赤の魔女は恋をしない

チャイムン

文字の大きさ
1 / 11

1.惚れ薬を作れない魔女

しおりを挟む
「惚れ薬はお断り」
 真っ赤なフード付きマントを着た魔女がピシャリと言う。
「そんなぁ」
 惚れ薬を依頼した少女は涙目になっている。
「デーティアさん、占いもすごく当たるし、お薬やおまじないも、ものすごく効くって評判じゃないですか!なんで惚れ薬はダメなんですか?」
「あたしは惚れ薬と恋のまじないはお断りの魔女なんだよ」

 今にも泣きだしそうな依頼人の少女を見て、デーティアは聞いた。
「惚れ薬なんてね、どんなに腕のいい魔女が作ったものだってほんの数か月しかもたないんだよ?薬の効果のあるうちに自分の力で本当に惚れさせなくちゃ元も子もないんだ」
 少女にカモミールのお茶をすすめて続ける。
「それとも一夜の情事をお望みかい?そんなものは女だけが傷つくだけさ」
 少女はカッと頬を染める。
「そ、そんなんじゃありません!!ただ…」
「ただ?」
「アレクは金髪で青い目の女の子が好きだって言うから。そんなの私じゃ無理じゃないですか」
 ポロっと涙がこぼれる。

 デーティアは少女にスミレとツリー・ダリアの刺繍されたハンカチを差し出し、涙を拭かせた。
「そんなのはただの理想の夢さね」
 立ち上がって作業台に向かいながら続ける。
「金髪で青い目の可愛い女の子。その子が現れてアレクとやらに恋をする保証があるのかい?そんな可愛い子なら引く手あまたで選び放題だよ。アレクはそんな子に選ばれるとびっきりのいい男かい?」
 カチャカチャと小さな音が小気味よく響く。
「アレクっていう小僧っこの理想の夢さ。あんたがすることは惚れ薬で心と体を操ることじゃない」
 くすんと少女は鼻をならした。

 テーブルに戻ってきたデーティアは、少女に向かっていくつかの小瓶と小さな籠を差し出した。
「さ、ちょっとそのハンカチを貸してごらん」
 先ほど渡したハンカチを手に取り、小瓶の中の淡い紫色のものから数滴の液体を刺繍の花の部分に垂らす。
 ふわりと花の香りが漂う。
「あんたが小僧っこを思って流した涙、スミレの花言葉は"愛"、ツリー・ダリアの花言葉は"乙女の真心"」
 ハンカチを綺麗に畳みなおして少女に渡す。
「お守りだよ。あんたがアレクっていう小僧っこを現実に目覚めさせるためのね」
「えっ!?じゃあ、これで」
「いや、早まるんじゃないよ。気が短いね」
 デーティアは押し留めて紫の小瓶を少女の前に置いた。
「これはあんたに似合う香り。つけすぎちゃいけないよ?ハンカチか袖や襟にほんの数的だけ」
 次に紫の瓶の倍の大きさの琥珀色の瓶を置く。
「これは顔を洗った後につける薔薇水だよ。これから花盛りのあんたの肌が美しくなるようにね。そしてこっちは」
 やや小さめの黒い瓶を出す。
「髪に艶を出す花の油。髪を洗った後に数滴すりこむといいよ」

 驚いた様子の少女にデーティアは笑う。
「あんた、まだ結婚には何年もあるだろう?自分を磨きな。そしてアレクとやらに優しくしておやり」
 小さな籠に瓶を入れながら続ける。
「さりげなく、でも特別に扱ってやるんだよ?そのうち金髪の夢の女より、あんたのハシバミ色の瞳からこぼれる涙のとりこになるだろよ」
 少し不安げな少女にデーティアは笑った。
「保証はしないよ。あたしは色恋の呪いも薬もからっきしなんだから。あんたが自分でがんばりな。ほら、カモミールのお茶も入れておいたよ。心が落ち着くからね」

 支払いを聞かれデーティアは笑った。
「気持ちでいいよ。そうだね。今日のところは町のプランプルのプラム入りのパン三本。効果があらたかだったら気持ちの分支払っておくれ」

 少女は小さな籠を抱きしめて町への道を小走りに帰って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

処理中です...