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梢鳴る中継地

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 エストレデルにも、科学技術というものが多少存在する。
 その技術は速度に波こそあるものの、着実に進化を続けていた。

 フェルケが飛行艇の発着場として栄えたのは、周囲に森林の無い、見事な平地だったためである。
 その街が出来た当時は、国有の飛行艇による大陸探索が盛んに行われている最中で、飛行艇はまだ一般に普及していない技術だった。当時の飛行艇は、離着陸に長い助走距離を必要としたため、フェルケは最適な場所だったと言えよう。
 首都フェルデクレートも同じく平地の中に立っていた。それは特に問題ない。
 問題なのは、シオン山脈を越える最大の理由たるクレシェラ図書館と、フェルケとの距離だった。
 どうしても数日かかる上、間には森がある。迷ってそのまま帰れなくなる者も少なくなかった。
 そこで二つの中間に作られた村が、ラッサノーレである。
 中継地の役割を果たすべく、森の一部を最低限のみ切り開いて作られた。最初は宿と食料店しかなかったような村だが、次第にそこに住まうものも増え、本や筆記道具を扱う店や、旅行者向けの武器屋など、施設が増設されるにつれ面積も広がっていった。商業地の面積だけなら、現在ではフェルケとそう変わらない。



………………



 人が歩いた事で出来た道を歩き、木々に囲まれた視界が開ける。
 そこにはいくつかの民家とおぼしき建物。奥には大きな建物も見える。
 しかし、それ以上に目立つのが、土木工事をしている風の獣人族達。数は決して少なくない。一様に暗い表情で、人間に言われるまま働いているようだ。
「……これは」
 全員が無意識に表情を歪めている。
 獣人族に対して良い感情を持っていないジンガでさえ、その光景から目を背けた。
「……ここもつい最近、管理者……村長が変わったはずだ」
 帽子を深く被ったミィメーリィが、低く呟く。
「って言うと」
「村長が病死した。うちと同じだ」
「前の村長さんは、もしかして……」
「偏見が無いタイプ、だな。何せこの辺りの森には、獣人族の集落が点在している。共存出来ない人間はまずここに残らない」
 街の奥へ向かって歩いていると、所々に騎士らしい甲冑を身につけた人物が立っている事に気づいた。
「騎士団が派遣されてるってのは本当だったか」
「獣人族を騎士に監視させてるってわけか」
 居心地悪ぃ、とジンガが呟く。
 ラカーシャはため息をつき、周囲を見渡した。
「とりあえずとっとと宿決めて、明日の朝には出るぞ」
 異議なし、とジンガ。他の2人も黙っていた。
 そこへ、騎士を引き連れた人物が歩いてくる。
 一行はそれを避けるべく端へ行ったが、歩いてきた人物は、彼らの前を塞いだ。
「そちらが、伝承の聖女とその護衛かね」
 先頭の初老の男が、偉そうに言う。
 ジンガとラカーシャが、女子2人を背に庇った。
「だったら何だっつんだよ」
「クレシェラ図書館の方から連絡が来たのでね」
「騎士団に護衛いただく話でしたら、お断りするとお伝えしたはずですが」
 喧嘩腰のジンガと、あくまで丁寧に返すラカーシャ。
 男はラカーシャに視線を止めた。こちらの方が話しやすいと判断したようである。
「王国としても、伝承の聖女を護衛するのがどこの馬の骨ともわからんものでは不安でね」
「あんだと」
「申し訳ありませんが、彼女の意思ですので」
 ジンガの口を塞ぎながら、ラカーシャが断る。
 後ろに立っていた騎士らしき少年が、男の隣に立つ。人なつっこそうな表情だが、顔の左半分を黒い仮面で隠していた。それさえなければ別の意味で注目を集めそうな、整った顔立ちをしている。
「信用無いの? 酷いなぁ」
「いえ、そういうわけでは。ただ、彼女は結構人見知りな所もありまして」
 同意を求めるように、ラカーシャが香里を振り返る。香里は無言で頷いた。
「翌朝にはフェルケに発ちますんで、お構いなく」
「では、我が屋敷に泊まってはいかがかな? 我らの救世主となる聖女を、このような安宿に置くわけにはいかんだろう」
「今この村にはこれだけ獣人族がいるからねー。村にいる間に何かあったら俺らの責任になっちゃうんだよね」
 それぐらい譲歩しない?と少年がラカーシャに言う。
 挑戦的な視線に、ラカーシャは警戒を露わに睨み返した。
「……どうする?」
 ラカーシャに問われ、香里は顔を上げる。
