赤の魔女は恋をしない

チャイムン

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9.仕上げを御覧じろ

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 よくもこの娘と婚約を発表できるものだとデーティアは訝しんだ。世継ぎの第一王子妃には、伯爵以上でないと無理だ。男爵令嬢のままでしかも庶民出の娘ならば、伯爵以上の家格に養女にでもならないと婚約すらできないはずだ。

 デーティアは王城を探った。
 意識を飛ばすと、王城は今まで魔法吸球リタラーガによって吸い取られた魔術で、元気だったころのハウランの魔法で覆われていた。その魔法の素はデーティアから見ればお粗末で粗いものだ。

 デーティアは慎重にハウランの織った魔法の素を解きほぐす。
 建国祭に完全に解けるように細工する。

 国王を探すと奥の一室に軟禁され、その部屋を怪しげな魔術師が取り囲んでいる。
 王宮付き魔導士はどうしたのだろう?

 探ると地下牢に閉じ込められていた。
 こちらも建国祭当日に扉が開くように細工する。

 すべては建国祭当日だ。

 フィリパがやってもいない濡れ衣で衆目の下で辱められたように、婚約発表の後で化けの皮を剥いでやる。王子にもきついお仕置きが必要だ。今度は本当のことだけどね。

 建国祭のためにデーティアは特別製の化粧品を調合した。
 馴染みも発色も良く、そして専用の油でよく溶ける。

 クライマックスで魔法の網を破り、この油で化粧を剥いでやる。

 そう考えると楽しくてたまらない。

 エルーリアもアイリーンも、デーティアの魔法と化粧品の虜だ。
 リタラーガの力を未だに信じて、どこに行くにもデーティアを伴うようになっている。

 閨で焚く香にも王子ともども夢中になっている。

 これを嗅げなくなった時の苦しみはいかばかりか。
 デーティアは笑いたいのを押さえた。

 デーティアの動機は正義感ではない。

 むかっ腹が立つったらないよ。
 どいつもこいつも色だの恋だの騒いで、けっきょくはばからしい熱病じゃないか。
 自分の欲のために周りを巻き込み、我を通す奴らばかりだ。
 シルアがアンダリオに捧げた心や、フィリパがジルリアを思う心を踏みつけて。

 エルーリアに至っては、もはや救いようがない。他人の物を欲しがり分不相応の欲のまま奪い続ける。いくら悪党でも、ためらうことなくハウランに手をかけた。

 デーティア半分エルフと言うだけではなく、元々自分勝手で気まぐれなのだ。
 エルフは自由奔放な者が多いし、母親もそういう気質だったから人間と恋をしたのだろう。そして相手である父親も相当気ままで手前勝手で無責任な男だ。
 一度もデーティアに会いに来なかった。
 とっくに死んでいるけどね。無責任だよ、まったく。

 恨んではいないと言えば嘘になるが、もう興味はない。

 ただ、ジルリアが可愛く思えることに不思議なえにしは感じる。少しの間育てたし、それにね…

 今はそんなことは置いておこう。考えても詮無いことだ。

 少しずつ少しずつ、デーティアは仕掛ける。

 おまえさんたち、もう逃げられないよ。

 最近ではエルーリアも王子もアイリーンも、デーティアが調合した香に夢中だ。ぼんやりと恍惚として香の中で夢見心地の者達。

 今は天国でも後で地獄を見る。

 ああ、その有様を見たいねと思う反面、デーティアは美しいものが好きなので見たくないという相反する気持ちもある。

 見ないで後始末は上にまかせよう。
 無責任なのは親譲りさ。

 デーティアは自嘲する。

 建国祭で総仕上げだ。
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