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チーズケーキの気持ち
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僕はチーズケーキです。
ケーキ屋さんのショーケースの中で、買ってくれる人を待っています。
今日はショートケーキのショートちゃんの横に並べられました。
彼女のあたまには、かわいくて鮮やかな赤いイチゴが乗っています。
そして真っ白な生クリームをまとい、いつもとくい顔でいます。
それに比べて、僕はとても地味です。
かざりが何もありません。
買ってくれるお客さんもちょっとおとなっぽい女の人や、
なぜかおじさんみたいな人が多いです。
おじさんはとてもはずかしそうに小さな声で、
「チーズケーキをください」と言います。
僕を買うことがそんなに照れくさいのでしょうか・・・。
ああ、できればもっと小さくてかわいい女の子に食べてほしいなあ。
でもこんなに地味な見た目では、
いつまでたっても理想の女の子には振り向いてもらえない・・・。
僕は思い切って、店長さんに相談してみました。
「お願いです。僕のあたまにイチゴを乗せてください。
イチゴがだめなら、ハート型のチョコを乗せてください。お願いします!」
町で一番きれいと評判の店長さんは、驚いてこう言いました。
「そんなことをしたら、あなたのおいしさが台無しよ。
だめです。ぜったいダメ」
「え~。僕、もっとかわいくなりたいんです。
僕の体、かざりが何もないでしょう?
チーズのかたまりだけじゃ嫌なんです・・・」
「そのチーズが何よりぜいたくなのよ。
お店特製の、それはそれはおいしいチーズなのよ。
シンプルだからよけいにごまかせない。
あなたには特に気を使っているの」
店長さんはいつになく真剣な顔で、僕に言ったのです。
僕はがっかりしてしまいました・・・。
見た目をかわいくしてほしいだけなのに・・・。
この地味な姿のまま、ずっとここにいなくてはいけないの・・・?
しばらくするとお店のドアが開き、
理想の女の子がお母さんといっしょに入ってきました。
ケース越しに僕は必死にアピールしました。
希望を込めて、「買ってください!」と叫びました。
するとその様子を見ていたショートちゃんが、
くすくす笑いながら言いました。
「いくら頑張ったって無理よ。
あの子は私を選ぶわ。服を見てごらんなさいよ。
私のかざりと同じ、イチゴが付いているわ。
あの子はイチゴが好きなのよ」
ショートちゃんに言われたとおり、
真剣にケーキを選んでいる女の子の服を見てみました。
上品でかわいらしいピンクのワンピースには、
真っ赤なイチゴのアップリケが二つ付いています。
イチゴが好きなんだ・・・。
それにこんなにかわいい服を着ている子が、
僕みたいな地味なケーキを買ってくれるはずないよな・・・。
僕はひどく落ち込みました。
やっぱりこれじゃ食べてもらえるどころか、目にも留めてもらえない。
ショートちゃんみたいに、
見た目がきらきらしたケーキに生まれたかったよ・・・。
その時です。
うなだれている僕に、
女の子の小さくてふっくらとした指先が伸びたのです。
「すいません、これを一つください」
「まあ、チーズケーキでいいの?