 確かに、聖女の敵とされる獣人族がこれだけいて、かつ人間に従属させられている状況は、危険極まり無い。
 相手にはこちらを攻撃する理由はあるし、力の強い獣人族相手では、騎士であっても下手な戦い方をすれば負けるだろう。
 守る盾は、多いに越した事は無い。
 ラカーシャの中では結論は決まりかけているようだが、最後の判断は香里に任せる気のようだ。
「……じゃあ、一晩だけ、お世話になります」
 香里の返答に、男は満足そうに笑って頷いた。




「なんでこんなトコの世話になんなきゃいけないんだよ」
 男性陣にあてがわれた部屋に、全員が集まっている。
 不満そうなジンガの第一声に、ラカーシャとミィメーリィがため息をついた。
「さすがにあの数全部で来られたら、守れるかどうかわからんだろうが」
「んなもん……」
「そう。解らない。だがボクらの守ってるものを忘れるなよ?」
 ミィメーリィの言葉に、ジンガは口を噤む。
 あの、と香里が控えめに挙手をした。ラカーシャが手で促すと、小さい声で話す。
「それだけの力があるのなら、あの人たちは、なぜ人間に従っているんでしょう?」
 あぁ、とミィメーリィがこぼした。
「おそらくは、子供か何かを人質にされてるんじゃないか?」
「人質!?」
「……確かに、それぐらいしか思い浮かばないな」
「ここは確か、フェルケに変わる飛行艇の発着場としての開発案が出ていた。今それが実行されてるんだろう」
 獣人族の腕力なら、人間の何倍も仕事が出来る。
 この辺りには、獣人族の集落が点在しているため、それだけ数もあるのだ。
「……人質なんて、そんな…」
「……屑野郎ばっかりだな」
 悲しそうに俯く香里と、忌々しげに吐き捨てるジンガ。
「君は、獣人族が嫌いなんじゃないのか」
「騎士も同じくらい嫌いなんだよ」
「うわー、やっぱり俺たち信用ないのねー」
 背中から聞こえた声に、全員が一斉に振り返る。
 現在の村長と一緒にいた、仮面の騎士が扉の側に立っていた。反射的に香里を除く3人が身構えると、騎士は両手でそれを制す。
「喧嘩したくて来たわけじゃないの!」
「何かご用ですか」
「ノックくらいしていただきたいものですね」
「したよー。内緒話に夢中で聞いてなかったんでしょ?」
 騎士は肩を竦めてみせるが、3人は警戒を解く様子は無い。あからさまなため息を吐いた。
「安心してよぉ、何話してようと俺には関係ないから」
「あなた、は」
「ホルト」
「はい?」
「ホルト・コーディエ・アレグレットっていうの。よろしくね聖女様」
 銀髪の騎士は、左胸に手を当てながら、丁寧な礼をしてみせた。
 えと、と香里が口ごもる。
「聖女様、お名前はー?」
「つかお前なんで居座ってるんだよ!」
「んだよ、仲良くなろうと思っただけじゃなーい。首都に戻ったらどうせ会うんでしょ?だったら早く仲良くなりたいじゃん」
 ね?と人なつっこい笑顔を見せた。愛嬌のある顔立ちだけに、その威力は高い。
「……俺はあんまり仲良くなりたくない」
「なんだよぉ、女みたいな顔してると思ったら根性も女々しいわけぇ?」
「お前に言われたくないわっっ!!!!」
「じゃあ信用してくれないなら、信用してもらえそうな情報流してあげよっかなー?」
 なおも抗議するラカーシャを無視し、ホルトは香里に歩み寄り、その耳に何事かささやいた。一連の動作があまりにも早かったため、止める間もなく。
 3人が間に入ろうとすると、あっさりと身を引いた。扉に手をかけて、不敵に笑う。
「どうするかは君次第」
 好きなように使いなよ、と言いながら、扉の向こうへと消えていった。ラカーシャがすぐに扉へ駆け寄り、鍵を閉める。
「……そういえば、さっきも鍵閉めてたはずだよな」
「合い鍵くらい持っているんじゃないか?」
「じゃあ、鍵付いてても意味ねーじゃねぇか」
 3人が盛大なため息をつく中、香里は何事か考え込んでいた。
「香里、どうしたんだ?」
 ビルハが尋ねると、3人の視線も香里に向く。
「部屋を出て、右手の階段を地下まで降りる」
「……は?」
 理解できない様子のジンガとビルハ。対して、ラカーシャとミィメーリィは、何か思い当たったようである。
「地下牢の中。……って」
「……人質の居場所か」
 今し方閉めた鍵を開け、4人と1匹が部屋から飛び出した。


 薄暗い地下牢。
 寒くて湿気のある場所だった。見張りの騎士に『ホルトという騎士に許可をもらった』と告げると、彼は何も言わずに4人を通す。
 大きな牢屋の中に、20人ほどの獣人族の子供たちが捕らわれていた。口々に何か訴えるもの、あきらめたように地面に横たわるもの、それを気遣うもの。
