリシマには会ったのか? そこの女がレクイエム入口あたりで見かけたらしい」

 ハーディはキャリーをあごであおった。
 キリシマとはキャリーを入所直後に助けた男の名前である。

「ほぅ、わしはあのサムライには最近会ってないのぉ……」

「そうか。わかった」

 ハーディは銃を組み終えると、それを手に取り席をたった。

「あんた、もう行くの?」

「俺の銃は手に入ったんだ。もうこの街に用はない」

 ハーディはマーリーの扉を開ける前に、立ち止まり、振り返りもせずに告げる。相手はポールでも、リップでも、ドンでも、キャリーでさえもよかった。
――ただ用件さえあいつに伝えてくれれば。

「キリシマを見たら伝えとけ。見つけたらぶっ殺すってな……」


*** *** ***


「まったく、相変わらず自分勝手な奴じゃのう」

「キャリー、あなた、キリシマに会ったって本当なの?」

 先ほどの会話を聞いていたリップが深刻そうにキャリーに尋ねる。

「あの、キリシマさんってニホントウを持ったなんだか変な服を着てる人ですよね?」

「それはワフクって言ってなぁ。キリシマ出身の島の民族衣装らしいぜぇ? どうやら間違いねぇみたいだなぁ」

「あなた、まさか妊娠してないでしょうね?」

 リップはキャリーのお腹をさすった。
 突然リップがわけのわからない事を言ったので、キャリーは顔が真っ赤になった。

「おいおい、もうこれ以上面倒事は勘弁だぜぇ?」

「えっとあの! 別にキリシマさんとはなにもしてないってゆうか、レクイエムに来た時に助けられただけでそのあのあの子作りとかしていないってゆうか! 途中で気失っちゃったけど……なんでもありません!!」

「珍しいわね、あの女好きが外で女に手を出さないなんて……」

 リップはいつになく真剣な顔でそんな事を語る。

「あいつはそこのじいさん以上の女好きだぜぇ? 今度見つけたら気を付けんだなぁ」

「なんじゃと貴様! 無礼者!」

 ドンは杖でポールを殴った。
 殴られた頭をさすりながらポールはキャリーとリップに頼む。

「今日は店の前でドンパチがあったからもう客は来ないかもしれねぇぜぇ。二人で今のうちに食材の買い出しに行ってきておいてくんな」


*** *** ***


 キャリーはリップと一緒に町の市場に向かった。
 普段は活気であふれている市場だが、今はがらんとしていて営業はしているものの客は誰もいなかった。その理由は言うまでもなく、つい先ほどまで顔を出していた死刑執行人の存在にある。

「やっぱり、刑殺官が来ちゃうと皆外を出歩かないわねー」

「あの、そんなに危険なんですか? 刑殺官って」

「なによ、あんたも見たんでしょ? あいつらの身体能力はもう人間のレベルじゃないわ」

 リップは両手に取ったナスを見比べながら語る。

「銃弾は避けるわ、岩は砕くわ、やりたい放題よ。政府から特殊ななにかを受けているのは間違いないわね」

 リップは色の良かった右手のナスをキャリーが持っていたカゴに入れながら語る。

「それよりなにより、やつらは犯罪者の事を何とも思ってないわ。虫とか家畜みたいに、さも当然って感じで殺していく。受刑者じゃない私達すら恐怖するわよ」

「あの、じゃあ刑殺官に狙われたらまず助からないんでしょうか?」

「数えるほどだけど例外はいるわね。ハーディだって今はこっち側だし……、あんたを助けたってゆうキリシマもそうゆう人間よ」

 キャリーはキリシマに助けられた時の事を思い出した。
 人一人を抱えて、途中までしか覚えていないがあの速度で走る人間である。たしかに人間離れしていると言わざるを得ない。

「あの、キリシマさんも元刑殺官なんですか?」

「いえ、キリシマは違うわ。あの男は単純に、外にいたときからに強いのよ。サムライって言う過去の武道集団の末裔らしくてね。……あとドンが言おうとしていた3人もそうゆう人間よ。このレクイエムで絶対に喧嘩を売っちゃいけない要注意人物。まあ、キャリーは会うことはないと思うけど、一応名前だけ教えておくわ」

「キリシマさんやハーディさんと同じくらいの強さの人が3人もいるんですか……」

「ビズキット・メタル、
 ガストロ・クラシック、
 エルビス・ブルース」

 リップは3人の要注意人物の名を挙げた。

「こいつらの名前を聞いたらすぐに逃げなさい。刑殺官でも手に負えなくて、あたしたちも管理者に注意するように呼びかけられているほどやばい受刑者よ」

 刑殺官と殺し合いができる人間などほとんどいない。
 だが、例外としてリップは3人の名前を挙げた。
 管理者、または刑殺官の死亡者を出した危険人物の名を、犠牲者を増やさない様に政府は前もって管理者たちへ伝え、危惧させていたのである。
 その戦闘能力の高さゆえに刑殺官による抹殺を諦めた政府は、この3人を死ぬまでレクイエムに幽閉すると決定し彼らの刑期を抹消した。

 リップは右手の腕途刑を店主の左手とコツンとあてると買い物を終えた。
 そのまますぐにマーリーへと戻った二人であったが、店の前に一人の人間が立っているのを見つけ店には入れなかった。
 マーリーの前に静かに佇むその黒髪の男は、ニホントウを腰にぶら下げ、ワフクを風にひらめかせていた。
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