ユーチューバーに転職した話する?

いずくかける

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現役JKユーチューバー エリリンTV!!

感謝を込めて、歌ってみました。

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 レジでうろたえるエリカにオーナーの山崎さんが歩み寄った。
 ぽんぽんと肩を叩き、エリカが振り向くと山崎さんがぽつりと呟く。

「エリカさん。わかったでしょう? このままでは他のお客様にまで迷惑をかけてしまいます。一生懸命働いてくれたエリカさんにこんな事を言うのは忍びないのですが……」

 エリカは諦めたようにがっくりと肩を落とし、申し訳なさそうに答えた。

「すいませんでしたオーナー。私、……仕事辞めます。今迄お世話になりました」

 エリカはそう言うと、店奥の控室へと走り去って行ってしまった。
 レジがオーナーに代わると、その様子を見ていた列に並ぶ人々から不満の声が上がる。
 罵詈雑言が飛び交う中、オーナーは一人ひとり丁寧に対応し始めた。
 その様子を見ていた俺は、思わずエリカの後を追って、レジに入ってしまった。
 オーナーに俺の姿が目に入ったのか話しかけてきたが、列に並んだ人の声にそのセリフはかき消される。

「よしおさん! まだ出勤時間じゃ――」

「ちょっと! エリリンちゃんどこ行っちゃったの!?」
「まさか帰った!? 今まで並んでたのに!!」
「なんだよこのおっさん。エリリン出せよ!!」

「お客様、どうか一列に並んでください」

「買い物しに来たわけじゃないんだよ!」
「こっちはエリリンちゃんに会いに来たんだぞ!?」
「エリリーン!! 戻ってきてー!!」

「困りますお客様。うちはただのコンビニですので、その様な大声を出されては――」

 接客に必死なオーナーをよそ目に、俺は更衣室へと向かった。
 そこには、うなだれた様子のエリカが呆然と立っていた。
 エリカの目からは、大粒の涙が零れていた。





 話はエリカが初めての動画を上げた日に遡る。
 日が昇り、仕事を終えた俺とルミは、いつも通り大量の缶ビールを抱えてルミの部屋へと向かっていた。

「エリカ、どんな動画上げたんだろうなあ。楽しみだぜ」

「えっと、幸ちゃん。……エリカの好きな歌って――」

「おいおいネタバレすんなよ!! ルミの部屋のでかいモニターで一緒にエリカの動画見ようぜ」

 ルミの部屋に上がり込み、最初の一杯で乾杯すると、俺はルミにエリカの動画を出すように催促した。

「えっと、チャンネル名はエリリンTVだな。早く出してくれよ」

 渋々といった面持ちでルミが検索すると、それはすぐに出てきた。
 サムネイルでは首から下までが写ったエリカの画像が張られている。
 動画のタイトルは、『初動画。 Trashed, Lost & Strungout 歌ってみた』と書かれている。

「へぇ、お洒落なタイトルだな。洋楽なのかな?」

「ねぇ、幸ちゃん。この動画見るの、やめよう?」

「なんでだよ。早く開いてくれよ」

 なぜかルミはエリカの動画を見せたがらない。
 まったく、動画が気になってしょうがない俺にそんないじわるをしなくてもいいのに。
 寒空の下を帰ってきたからなのか、小刻みに震えながらマウスをもつルミの手から俺は自分の手を被せ、その動画をクリックした。

 動画が再生されると早速イントロが流れる。
 激しいギターが流れ、顔の映らないエリカがリズムに乗っている。
 あれ? なんか想像していたのと違う気が――

『Once a day falling on the trail walking blind Trade nothing descretion in low!!』

 突如、鼓膜が破れんばかりの大音量でエリカの放つこの世の物とは思えないデスボイスがルミの部屋中、いや、福島ハイツ中、いや、熊谷市中に響き渡った。
 堪らず俺とルミは両手で耳を塞ぐ。これはひどい! ひどすぎる!! ジャイアンの歌声の方が100倍マシだ!!


 ボン!!!!