ショートケーキやチョコレートケーキもおいしそうよ?」
お母さんの言葉にも迷うことなく、
女の子はもう一度はっきりと僕の名を言いました。
「チーズケーキを一つください」
「かしこまりました。お買い上げありがとうございます」
店長さんはにっこり笑って、僕をケースから取り出しました。
レジを済ませた後、女の子はとても幸せそうでした。
「このお店のチーズケーキ、とってもおいしかったの。
前にパパが買ってきてくれた時、私感動したのよ。本当に大好きなの」
「ありがとうございます。また是非来てくださいね!」
店長さんはとびきりの笑顔を見せた後、僕に軽くウインクをしました。
僕は最高に嬉しかったです。
こんな地味でも、ほめてくれる人がいる。
おいしいって言ってくれる人がいる。
すっごく幸せだなあ。
かわいいかざりはないけれど、
おいしく作ってくれた店長さんに、感謝の気持ちでいっぱいになりました。
そしてこの時はじめて、
チーズケーキに生まれてよかったと、心から思えたのでした。
ケーキ屋さんのショーケースの中で、買ってくれる人を待っています。
今日はショートケーキのショートちゃんの横に並べられました。
彼女のあたまには、かわいくて鮮やかな赤いイチゴが乗っています。
そして真っ白な生クリームをまとい、いつもとくい顔でいます。
それに比べて、僕はとても地味です。
かざりが何もありません。
買ってくれるお客さんもちょっとおとなっぽい女の人や、
なぜかおじさんみたいな人が多いです。
おじさんはとてもはずかしそうに小さな声で、
「チーズケーキをください」と言います。
僕を買うことがそんなに照れくさいのでしょうか・・・。
ああ、できればもっと小さくてかわいい女の子に食べてほしいなあ。
でもこんなに地味な見た目では、
いつまでたっても理想の女の子には振り向いてもらえない・・・。
僕は思い切って、店長さんに相談してみました。
「お願いです。僕のあたまにイチゴを乗せてください。
イチゴがだめなら、ハート型のチョコを乗せてください。お願いします!」
町で一番きれいと評判の店長さんは、驚いてこう言いました。
「そんなことをしたら、あなたのおいしさが台無しよ。
だめです。ぜったいダメ」
「え~。僕、もっとかわいくなりたいんです。
僕の体、かざりが何もないでしょう?
チーズのかたまりだけじゃ嫌なんです・・・」
「そのチーズが何よりぜいたくなのよ。
お店特製の、それはそれはおいしいチーズなのよ。
シンプルだからよけいにごまかせない。
あなたには特に気を使っているの」
店長さんはいつになく真剣な顔で、僕に言ったのです。
僕はがっかりしてしまいました・・・。
見た目をかわいくしてほしいだけなのに・・・。
この地味な姿のまま、ずっとここにいなくてはいけないの・・・?
しばらくするとお店のドアが開き、
理想の女の子がお母さんといっしょに入ってきました。
ケース越しに僕は必死にアピールしました。
希望を込めて、「買ってください!」と叫びました。
するとその様子を見ていたショートちゃんが、
くすくす笑いながら言いました。
「いくら頑張ったって無理よ。
あの子は私を選ぶわ。服を見てごらんなさいよ。
私のかざりと同じ、イチゴが付いているわ。
あの子はイチゴが好きなのよ」
ショートちゃんに言われたとおり、
真剣にケーキを選んでいる女の子の服を見てみました。
上品でかわいらしいピンクのワンピースには、
真っ赤なイチゴのアップリケが二つ付いています。
イチゴが好きなんだ・・・。
それにこんなにかわいい服を着ている子が、
僕みたいな地味なケーキを買ってくれるはずないよな・・・。
僕はひどく落ち込みました。
やっぱりこれじゃ食べてもらえるどころか、目にも留めてもらえない。
ショートちゃんみたいに、
見た目がきらきらしたケーキに生まれたかったよ・・・。
その時です。
うなだれている僕に、
女の子の小さくてふっくらとした指先が伸びたのです。
「すいません、これを一つください」
「まあ、チーズケーキでいいの?
ショートケーキやチョコレートケーキもおいしそうよ?」
お母さんの言葉にも迷うことなく、
女の子はもう一度はっきりと僕の名を言いました。
「チーズケーキを一つください」
「かしこまりました。お買い上げありがとうございます」
店長さんはにっこり笑って、僕をケースから取り出しました。
レジを済ませた後、女の子はとても幸せそうでした。
「このお店のチーズケーキ、とってもおいしかったの。
前にパパが買ってきてくれた時、私感動したのよ。本当に大好きなの」
「ありがとうございます。また是非来てくださいね!」
店長さんはとびきりの笑顔を見せた後、僕に軽くウインクをしました。
僕は最高に嬉しかったです。
こんな地味でも、ほめてくれる人がいる。
おいしいって言ってくれる人がいる。
すっごく幸せだなあ。
かわいいかざりはないけれど、
おいしく作ってくれた店長さんに、感謝の気持ちでいっぱいになりました。
そしてこの時はじめて、
チーズケーキに生まれてよかったと、心から思えたのでした。
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