犯罪者達の鎮魂曲(レクイエム)

いずくかける

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犯罪者達の終焉曲(フィナーレ)

雄弁

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「なぜ……、てめぇがこれを持ってる……?」

 キャリーが落とした物。ハーディが拾い上げた物。
 それは一つの指輪だった。なんの変哲もない、ただの指輪。キリシマも、イカルガも、落としたキャリーの目にすらそう映った。だが、ただ一人、ハーディだけはその指輪に見覚えがあった。

「それが……、覚えがないんです。あの、気付いたらポケットに入っていて――」
「思い出せ!! どこで手に入れた!? いつからこれを持っていた!?」

 ハーディは激しくキャリーを問い詰める。
 突然大声を上げたハーディにキャリーは動揺を隠せない。

「お……、おい。どうしたんだよハーディ!?」

 ハーディの剣幕にキリシマは割って入ろうとするが、ハーディはキリシマを突き飛ばし更にキャリーに詰め寄る。

「いてえな! 何すんだよ!?」
「黙ってろキリシマ!!」

 デイトナを抜きキャリーに銃口を向けるハーディ。
 その眼には冷静さの欠片も見受けられない。

「お、おい! ハーディ!!」
「答えろキャリー! それをどこで手に入れた?」
「あ、あの! 本当に知らないんです! 気づいたらポケットに入ってて!」

 キャリーは身分を欺いていた。
 シシーの娘としてハーディらと共にしていた時間がある。
 キャリーの実母、パルマ・ポップ。上司、オレンジ・ガバの為だったとはいえ、それは紛れもない真実であり変えられぬ過去である。
 ハーディには分らなかった。目の前の年端もいかないキャリーが再び嘘をついているのか、否か。果たしてその言葉が真実であるのかどうか。
 キャリーの目は真剣だ。とても嘘をついているとは思えない。だが、レクイエムのどこかで、万に一つでも偶然拾ったと答えたならば話は変わるが、これだけ問いただしてもどこで手に入れたのかすら語らぬ彼女を手放しで信用できるほど、ハーディの心中は穏やかでは無かったのである。

――ダァーン

 キャリーの背後。地下道、イカルガのアジトを形成している壁に穴が開く。
 ハーディが向けていたデイトナから一発の弾丸が放たれたのだ。それはキャリーを掠め、ハーディが返答次第では本当にキャリーを撃ちかねないと思わせるに十分な一発だった。

「おい! いい加減にしろハーディ!!」

 キリシマが刀の柄に手をやると、ハーディは左手にハロルドを構えキリシマへと向けた。
 硬直状態の末に口を開いたのは、今まで傍観していたイカルガだった。

「おい、金髪ぅ。あまり人ん家で暴れんなよう。それにあまり騒ぐと――」

 イカルガは潜り抜けてきた土管の先へと目線をやった。
 騒げばまた政府の人間に見つかる。無言でそう訴えるイカルガ。
 ハーディはため息をついて両銃を降ろした。

「本当に……知らないのか?」

 改めてハーディはキャリーに問う。
 キャリーは向けられていた銃口が降ろされた事と、ハーディの目つきが少し和らいだ事により少し安堵し、「本当に知りません」と小さく答えた。

「ハーディ。その指輪、一体なんなんだ?」

 キリシマの問いにハーディは目線を落とし、手に持った指輪を再度眺めた。
 忘れもしない。これは――

「……婚約指輪だ。俺が……、エウロアに送ったものだ……」
「……あの、たまたま形状が似ているだけじゃありませんか?」

 キャリーが問うとハーディは首を振った。

「……これを見てみろ」

 ハーディは指輪の裏面をキャリーに見せた。
 そこには『26.H.E』の刻印がされている。
 2126年。ハーディとエウロアはレクイエム内でささやかな挙式を挙げた。

「これはその時、レクイエムの鍛冶屋、ドンに作らせた特注品だ。この世に二つとねえ。見間違えるわけがねえ」
「Hが金髪でEはエウロアって事か……」

 エウロアは殺害された。
 だが、ハーディは実際にその現場にいたわけではない。セルゲイ・オペラによって事後に話を伝えられただけだ。
 エウロアがレクイエムで殺されたのか。はたまたそれが外の世界での出来事だったのか。ハーディは知る由もない。