 その中で、1人が牢屋の奥から空間を隔てる鉄格子まで駆け寄ってきた。ピンクと白のしま模様の耳としっぽ。少女は香里の姿を見て安堵の表情を浮かべる。
「聖女さま!」
「あなたは……!」
 鉄格子越しに2人は再会を喜び合った。仲間たちは顔を見合わせる。
「どういう知り合いだ?」
「……あれじゃないか。来た直後に助けたっていう、獣人族」
「あぁ、言ってたなそんな事」
 3人が納得した頃、香里は仲間たちに少女を紹介した。
 と言っても、香里自身、助けた時には名前を聞いていなかったため、彼女のニーナという名前はここで初めて知る事になったのだが。
「やっぱり、ニーナのご両親も……」
「たぶん、働かされてるよ。……あいつら酷いんだ。みんな卑怯な手で捕まってる」
「……私、何か言ったら変わるでしょうか」
 香里が縋るような目でラカーシャを見るが、彼は首を横に振る。
「むしろ止めた方が良い。人間の旗印の聖女が、敵対する魔族に温情を見せるなんて、何言われるか解らない」
「……気持ちだけで嬉しいよ。ありがと、聖女さま」
 ニーナの優しい微笑みに、香里の胸には何とも言えない痛みが生まれた。
 長居は無用、というニーナの忠告を守り、4人は地下牢を後にする。
「ビルハ」
「んあ?」
「……私、聖女なんですよね」
 暗い表情で尋ねる香里に、ビルハは明るく返した。
「もっちろんさ! 君が聖女じゃなかったら他に誰がいるってんだい!!」
「私、人間しか助けられないんですか?」
「そりゃ、……そのために、召喚されたわけだから」
「なんで彼らを助けてはいけないんですか?そんな事、誰が決めたんですか?」
「カオリ、落ち着いて、落ち着いて…」
「何で仲良く暮らす事は出来ないんですか?」
「カオリ」
 ぽん、とラカーシャの手が香里の頭に乗る。優しく撫でながら、困ったような表情で微笑みかける。
「悪いな。お前の力になれなくて」
「……ラカーシャさん」
「生まれた時からそれが当たり前の連中からしたら、香里の言う事は難しいんだよ。それが正論だとしても」
 彼の言葉は、彼が香里の考えを肯定している事を示していた。
「君が望むなら、時間はかかるだろうが、いくらでも変えていける。……今は、人々にとって君が聖女かどうかすらも危ういけれど、でも」
 それを抜きにしても君は1人じゃないだろう?とミィメーリィが同意を求める。
 香里は3人の顔を見回し、頷いた。
「……ごめんなさい、私……」
「あーそういうの無し!愚痴の一つや二つでいちいち謝られてたらキリねーっての」
 ジンガが香里の頭を乱暴に撫でる。
 それをビルハが怒るが、ジンガは知らん顔。
 ミィメーリィがこっそりと香里に耳打ちする。
「愚痴の一つや二つは言っても構わないそうだ。存分に頼りにしてやれ」
「……はい!」
 その後は再び部屋に籠もり、子供たちを解放するための作戦を考える事になった。
 おそらくお互いの命がかかっているからこそ、彼らは従順にしているにすぎない。どちらか片方を解放すれば、自ずからもう片方も自由になれる。
 問題はその方法だった。
「見たところ、鍵は結構簡単な奴だったっぽいぞ」
「それはお誂え向きだな」
「何が?」
「ここに、盗賊が1人いるじゃないか」
 ミィメーリィがジンガを振り返る。
 3人の視線を受けたジンガは、居心地悪そうに顔を背けた。
「そういやそうだな」
「鍵開けぐらいは習ってるんじゃないか?」
「いや、まぁ、それぐらいは……」
 歯切れの悪い返答をするジンガに、香里が詰め寄る。
「お願いですジンガさん!力を貸してください!!」
「あ、あぁ、もちろんだぜ!」
 いつになく挙動不審な彼の様子に、ラカーシャとミィメーリィは言いようの無い不安を覚えた。対して香里はそんな事は気にもせず喜んでいる。
 どうせ自分たちは朝には旅立つ身。
 その直前に解放して、後は彼らの考えに任せようと話し合いは結論した。




………………



 翌朝。
 身支度を万全にした一行は、お互いの顔を見合わせ頷きあう。
 何やら外が騒がしいのが気になったが、警備の注意がそちらに向いているならかえって好都合。
 4人が階段を下りようとしたまさにその時。
「聖女様ご一行ストォォォーーーーップ!!!!」
 後ろからの大声に驚き、4人が大げさすぎるほどに身を竦ませる。
 何事かと振り返った瞬間、駆け寄ってきた騎士が、香里だけを担ぎあげて奥へと走りさった。
 それを見送るホルトの胸ぐらを、ジンガが掴みあげる。
「てめぇっ、カオリに何する気だ!」
