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【第4次報告書】

表題「地球の人間を異世界に招致する際の手順の検討と、それに際する問題点およびその改善策」

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●概要

 異世界における深刻な人材不足、および社会の文化・技術・経済の停滞を解消するために文明レベルの高い地球の人間を転生させることにより解消をしようとしました。
 しかし転生方法の設計に難があったため、それぞれについて多様な問題が発生してしまいました。その発生した問題に対して様々なアプローチでそれを改善しようとしました。
 以下のレポートはそのまとめになります。


●実際試行した転生方法とその採用理由、およびその問題点

A、トラックに轢かれた人を転生させる。

【採用理由】
 対象の選択基準が最も単純で試行が容易であったこと。
 また事故があった場合、日本において高度な社会維持のために重要な交通事情および運送業務を著しく害するため、事故そのものをなくしてしまうという地球側への配慮を主目的とする。

【メリット】
・転生対象者に「慈悲を与えて転生させてあげる」という名目ができるため、恩を着せることによってその後の処理が容易になった。
・転生者選別システムがとても簡易に設定できた。
・不慮の事故であるため、異世界の存在を検知されずに済んだ。

【問題点】
・転生対象者が多すぎた(具体数:1日に約200人~500人)ため、転生案内人兼転生適応監督官(以下、案内人)の負担が大きかった。
・トラックとその他の車種の区別がつかなかった(異世界には自動車が存在しないため、大きな乗り物と小さな乗り物という区別しかできない)ため、転生者選別システムの設定をわずかに変えるだけでその人数が極端に増減してしまった。
・転生対象者の種類が不安定で、転生後に異世界での生活に耐えうる対象者の数が限定されていた(最年少0歳、最高齢97歳、または老人性痴呆症・精神疾患者等の病人など)ため、転生非適格者の処分に困難が生じた。


B、地球の高度情報処理端末「インターネット」を利用した転生法

【採用理由】
 上記の問題点の解消のため。
 またインターネットを最も使用している年代が転生を希望する年代に最も近かったことと、その上である程度こちらから転生対象者の取捨選択が可能であったため。

【メリット】
・こちらで転生対象者の数、質、必要状況における選別が簡易に行えた。
・異世界転生物の小説(こちらが開示している物を除く)を読んでいる層によるサイトのクリックが圧倒的に多く、異世界転生という状況に即座に適応できた。
・一定量の広告収入を得られた(入手した収入に関しては、別紙『活動報告終始決算書』に「特別広告収入」勘定にて記載)

【問題点】
・インターネットの利用に対しての知識が乏しく(異世界人には高度な文明の最先端技術なんて使えるわけがないうえ、地球における案内人もインターネットの詳細については不得手であった)ため、その改善や対策(サイトデザイニング、IPアドレスの追跡対策など)にかなりの手間を要した。
・ある種の詐欺サイトであると疑われ、何度か刑事告訴された。また転生対象者の選別のために行っていた個人情報の収集が、個人情報取り扱い法に抵触してしまった。
・個人間での情報共有がなされ、「アクセスすると(存在を)消されるサイト」と都市伝説扱いされてしまい、一定時期から適当な転生対象者以外の人物以外クリックしなくなった。


C、異世界転生専門教育機関の設置

【採用理由】
 上記の問題点の解消のため。
 また社会福祉法人の一つとして地球側に正式に登録し、異世界へ転移をする旨を事前に告知、転生希望のため加入してきた人の教育、試験、選別を行う。

【メリット】
・社会的地位を確定させたうえでの活動であるため、査察を除けば基本的に全ての活動への信頼性を保持できた。
・公益法人として活動したため、資金的援助がもらえた。その上、労働者に労働と給与を与えることができるため、異世界に人材を移転してしまう分の地球側の損失をA案・B案より多く補填することができた。
・一定量の活動収入を得られた(入手した収入に関しては、別紙『活動報告終始決算書』に「宗教法人活動収益」勘定にて記載)

【問題点】
・転生方法に疑義が持たれたらしく、一定期間は目的通りに活動できたが、最終的にはやはり刑事告訴された。
・活動内容が宗教の一種だと認識されてしまったらしく、一般からの加入者はごく少数であり(昨年24人、今年47人)、しかも転生に適格な資質を持った者がほぼいなかった(元無職、犯罪者など)。
・ある種の悪質な宗教団体と認識され、転生者1名の親族に訴訟された。(現在係争中、訴訟の経緯・進展については別紙記載)