 あの日、最後にハーディがエウロアを見た時、確かにその指にはこの指輪が嵌められていたはずだ。いや、あの日に限った話ではない。エウロアはハーディから指輪を貰うと、それを至極嬉しそうに、いつも、いつでも指に嵌めていた。恐らくは、息が途絶えたその時も。

「気付いたらポケットに入ってたって……。キャリーちゃんが最初に気付いたのはいつなんだよ?」
「レクイエムに入って直ぐです。持ち物を確認しようとポケットに手を入れたら……」

 キャリーはレクイエムに入って直ぐにキリシマに助けられている。
 キリシマによって廃ビルの一つに連れられたキャリーは目を覚まし、自身が何を持っているかを確認した。所持品は全て没収され、持っていたのはこの指輪一つだけであった。その直後に同じ廃ビルに避難してきたハーディと遭遇した。

「あの、私は、その、かなりイレギュラーな入り方をしましたから……」

 キャリーは仕事中、取材用のメモとペン。それとボイスレコーダーと通信機器を常に携帯していた。だが、それら全ては当然の如く、オレンジと共に捉えられた際に没収されている。

「なるほど。キャリーちゃん。その時に所持品は全部奪われてるんだな?」
「もしかして……、廃ビルで気絶していたあの時に誰かが私のポケットに入れたのでしょうか? でも、あの、何の意味があって……?」
「キャリーちゃん。さすがにそれは無いんじゃないかな……」
「それについては俺もキリシマに同感だ。目の前に気絶している若い女がいれば、間違いなく刑期を奪われるか慰み者にされていただろう」

 それ以前に、あの付近を縄張りとしていたハイエナ達……通称待ち伏せ組は、キリシマの手によって壊滅させられている。残すは――

「シシーか……」

 キリシマは呟いた。
 キャリーがレクイエムに入り、キリシマがそれを助け、ハーディが入所し、キャリーに出会う。
 キリシマはその間待ち伏せ組を斬り伏せていた。その後に会った人物と言えばシシー・ゴシックだけである。キリシマはそこで娘であるララの護衛を依頼された。と言っても、勘違いからキリシマはキャリーの護衛をする事になったが。

「あそこらへんであの時生き残ってたのは俺とキャリーちゃんとハーディ。あとはシシーくらいのもんだ」

 シシーは隠れ、キリシマの戦闘を見物していた。
 キリシマの腕が噂通りであるかどうか。それを見極めんとしていた。
 理由は謎に包まれたままだが、シシーがキャリーと接触していた可能性は十分にある。

「でもなんでシシーがキャリーちゃんに指輪を? さっぱりわけがわからねえ。それに、それなら潜水艦で会った時に――」

 ハッと、キャリーの顔色を窺ったキリシマ。
 潜水艦で会った時に――シシーはキャリーの顔に気付くだろう。そう言いかけたが、キリシマはキャリーを気遣って言葉を止めたのである。

「キリシマ。決めつけるのはまだ早ぇ」
「あの、どういう事ですか? ハーディさん? 決めつけるって?」

 ハーディは改めてキャリーに向き直る。

「そのままの意味だ。キャリー、その指輪。本当にレクイエムに入る前は持っていなかったのか?」
「あの日、私が持っていたのは取材用のメモとペン。それとボイスレコーダーと通信機器。いつも通り……、あの……、それだけです」

 キャリーは申し訳なさそうに肩を落とし話を続ける。

「いつも通りの仕事道具……。それらも捕まった時に全て取られてしまいました……」
「レクイエムに入る前、この指輪に見覚えは?」
「いえ、外の世界で見た事は一度もありません……」
「つまり、キャリーちゃんはやっぱり所持品を何も持たないでレクイエムに入れられたって事だろ? なら結局その指輪は中で手に入れたって事だろう?」