「事情が変わったよん。今日出発は止めたが良い」
「何でお前にそんな事……」
「ままままま。人の話はちゃんと聞こうぜ。つーか」
 突如響きわたる轟音。窓ガラスが震えるほどの。
 それが獣の雄叫びである事に気づくまで、少し時間がかかった。
「あれ聞きゃ解るよね?」
 3人が窓を覗き込むと、窓の下には巨大な猿獣。家屋ほどの高さもあろうかというそれは、目につくものすべてを破壊せんと拳を振り回している。
「でかっっ!!!!」
「何食ったらあんなんなるわけ!!」
「突然変異。……だとは思うが」
 その周囲で暴れている猿獣たちは、一般に認識されているのと変わらない大きさだ。
 明らかにあれだけが異質である。
「ね、だから聖女様は騎士団の方で守らせてもらうよ。危険だしね」
 3人が何か反論するより早く、ホルトは背を向けた。
「じゃ、俺仕事すっからー」
 ひらひらと手を振り、ホルトは呼びに来たのであろう騎士と共に階段を下りていく。
 その姿が見えなくなった後、3人は再び窓へと視線を向けた。
 人々が逃げまどう中に、獣人族も紛れている。正確には、逃げているフリをしているだけのようだ。猿獣をからかっているようにも見える。退治に協力する気はさらさら無いようだ。
「おいおいこの期に及んでまだ……」
「あんな待遇じゃ仕方ない。それに、子供たちを助ける事が出来れば、協力してくれるかもしれない」
 2人の視線がジンガに向く。対する彼の方は、表情を固くした。
「不本意だが、お前だけが頼りなんだ」
「善は急げだ。地下牢へ急ごう!」
 乗り気でない様子のジンガを完全に無視し、2人は走りだす。
 彼の呟きが、2人の耳に届く事は無かった。




 3人が獣人の子供達を救出すべく奔走している頃、香里は屋敷の奥にある村長の執務室にいた。
 最初見た時から彼女も仲間も感じていた事だが、村の規模に対して大きすぎる屋敷である。それに加えて、地下牢が存在したり部屋が豪華だったり、明らかに村長の権限の範囲を超えてるように香里の目には映った。
 部屋の中には村長とその家族がおり、護衛のための騎士が2人、入り口に立っている。
 居心地の悪い部屋の中で、香里は膝の上に乗っているビルハをひたすらに撫でていた。自分を落ち着けるために行っている事だが、ビルハの毛並みは荒れる一方である。それでもビルハが文句を言わないのは、香里の心情を思っての事だった。
 屋敷が僅かに揺れる。襲ってきた魔物が、この屋敷に標的を変えたのかもしれない。
「騎士共は何をしとるんだ!!魔物ぐらいすぐ始末できんのか!!」
 村長の怒鳴り声に、入り口に立っている騎士が恐縮する。
「何分、前例が……」
「何のために税金使って養ってると思っているんだ!! 勘弁してくれよ全く……」
 ビルハの毛並みが激しく乱れた。もう完全にされるがままである。
「発着場の完成が遅れるほど損失が出るというのに…」
 餌代だけでバカにならない。
 その言葉が何を示しているか気づいた香里は、無言で立ち上がる。
 どうしたのかと尋ねる村長を無視し、扉の方へ向かった。開けようとすると、騎士が彼女の前に立ちはだかる。
「危険ですので、ここにいていただかないと…」
「嫌です」
「こちらも上からの命令ですので…」
「だったら、私の仲間だってここにいて良いはずです」
 どいてください。
 静かだが強い声音で、香里が言う。騎士は戸惑いながらも、彼女のために扉を開いた。
 香里は廊下を走り出す。
 とりあえず、仲間がさっきまでいたはずの場所を目指した。





 3人が地下牢に着いた時、見張りはいなかった。
 これ幸いとなだれこむ。建物が時折揺れるため、囚われの身である子供たちも、何かおかしい事には気づいているようだ。
「聖女さまの仲間のにいちゃんたち!」
「大事ないか?」
「ここ頑丈だから、建物が潰れない限りだいじょぶだよ」
 ラカーシャが牢屋の中の子供たちを見渡す。
 衰弱している者もかなりいるようだ。彼はジンガを振り返る。
「頼む、急いでくれ!」
「あ、あぁ……」
 ジンガは懐から長い針金を取り出し、鍵穴に向かう。
 難しい顔をして、鍵穴に針金を入れて動かした。どことなく手つきがぎこちない。
 それからどれほど過ぎただろうか。
 明らかに2人が苛立っているからだろう。ジンガの手つきは更にぎこちないものになった。
「ジンガ」
「おう」
「もしかして、出来ないとか…」
「……習ったのは確かなんだが、その、細かい事苦手でなぁ……」
 2人の口から呆れたため息が漏れる。
「し、仕方ねぇじゃんか! あんな顔して言われたら断れないだろうが!」
