毒家族から逃亡、のち側妃

チャイムン

文字の大きさ
1 / 35

1.十二歳の決断

しおりを挟む
 その年の秋、私ベルナデット・アシャールは王立学院中等部に入学した。
 試験で三位になった私は文官コースを選び、成績優秀者として学費と寮費の免除と月々の報奨金を約束された。寮の部屋は東南向きの一人部屋で居心地がよさそうだった。少なくとも実家よりは。
 これから私は中等部、高等部の文官専門科の六年間、ここで過ごせるように成績優秀者でいなくてはならない。

 なぜなら我が家、アシャール子爵家には私に使うためのお金がないからだ。

 王立学院へ行く意思を伝えた時、母ディアーヌは言った。
「うちにはコリンヌの持参金で手いっぱいなの。ダニエルの学費と結婚費用もあるでしょ。あなたの学費は払えないわ。もちろん、持参金も出せないの」
 ダニエルは二歳下の弟、コリンヌは私の四歳下の妹だ。
「お前には王宮に働きにいってもらうつもりだった」
 父ドミニクが追い打ちをかける。

 私の中で、プチーンと何かが切れる音がした。

 つまりこの両親は、私に犠牲になれと暗に言ったのだ。
 弟は跡取りなので仕方ないが、今八歳の妹には持参金をつけて嫁がせるが、私は弟妹のために働けと言うのだ。

 今まで散々妹と差をつけられてきたが、もうたくさんだ。

 私は十二歳で、アシャール子爵家との決別を決めた。

 働きましょう。ただし六年後に文官として。

 そこで私は奥の手を出した。

「わたくしが今年から進学せずに奉公に出ると知ったら、プライブのお祖父様とお祖母様が心を傷めるでしょう。もしかしたらプライブの伯父様が…」
 なんだったら、プライブ伯爵家へ逃げ込んでもいいのよ。と言う棘を含ませる。
 プライブ伯爵家は父の実家で、娘がいないオルセー伯父は私を大層可愛がっている。
 我儘でうるさい妹のコリンヌは、「豆嵐」と呼んで嫌っている。コリンヌが遊びに来るときは、貴重品や壊れ物を片付けるほどだ。

 両親は言葉に詰まった。そこに畳み掛ける。
「試験だけは受けさせてください。成績上位者には学費も寮費も免除されて、生活全般を援助してもらえます」

 そうしてようやく私は王立学園の試験を受けて、見事成績上位者として実家になんの面倒もかけずに入学が決まった。制服は支給。三食は学院内で保証される。
 嬉しいことに、この状況を知ったプライブ伯爵家から、月金貨二十枚の援助を申し出られた。もちろん両親には内密に。
 学院から出る報奨金が月金貨五枚。その他、細々とした報奨金も出るが、プライブ家の温情はありがたい。

 入学式の日、私はプライブ家からの援助に深く感謝することになる。

 私は一刻も早くアシャール家から出たくて、寮へ早々と引っ越した。
 部屋が調って、のびのびと過ごしていたが、成績優秀者の親として入学式に参列した母は、私の寮の部屋を見て言ったのだ。

「ここならコリンヌが入っても大丈夫そうね。あなたには簡易ベッドを入れればいいのだし」

 なんですって!?
 私には学費すら出せないと言ったその口で、コリンヌを入学させる気なの?
 しかも私が勝ちとったベッドをあけ渡せと?私は簡易ベッド?

 絶望している暇はない。
 下宿から通う生徒もいる。妹が入学するまでに、ここを出て生活の場を定めなくてはならない。

 文句を言え?
 ばからしい。
 この人にはコリンヌが一番で、私などどうでもいいのだ。十二年間の生活で痛いほど思い知っている。父親は事なかれ主義の優柔不断な人で、声の大きな者に追従する気質だ。さらに婿養子であることも、立場の危うさに追い打ちをかけている。

 プライブのオルセー伯父の妻クレールの兄のバイエ伯爵家のファビアンと、コリンヌとの縁談を進めようとしているのを知っている。
 オルセー伯父が、私との縁談だと思って問い合わせてきたのだ。
 ファビアンは現在十六歳だ…

 私が持参金云々の話を打ち明けて、
「わたくしを嫁がせる気はないようなのでコリンヌだと思います」
 と答えると、なんとも言えない渋い顔になった。クレール伯母も顔色を変え、
「実家に問い合わせます」
 と慌てていた。

 本当になぜ、我が家は、いやこの両親はこんなにも常識がないのだろう?

 そういう私もつい最近まで、これが普通なのだと思っていた。
 正確には、私と弟が家庭教師から初期教育を習っていた場に、二年前に妹が参加するようになってから異常さに気づいたのだ。
 妹が初期教育の場に来てから、家庭教師は四人替わった。
 ごく当たり前の教育や礼法を教える行為を妹が嫌がれば、母は家庭教師を替えた。今の家庭教師は母におもねる、妹に甘い嫌な女だ。

 そんな家からようやく解放されたと安堵したのに、四年後にここに、この部屋に妹が来る?
 とんでもない。
 私は四年後を待たずに、ここを出る決意をした。
 プライブ家からの援助は本当にありがたい。
 中等部の間に節約と報奨金でお金を貯めて、どこか居心地のいい下宿か部屋を借りよう。
 寮に居れば三食が保証されるが、出ても昼食は保証される。
 質素に倹約すればどうとでもなる。
しおりを挟む
感想 111

あなたにおすすめの小説

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?

ハートリオ
恋愛
茶髪茶目のポッチャリ令嬢ロサ。 イケメン達を翻弄するも無自覚。 ロサには人に言えない、言いたくない秘密があってイケメンどころではないのだ。 そんなロサ、長年の婚約者が婚約を解消しようとしているらしいと聞かされ… 剣、馬車、ドレスのヨーロッパ風異世界です。 御脱字、申し訳ございません。 1話が長めだと思われるかもしれませんが会話が多いので読みやすいのではないかと思います。 楽しんでいただけたら嬉しいです。 よろしくお願いいたします。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

処理中です...