 ビリビリともうやめてくれと許しを請うていたスピーカーがその不快音に耐えられず、片方が爆発音を上げてモクモクと煙が立ち昇ってきた。

「嘘だろ!? スピーカーが壊れた!! ルミ! 音量下げろ!! このままじゃ死ぬぞ!!」

 だがしかし、両手を耳を塞ぐことに使っていた俺達に音量を下げる事などできない。
 このままでは窓まで割られかねない。

「もう! だから言ったのに!! エリカは超が付くほどの音痴なんだよ!!」

「分かった! 俺が悪かった!! だから早く何とかしてくれ!!」

 俺達が頭を痛める中も片方のスピーカーからはエリカのシャウトが流れ続けている。
 ルミは「ああ、もう!!」と叫び、壁に付けられていた一本のコンセントを足で抜いた。
 モニターに映し出されていた映像は消え、部屋に静寂が戻るが、未だに耳鳴りは消えない。
 どうやらルミが抜いたコンセントはパソコンの電源だったようだ。

「はぁ……はぁ……。今思い出しても鳥肌がたつよ。エリカと2人でカラオケに行った日の事……」

 それを聞いて俺はゾッとした。
 スピーカー越しに聞いてもあの火力である。狭い個室の中で、マイクで増大されたエリカのデスボイスなんて聞かされた日にはまさしくデスしてしまうだろう。

「あの時はなるべくトイレに行ったり、ドリンクバー取り行ってやり過ごしたけど……。平衡感覚が失われるんじゃないかと思った……。マイクも一本壊れちゃったし……」

「それは……災難だったな……」

「エリカ……、普通の曲は上手いのになぜかロックやメタルだとスイッチ入っちゃってこんな感じになっちゃうんだよ……」

「それにしてもこれは異常だろ!!」

 プスプスと可哀そうな音を立てるスピーカーのせいで焦げ臭いにおいが部屋中に充満している。
 俺が大音量によりスピーカーが壊れたシーンを見たのはバックトゥザフューチャー以来だ。
 だがしかし、エリカの場合は音量がどうこう以前の問題だった。なんかこう、人間の耳には合わないと言うか、聞いてはいけない音域の声、超音波というのだろうか。
 こんな動画、叩かれるに決まっている。俺はその時にそう感じた。

「おまえエリカと仲いいなら教えてやれよ! 親友を殺人犯にするつもりか!!」

「言えるわけないだろ!! あんな純真無垢な女子高生に!! 遠回しに気付いてもらおうとしてたけど全然気付かないんだよ!!」

 確かに、エリカに面と向かって音痴だから歌うのはやめてくれなんて、エリカの風貌と性格を知る人間には取れない行動だろう。だが、このままではいずれ死人が出てしまう。正直に言ってやる方が本人の為だ。
 だがしかし、体に悪いファーストフードが流行るように、喫煙者がたばこがやめられないように、どう考えても鼓膜によくないだろうと思われるエリカの歌声は、メタル好きの間で謎の中毒性を持つと囁かれネット上で話題になっていくのである。





「なあ、いずく。エリカの歌。どう思う?」

「エリカさんの動画の事か! 僕は好きだよ!! あの華奢な体から出されてるとは思えない程迫力あるあの声! ああ、一度でいいから直接罵倒されてみたいものだよ」

 エリカはあれから毎日、動画を2,3本YouTubeに上げている。
 トゥイッタアなどにその動画は拡散され、エリカの人気は爆発的に伸び、今や俺や師匠を超え、ルミにすら届き得る程のチャンネル登録者数を誇っていた。
 なんでも、有名な歌手がエリカを評価し、そこから一気に人気に火が付いたのだ。
 顔を見せないエリカは謎を呼び、ネットの特定班は躍起になって本人の憶測を立てていた。

「いずくにはあの歌の良さがわかるのか……」

 正直、エリカには申し訳ないが俺には雑音にしか聞こえない。テレビの砂嵐の方が、まだ聞きごたえがあると感じるが、面白い事に聞く人が聞けば今までにない前衛的な歌声としてエリカの声は受け取られている。
 師匠も言っていたが、やはり、エリカの声は人を惹き付ける何かがあったんだろう。


 トゥルン!


 俺のスマホに通知が入った。
 スマホを覗くと、エリカからのラインが入っていた。

【差出人 エリカ よしおさん。今日、仕事の前に少し会えませんか?】

 別に予定もないから構わないぜ。荒川公園でいいか?
 俺はそうエリカに打ち返した。
 その日が12月の24日。クリスマスイブだったと気付いたのは、家の外に出て、電飾が施された民家を見てからの事だった。
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