「あぁ、まぁ気持ちは……解らなくはない」
「……どんな頼み方されたんだろうね」
「ボクから見たら至って普通だったが」
 落胆する2人に対し、子供2人は首を傾げる。
「とにかく、早くここ開けてやらねぇと」
「だがジンガが鍵を開けられないのでは、他に何の手がある?」
「そこ開ければ良いのー?」
 3人が驚いて振り返ると、ホルトが笑顔でそこに立っていた。
「何こんなトコで油売ってんだよ!魔物は!?」
「それがねー、苦戦してるのに獣人族のみなさんが言うこと聞いてくれなくて困ってるのよー。子供たち解放したら言う事聞いてくれるかなと思って」
「……魔物とみんなを戦わせようっての」
「別に難しい事じゃないでしょ?」
 腕っ節に自信があるのが君たちじゃない。
 挑発するような物言いに、ニーナは眉を顰める。
「その代わり、逃げた後の事は俺は知らない。好きにすれば?」
 言いながら、ホルトはジンガから針金を奪い取り、鍵穴に入れて何度か動かした。
 軽やかな音と共に、鍵が外れる。
「はい、どぞー」
 呆気に取られているうちに、扉が開く。
 子供たちは手で出るように示すホルトの顔と、ジンガ達3人の顔を見比べた。
「まだ走れる奴はいるか!?」
 ニーナが呼びかけると、負けん気の強そうなのが手を挙げたり飛び跳ねて存在を主張する。
 その数を確かめると、ニーナは頷いてジンガ達を向いた。
「あたしらは大人にかけあってくる。他のみんなを外まで誘導してほしい」
「……任せろ。その代わり、そっちも頼むからな」
「合点承知だい!」
 にっこり笑うと、先ほど挙手をした子供達を連れてニーナは走り去っていく。
 その様子に、ホルトは口笛を吹いた。
「随分あっさり聞いたなぁ」
 それが彼女を助けた事のある香里のおかげである事は、誰も口にしない。
 その事実は、彼女が聖女としてこの世界に生きるには少々不利に働くだろうと考えての事だった。
「……俺たちも行こう」
 ラカーシャは牢屋に入り、子供たちの様子を確かめる。
 最初は人間だからと嫌がった様子の彼らは、彼の話を聞いておぼつかない足取りで牢屋の外へと向かっていった。
 ジンガとホルトは彼らの先頭を歩き、屋敷の外へと導く。後ろはラカーシャとミィメーリィ。ラカーシャの方は、衰弱して動く事の出来ない子供を背負っていた。
 屋敷の入り口では、騎士が慌ただしく走り回っている。
 彼らの1人がホルトの姿を見つけ、駆け寄ってきた。
「アレグレット隊長!!どこにおられたのですか!?」
 隊長。
 現在この村に来ているのは小隊。つまり、この村にいる騎士たちの最高責任者、またはそれに近い人間を指した呼称である。
 ジンガが信じられないという表情で彼を見た。視線を受けている方は涼しい顔である。
「どこでもいーでしょー。獣人族のガキ共は通してやったか?」
「はい、ですが……」
「何?」
 言いにくそうに顔を俯けた騎士は、小さい声で報告する。
「聖女が……負傷した騎士の治療を終えると、外に飛び出していってしまいまして……」
 止めようとしたのですが、その直後に獣人族の子供達がなだれてきたもので、と、彼の報告は続いた。
 ホルトが冷たい視線をジンガに向ける。
「あのお嬢さん、結構向こう見ずなのね」
「……俺も知らなかった」
「…まぁいいや」
 ホルトは3人と分かれて、騎士達を捕まえて指示を与えていった。
 その間に3人は、子供達を連れて外へ出る。
 猿獣の数は大分減っているようだった。今まで高見の見物を決め込んでいた獣人族が、協力している事が大きい。
 とりあえずの作戦の成功に、3人は胸を撫でおろす。
 元気を失っていた子供達も、日の光の下に出て、自分の両親を見つけて生気を取り戻した。親の方から迎えに来る者、親を見つけると矢のように走っていく者。
 子供が親元に帰っていくにつれて、猿獣の数も減っていく。
 戦意を喪失して逃げるものが増える中、ただ1匹、あの巨大な猿獣だけが暴れ続けている。
「みなさん!!」
 聞き覚えのある声に視線を向けると、香里が桃色の毛並みの虎に跨り、走ってくる所だった。
 虎は3人の前で止まり、身を低くして香里を下ろす。
 呆気に取られている3人に、彼女は微笑んだ。
 と同時に、ラカーシャの背でぐったりしている少女に気づく。
「ラカーシャさん、その子は……!!」
「あぁ、だいぶ弱ってるみたいなんだ」
 少女は座ったラカーシャに抱かれて、苦しそうに呼吸していた。虎は少女に近づき、その頬を舐める。
「エリシアは生まれつき体が弱いんだ。聖女さま、ちょっとだけ治癒使ってあげて」