 キリシマはレクイエムでどうやってキャリーのポケットに指輪が入れられたのかを考える。今となっては連絡の取れないシシーに問いただしたくて仕方なかった。
 一方ハーディはキャリーが真実を語っているかどうかを考察していた。キャリーを信用したかった。だがしかし、その気持ちの傍ら、溶けない矛盾にハーディはキャリーを疑ってしまいたかった。そうすれば全て解決するから。真実に近づくことが出来るから。
 イカルガは話が全く見えてこず大きくあくびをした。頭を掻きむしり簡素なベッドに横たわる。

「キリシマァ、金髪ぅ。どうやら話し合ってても答えは出なさそうだぜー? それよりこれからどうするか考えた方がいいんじゃねえか?」
「待て。キャリー、……思い出してくれ。囚われてから本当に何か無かったのか?」

 キャリーはもう一度思い出す。
 所持品を取り上げられてから牢屋に投獄され、その後にセルゲイが訪れた。
 パルマに会わされ、反強制的にレクイエムに入る事が決定する。
 牢屋に戻されたキャリーは直ぐに判決を受け、懲役20年の判決を受けてレクイエムに入った。

「駄目です、ハーディさん。……指輪なんて、まったく覚えがないです……」
「金髪ぅ。……おめぇもしつけえなあ」

 イカルガに茶化され、ハーディは軽く舌打ちをして返した。
 二人の間に険悪な空気が流れる。
 それを察したキリシマがサッと仲介に入った。

「まぁまぁ……。ハーディの嫁さんがイカルガの従妹って事はよ、二人は遠い親戚って事だろ? 少しは仲良くしろよ。そうだハーディ、エウロアちゃんの事、イカルガに話してやってくれよ」

 イカルガはずっとエウロアの事を探していた。だが、エウロアの事を何も知らない。血が繋がっているという事。エウロア・マキナと言う名前である事。家族を強盗により失っているという事。イカルガが知っているのはそれくらいの情報であった。
 エウロアが死んだと聞いてイカルガが何も思わなかったのは事実だが、それでも自分の従妹について興味が無いわけではなかった。
 ハーディに耳を傾けるイカルガ。
 エウロアの死に未だ罪悪感を持つハーディは「ふん」と一言放ち、仕方なしに語る。

「エウロアの事と言ってもな……。一言で言えば変わった奴だった」
「おいおいそれだけかよ? 他に何かねーの?」

 イカルガにそう言われハーディはため息をつく。
 エウロアについて語れる事――

「そうだな……。あんたやキリシマと同じさ」
「俺と同じ?」

 キリシマが反応し、ハーディはキリシマの頭を指さした。

「その髪の色。エウロアもブラックの髪色だった」
「俺とキリシマが生まれた島国じゃあ皆黒髪なんだぜー? むしろおめぇみたいな金髪の方が少ねーんだ。エウロアの父親も元は同じ島出身だからなー。黒髪が遺伝したんだろーな」

 グラミーには多種多様な人種が生活している。
 世界最大の経済都市にして先進国。移住してくる人間は数えきれない。そんなグラミーでは黒髪である事は別段珍しい事でもなかった。実際、シシーとララも黒髪である。だが、キャリーはそれである事を思い出す。

「もういいだろう? エウロアの事は……」
「あの、ハーディさん……。エウロアさんの事、もっと詳しく教えてください。あの……、髪みたいに……身体的な事を……」
「別に……、変わった奴とは言ったが外見は普通だった。髪はブラック。身長はてめぇと同じくらいだ。顔立ちは……、そうだな。それもキリシマ達みてぇに東洋の血が入ってたな。それがどうした?」
「あの……、ハーディさん。イカルガさん。確証はありません。でも……もしかしたら……、その――」
「どうしたキャリーちゃん? なにか思い出したのか?」

 キリシマに問われ、キャリーは大きく息を吸い込む。
 それを一気に噴き出すと、静かに口を開いた。

「あの……、もしかしたら違うかもしれません。……すいません!」
「なんだキャリー? はっきり言え」



「――私、エウロアさんに会ってるかもしれません」
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