D、特殊な転生方法

【採用理由】
 B案およびC案における訴訟へ対応するために、しばらく転生斡旋事業を休む必要があった。
 しかし長期の休みは認められなかったため、とりあえず選別が行われづらい転生方法を採用して時間を稼いだ。
 ちなみに転生選別方法の具体的な内容は「臀部に直径10㎝以上の棒状の野菜を挿入し、それを使用後に自ら食すこと」である。

【メリット】
・転生対象者がほぼいなかった。
・また時間に余裕ができたため、転生者選別システムの次案の構想を練ることもできた。

【問題点】
・あまりに転生対象者の数が減りすぎたため、クレームが来た。
・選別形式が特殊であるにもかかわらず転生対象者が2名ほど選別されてしまい、その2名があまりに特殊な性質であったため、その後の処理に苦慮した。また、こちらでもクレームが入った。


E、案内人が任意で選択する

【採用理由】
 D案採用による弊害のため、転生対象者を急遽増やす必要があった。そのため、地球における映像受像機(テレビジョン)やインターネットを利用することによって転生対象者をこちらから直接干渉して選択した。
 その際、A案による大量の無作為選択も視野に入れたが、また利用価値の低い者が選ばれてクレームが来る可能性を憂慮し、除外した。

【メリット】
・大雑把な人物評(年齢、職業、事件にどう関わったか)だけで概ねその人柄についての是非がわかった。
・オートのシステムでの選択では存在した不備を、同じ地域社会で暮らしていた案内人による選択だとかなりの部分が軽減できた。
・案内人の事情および異世界側の要請に応じた人数を適宜用意することができた。

【問題点】
・案内人にかかる負担がまた大きくなった。
・案内人の転生選別システムの私物化の兆候が見られた(女性優遇または性的要求の強制など、能力・姿形の優秀な男性に対する露骨な嫌がらせ、老人や幼子等の転生不適格者への露骨な介入など)
・転生対象者同士の関係性が濃い場合が多く、異世界で領土問題や種族差別などの問題が発生した。


F、上位存在における選別

【採用理由】
 地球の生態系を管理している存在による直接選別。
 能力の付与については案内人の権限に残留したままであるが、選別において最も公平かつ正当な選別が行われるだろうと期待されるため。

【メリット】
・その時々において最適な選択が常になされたため、異世界転生事業が今までで最も効率的かつ効果的に行われた。

【問題点】
・人類に対する選別の方法を人類とは上位の存在が直接介入して行おうとするため、被害が拡大した。(具体例・一人を転生させるために大洪水を起こしたり大地震が起こしたりする)
・選別対象者の多かった地域において、人類の生活圏が脅かされるほどの人的損失が大きくあった(大会社が潰れた、医者が連れていかれ病人が激増した、ガンの特効薬を発表する前に転生してしまい社会的に大損した等)
・転生対象者が優秀な者が多すぎて、異世界が発展しすぎてしまい、新しい問題が山積されて対処できなくなった。
・逆に、特に優秀ではない者(非就職者、事故による不遇な死亡者、転生非適格者)が選ばれることが減ってしまい、転生斡旋事業の本来あるべき姿から本末転倒となった。
・また、優秀な者ほど地球に愛着を持っている者が多く、異世界転生自体を拒否して地球に逆戻りする例が多数あった。(別項目「生まれ変わり事件」を参照)
・なぜか案内人の不満が増大し、その業務に支障をきたすようになった。おそらく権利の一部が奪い取られたように感じたからだろうと推測される。



●結論
 転生対象者の選別方法は、まだまだ問題点を多く含んでいる。その改善案が必要である。
 現在はG案「特殊な転生方法その2」を採用することで、考える時間を稼いでいる状態であるが、業務の長期停滞は地球・異世界間の相互損失をもたらしかねない。最も適格な転生方法の模索が早急に必要である。
 以上の報告書を参考にして、より良い転生対象者選別方法を検討していただきたい。





                                    年  月  日
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