 お願い、と虎が言う。
 3人はその様子を見てしばらく固まっていたが、その声をどこかで聞いた事がある事に気づき、すぐに顔が一致した。
「おま、ニーナか!」
「当たり前じゃんか。他の奴は人間を背中に乗せるなんて絶対やらないよ」
 その会話の間にも、エリシアに治癒が施される。彼女の呼吸が安定するのを見て、虎のニーナは頭を香里に擦りつけた。
「もちろん、あたしも聖女さましか乗せる気ないけど」
 ニーナが誇らしげに笑う。香里は嬉しそうに笑い返して彼女の頭を撫でた。
「さて、残るはあのでっかいのだけか…」
 エリシアの親に彼女を託し、獣人族に森まで誘導された猿獣を見る。
 まだ家屋に未練があるのか、村を振り返っては獣人族の攻撃で森を向くのを繰り返していた。
「やっぱりトドメ刺さないとだよな」
「んだねー。どーしたもんかなぁ」
 いつの間にか隣にいたホルトに驚き、ジンガが転んで地面に倒れる。
「何してんの?」
「おま、いつからそこに…」
「今さっき。いやーまいったね」
 頭をかきながら言うホルトは、困ったような表情で巨大な猿獣を見上げていた。
「何せ剣も届かないからね。うちの隊、術士いないからどうしよっかなー」
 ちらり、と彼の視線がミィメーリィを向く。
 彼女は視線に気づいてホルトを見上げた。
「何か言いたそうだな」
「んーん、俺は別にー?ただ魔術ならあそこまで届くかなーって」
「……届くかもしれないが、距離があれば当てるのは難しい」
「あれだけデカいと、氷で足止めしても意味が無さそうだしな…」
「足下へ行ったら……」
「ちょっと動いたら踏まれてぺしゃんこ」
「ですよね……」
 未だぐるぐる回っている猿獣と、村の様子を見比べる。
「高さを合わせて攻撃する他ないだろう。物見台みたいな物が無かったか?」
「あったけど、さっき猿が暴れて壊してたよ」
「と、なると、あと高い建物で壊れても悔いが無さそうな所……」
「あれじゃね?」
 ホルトが笑顔で指さした先には、さっき出てきたばかりの村長の屋敷。
「………冗談でもキツいぞ、小隊長殿」
「いやいや、俺はこういう時は非常に真面目だけど?」
「個人的には賛成だが、あれやこれやと文句を言われるのは誰だと思ってるんだ?」
「えー、非常事態なんだよー?村長さんにも協力してもらおうぜー?」
 子供がするように頬を膨らませる騎士の姿に、全員が呆れたため息をついた。
 ラカーシャとミィメーリィは顔を見合わせ、小さく頷く。
「仕方ない。何か言われたら作戦の提案はそこの小隊長殿から出たと説明しよう」
「人に責任押しつける気か」
「とりあえず、上がってどこからなら狙えるか探しておこう」
 ホルトの言葉を無視して、2人は屋敷へと入っていった。
 ニーナは仲間の様子を見に行くと言って走り出す。
 彼女の姿が他の家の影に隠れた時、悲鳴と共に人が倒れる音が響いた。
 見ると、獣人族の男性が、腹を押さえて地面にうずくまっている。爪か何かで攻撃されたのだろう、その腹から血が流れていた。
「大丈夫ですか!?」
 香里がジンガの制止も聞かずに走り出す。
 治癒を施そうとする彼女の手を、男性は払った。憎悪の滲んだ瞳で、地面に倒れた香里を睨む。
 強く払われた手に痛みを感じながらも、香里は再び男性に向き直った。彼の拒否の視線を無視して、治癒の術を詠唱する。
 痛みが和らいでも、男性の険しい表情は変わらない。
 ただ香里は男性の腹からの出血が止まったのを見て、ほっと息を吐いて立ち上がった。不意に自分の周りだけ暗くなった事にも気づかず、仲間の所に戻るべく走り出す。
「おい、あんた……」
 後ろから男性が呼んだが、香里は振り返らない。正確には、振り返れない。
 香里は腰の辺りを大きな手に摘まれ、地面から若干、宙に浮いていた。ちょうど、ビルハが空を飛んでいる時の姿勢に似ている。
 そのまま彼女の姿が空へと上っていった。腰を摘んでいる猿獣の顔の前で上昇が止まる。
「カオリ!!」
 2階の窓から顔を出したミィメーリィが、真っ青になって叫んだ。彼女の後ろから顔を出したラカーシャも、表情をひきつらせている。
「こ、これはヤバいぞ…」
「あぁ、そりゃあな」
「もうちょっとでパンツ見えそうだし!!」
 隣に立って事態を見守っているホルトが、若干嬉しそうな声音で言った。ジンガがずっこける。それはもう見事に。
「い、いま、なん……?」
「あ? 女の子のパンツを見たいと思うのは、男の純粋な永遠の願望だろう!?」
「あぁ、まぁ……ってそうじゃない!!!!」
