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ゆ
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「私を物語に誘ってくれたのは、あなたがはじめてだったからですよ」
「ぼくがいつ誘いましたか?」オルレアンにはその自覚がまったくなかった。
「誘われたといっても、私は親指のつま先を控えめに差し入れるほどのことではありますが」
「どちらにせよ、それがあなたを説得させたのですね」
「そうです。私があなたに図面を見せるか見せないかの決定が、私の建てた建築物の行く末に大きな差異を生み出すことになるだろうと直感しました。この経験は私にとってとても奇異なことです。これまでは所有者の分身としての建物ばかり建ててきましたから」
「ぼくにはあなたが物語に参加したことがないというのは、いまいち納得がいきませんね。あなたは建てるという行為をとおして参加しているように思いますし、なにより、ぼくが立ち聞きしたときには、あなたは院長にだいぶ干渉していたではありませんか」オルレアンは設計士をそう追及した。
「いやはや、おっしゃるとおり」設計士はわざとらしく頭をかいた。「私も生活がかかっていますからね。みすみす仕事を手放すわけにはいかないのですよ」
「ほんとうにそれだけのためだったのですか?」
「ほんとうですよ。私はそれ以降はほんとうに指一本触れるつもりはありませんでした」設計士は降参するような仕草で手のひらをあげてみせた。オルレアンはその様子をみてもうかつには信じられないなと思いながらも、それ以上はなにもいわなかった。設計士あげていた手をおろして、「もちろん、あなたのおっしゃったことは、一理も二理もあります。私は建物の設計にかかわる以上、原理的に干渉や影響を与えないというのは不可能なのです。しかしそれはしかたのないことなのです。形のないものに形を与えようとする際に避けられないことなのです。あなただって現にいま、私を視覚でとらえることで私に影響を与えているわけです。そのあなたのしかめっ面はバカバカしいというような顔でしょうか。そうなのです。それくらいバカバカしい影響だけを、私も与えてしまっているのです。しかしそれは、たったそれだけのことであるということでもあります」
設計士のいい分には明らかに無理があったが、オルレアンは設計士の煙に巻くような話ぶりに慣れ始めていたから、特に反論をしようとはもう思わなかったり
「よくわかりませんが、あなたのいい分をぼくは認めましょう」オルレアンの心持ちはもやもやするどころか、目的を果たしたことですっきりとしていた。「とにかく、十年後、ぼくに図面をみせていただけること、それさえはっきりさせられたら、ぼくはそれでよいのですから」
「ぼくがいつ誘いましたか?」オルレアンにはその自覚がまったくなかった。
「誘われたといっても、私は親指のつま先を控えめに差し入れるほどのことではありますが」
「どちらにせよ、それがあなたを説得させたのですね」
「そうです。私があなたに図面を見せるか見せないかの決定が、私の建てた建築物の行く末に大きな差異を生み出すことになるだろうと直感しました。この経験は私にとってとても奇異なことです。これまでは所有者の分身としての建物ばかり建ててきましたから」
「ぼくにはあなたが物語に参加したことがないというのは、いまいち納得がいきませんね。あなたは建てるという行為をとおして参加しているように思いますし、なにより、ぼくが立ち聞きしたときには、あなたは院長にだいぶ干渉していたではありませんか」オルレアンは設計士をそう追及した。
「いやはや、おっしゃるとおり」設計士はわざとらしく頭をかいた。「私も生活がかかっていますからね。みすみす仕事を手放すわけにはいかないのですよ」
「ほんとうにそれだけのためだったのですか?」
「ほんとうですよ。私はそれ以降はほんとうに指一本触れるつもりはありませんでした」設計士は降参するような仕草で手のひらをあげてみせた。オルレアンはその様子をみてもうかつには信じられないなと思いながらも、それ以上はなにもいわなかった。設計士あげていた手をおろして、「もちろん、あなたのおっしゃったことは、一理も二理もあります。私は建物の設計にかかわる以上、原理的に干渉や影響を与えないというのは不可能なのです。しかしそれはしかたのないことなのです。形のないものに形を与えようとする際に避けられないことなのです。あなただって現にいま、私を視覚でとらえることで私に影響を与えているわけです。そのあなたのしかめっ面はバカバカしいというような顔でしょうか。そうなのです。それくらいバカバカしい影響だけを、私も与えてしまっているのです。しかしそれは、たったそれだけのことであるということでもあります」
設計士のいい分には明らかに無理があったが、オルレアンは設計士の煙に巻くような話ぶりに慣れ始めていたから、特に反論をしようとはもう思わなかったり
「よくわかりませんが、あなたのいい分をぼくは認めましょう」オルレアンの心持ちはもやもやするどころか、目的を果たしたことですっきりとしていた。「とにかく、十年後、ぼくに図面をみせていただけること、それさえはっきりさせられたら、ぼくはそれでよいのですから」
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