「てめぇ何いい子ちゃんぶってやがんだ!あんなガードの堅いロングスカートが、この高低差なら何の障害にもならないんだぞ!!!!」
「だーかーらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
 ジンガの抗議は途中から悲鳴になった。上空から殺意と共に氷の刃が降り注いだためである。
「お前ら真面目に戦えぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!」
 屋敷の窓から身を乗り出したミィメーリィが怒鳴っていた。怒りに我を忘れている彼女を、落ちないように支えているのはラカーシャの両腕である。
「真面目にったってー、俺らじゃ攻撃届かないっつってんじゃーん」
「……誰のせいだと思ってんだっつの」
「はいはい何でも俺のせいですぅー」
「お前ホンットむかつく……!!」
「じゃ、俺らも上行こうか」
 疑問符を浮かべるジンガを無視して、ホルトは屋敷の中へと走っていく。

 一方、香里は呆然としていた。
 周囲が焦れば焦るほど、意識が遠のいていく。
 あぁ空が青いとか、そんな事ばかり考えていた。
 それは猿獣を刺激しないという意味では、最良の選択肢だったかもしれない。
 猿獣の方は、単に興味を引かれた香里を持ち上げて摘んで見ているだけなのだが、人質を取られている状況に、周囲の攻撃の手も止まっている。
 何せ摘みあげられているのは、騎士達にとっては守るべき聖女、獣人族にとっては仲間の命の恩人。落とされたら無事に済まない高さだけに、迂闊に手を出すわけにはいかない。
 聖女のおかげで、事態は図らずも硬直状態だった。

 奇妙な静寂に包まれつつある村。屋敷の屋上に上ったホルトは、それを不快そうに見下ろしていた。
「ホント……なんでこんなんなってんだかなぁ」
「俺が聞きたい……」
 ホルトの後ろから、必死に走って追いついてきたらしいジンガが、息も絶え絶えに言う。
 彼の言葉を無視し、ホルトは下を見下ろした。猿獣と聖女、その下を見て、満足そうに笑う。
「アンタ、ここでしばらく待機ね」
「は?」
 その言葉の真意をジンガが尋ねる前に、ホルトは剣を抜いて屋根から飛び降りた。
 ジンガは驚いて下を覗きこむ。ちょうどホルトの剣が猿獣の腕に突き刺さる所だった。猿獣の悲鳴と共に、香里を摘んでいた手が緩む。彼女は空中にゆっくりと投げ出された。
 悲鳴を上げる余裕は無い。
 ホルトは必死に振り回される腕から逃れ、着地した猿獣の肩から跳躍し、2階の窓枠に飛びついた。
 彼の腕をラカーシャが取った瞬間、香里は柔らかい布の上に着地する。
 反動で何度かその上を跳ねたが、やがて安定して彼女を支えた。
「ナーイスキャッチ!」
 ニーナの嬉しそうな声がする。
 香里が見回すと、獣人族の大人達がほっとしたような表情で香里を見ていた。その大人の中には、香里が治癒をかけた男性や、エリシアの母親も混ざっている。
 彼らの張った布の上に、香里は着地したのだ。
「みなさん……ありがとうございます!」
 布から降りた香里が何度も礼を述べると、彼らは照れくさそうな表情で、口々に気にするなと言う。
 無事を喜び合うのを早々に切り上げ、急いで猿獣から離れた。
 猿獣は自分を刺した相手に報復せんと屋敷の窓に取り付くが、そこをミィメーリィの放った氷の刃が襲う。
 怯んで数歩下がった。刃は顔を切り刻むように舞い、猿獣は血にまみれた姿で怒りの雄叫びを上げる。
 槍を掲げ、いつの間に登ったのかラカーシャが屋上から飛び出した。自分の体重をかけて、狙うは猿獣の首。深々と槍が突き立った箇所から血が吹き出す。
 苦しみ悶える猿獣の上に、ジンガが落下した。本人的には跳び蹴りでも繰り出したつもりらしい。その足は猿獣の顔を踏みつける。バランスを失っていた猿獣の動きを決めるには十分な一撃だった。
 木を薙ぎ倒しながら、猿獣が森に倒れる。首の後ろに刺さっていた槍が、倒れると同時に首を突き抜け、彼にトドメを刺した。
 吹き出した血から砂へと代わり、やがてそこには大きな砂の山が出来ていた。ラカーシャはそこへ歩いていき、槍を回収する。
 勝利の歓喜に村が沸く。そこに種族の違いは無い。
「やった!やったよ聖女さま!!」
 ニーナは香里に抱きついて喜んだ。ホルトとミィメーリィが屋敷から降りてくる。
 ジンガとラカーシャは、笑顔で拳を突き合わせた。
「無事で良かった……」
「いやー、一時はどーなる事かと思ったよー」
 本当に安心したようなミィメーリィに対し、ホルトは気の無い笑いを漏らしている。
「みんな本当にありがとう!」
 ニーナはそれぞれに握手を求めたが、ジンガが狼狽えているのを見ると、気にしていない様子で笑った。
「……気にしなくて良いよ。慣れっこだから。助けてくれただけで嬉しいよ」
 満面の笑みでありがとうと繰り返す。
 対するジンガの表情は苦しそうに歪んでいた。
「……頭では解ってるんだよ…解ってるんだが……」
 彼の様子を敢えて見ないようにしながら、ラカーシャはニーナと握手する。
 ニーナは鼻を動かし、ラカーシャを見上げて首を傾げた。
「……兄ちゃん、もしかして…」
 それに対し、ラカーシャは微笑むだけで何も言わない。口元に人差し指を当ててみせると、ニーナも理解した様子で頷いた。
 忘れたようなフリをしてミィメーリィに勢い良く抱きつき、彼女を転ばせている。
「ほ、ホルト殿!これは一体どういう事ですかな!!」
 怒鳴り声に、面々が一斉に顔を上げた。
 発生源たる村長は、獣人族が解放されている状況を見て叫んだようである。
 ホルトは戸惑った様子の面々を手で制し、彼の前に向かった。
「すみませぇん、小隊で対抗できるレベルの相手じゃなかったんで、腕っ節には自信ありのみなさんの力を貸してもらってましたぁ」
「そういう話では……!!」
「でだねぇ村長さん。非常に言いにくいんだけどぉ」
 態度をがらりと変え、高圧的な態度で村長を睨んだ。
「今回の魔物の襲撃、アンタのせいなんだよね」
「は……?」
「アンタが際限無く獣人族集めたから、彼らがいなくなった分、猿どもが縄張り広げてきちゃったの。生態系壊して住民を危険にさらすなんて何考えてるワケ?」
「な……」
「今回の開発、国家予算から援助受けてるよね。この開発、打ち切りにするから。俺がこの事を報告すれば、そうなると思うよ?」
 何せ俺は、税金に養われてる国の犬ですから。
 普段の態度からは想像もつかない冷たい声音で、ホルトは畳みかける。
 青ざめた村長が縋ろうとするのを振り払い、にっこり笑った。
「反逆罪で処刑されたくないんなら、おとなしくしてようね?」
 地面にへたりこんだ村長を、支えようとする者はいない。
「……そうか、狼がクレシェラ図書館を襲ってきたのも、阻んでいた獣人族がいなくなったからか」
 ラカーシャが納得した様子で頷く。
 彼らが森の中へ帰っていく背中を、全員で見送った。ニーナとその家族も、再会を喜びながら木々の間に消えていく。やがて、村から獣人族は1人もいなくなっていた。
 獣人族が元の場所へ帰り、魔物もいなくなった事で、住民たちには安堵の表情が戻る。
「……さて、当初の予定からはだいぶ遅れたが、出発するか?」
 ラカーシャが言うと、3人と1匹が頷いた。
 体を休めたいのは山々だが、ここには少々いづらい。早く離れたいのが本音だった。
 村から出ようとする一行を、騎士達が取り囲む。
「……あの、何かご用でしょうか…?」
「あー、うん。超ご用」
 はーやれやれ、などと言いながら、ホルトが騎士達の輪に入ってきた。
「この期に及んで一体何があるってんだよ」
「うん、今度は一介の騎士としてのお仕事ね。……伝承の聖女だなんて嘘だろうと思ってたけど、会ってみたらホントっぽかったから首都まで連行しまーす」
「はぁ!!??」
 その余りに適当すぎる理由を聞いて、驚きで素っ頓狂な声を上げる彼らの意思を完全に無視し、騎士達は武器を突きつけて動きを制限する。
「おい冗談じゃねぇぞ!!」
「んー?文句があるなら国家転覆の共謀罪でも付けてあげよっか?これでも口は巧い方だから」
「てめぇ……」
「それとも、お仲間の誰かを顔が潰れるぐらい殴ってあげよっか?幸いにも獣人族っていう虐げても罪悪感の湧かない相手もいる事だし」
 反射的にラカーシャがミィメーリィを視線から庇う。庇われた方は怯えた表情こそ浮かべないものの、彼の服を掴んでいる手は震えていた。
「ホルトさん……」
「なぁに?聖女様?」
「……連行するのは、私1人ですか?」
 3人が彼女の顔を見る。香里は毅然とした様子でホルトを見据えていた。
「いんや、悪いけどみんな来てもらうわ。君におとなしくしてもらうための人質代わりに」
 大人しくしてれば何もしない。
 その言葉には全く信憑性が無いのも解っていたが、だからと言って、ここで騎士を相手にするのはどう見ても分が悪い。
「良かったー。アンタらが馬鹿じゃなくて」
 歓迎するよ、と言って笑ったホルトの顔には、表現しがたい暗さが見え隠れしていた。


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