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14.側妃になる日
改めて王宮へ入り、私はバシュロ殿下と正式な契約を取り交わした。
定められた儀式は一週間後だ。
側妃なので式典はないはずだったが、バシュロ殿下の立太子の式典に私も参加し、そこで側妃に正式に任命する宣旨が下る。国王陛下の配慮だ。
ありがたく思いつつも、重圧に眩暈がする思いだ。
インジャル王国では、側妃を娶るまで立太子されない。
私は淡い青のドレスで式典に臨んだ。王妃殿下が選んだドレスだ。
立太子の儀式は、国王陛下から儀式用の王太子のクラウンとセプター(笏)が与えられる。
そして宰相が、立太子の宣言を朗々と読み上げた。
続いて国王陛下が
「ベルナデット」
と私を呼びよせ
「そなたを正式に王太子の側妃とする」
と宣言し、王妃殿下がティアラを私に授けた。
黄金に真珠が散りばめられている。
王妃殿下が私の頭にティアラを乗せる。
そしてバシュロ殿下が私の隣に並び、左手を取った。人差し指を持っている金の指輪の石に押し当てる。「氷の花」の時のように、チクリと痛みが走る。次いでその指輪を自分の左の人差し指に嵌め、もう一つの指輪の石に自分の人差し指を当てると、それを私の左の人差し指に嵌めた。同じくチクリと痛みがあった。
「これは王家に伝わる対の指輪なんだ。血の契約が済んだから、もう外せないよ」
バシュロ殿下が微笑む。
私はおもわずぎょっとしてしまった。本来ならば、オティーリエ王女と交わす物ではないのだろうか。
「オティーリエ王女には…」
「好きな指輪を選ばせるさ。いくつでも好きにつけるといい」
私の言葉を遮って、バシュロ殿下が冷たく言い放つ。
「対の指輪の相手は君だけだよ、ベル」
すぐに優しい顔になった。
王太子宮には三つのそれぞれ回廊で繋がった宮がある。
王太子の住まう金星宮、正妃の住まう銀星宮、側妃の住まう花星宮。
私の居室は花星宮にある。
今までは王妃殿下の住まう月宮に部屋があったが、入内を期に移ったのだ。
夜になり、新枕の儀が始まる。
自分の寝室で待つ私の元に、先触れがやってきた後、バシュロ殿下が入ってきた。
私は礼をして迎える。
白いナイトウェアとガウン姿で。
侍女達が、バシュロ殿下と私をベッドの縁に座らせて、それぞれに聖水の入ったグラスを渡す。
まずは自分が飲み、その後交換して飲む。
残りは一つの器に移され、侍女が運び去る。
二人きりになった。
「バシュロ殿下。それではわたくしは控えの間に下がらせていただきます」
バシュロ殿下はおもしろくないと言った表情を隠さない。
「オティーリエ王女の体面のために一年だってね。そんなことをしても無駄なのに。私はベルしか愛さないよ」
手をとり、口づけた。
私は力なく微笑んで、一礼して退出した。
控えの間にはベッドが二台用意してあった。
通常ならば、部屋付きの待機の侍女の使うベッドのみなのだが、一年の間、閨の辞退をすることになっているからだ。
新枕の儀の三夜、私は控えの間で侍女とベッドを並べて眠る。
控えの間のベッドに横になり、私は思いをはせた。
王妃殿下は「正妃よりも先に側妃に男児が生まれては、要らぬ諍いの元になるから」と言ったが、正直私は自分の子供を欲していない。
側妃になったのは実家と完全に切れるため、生涯に渡る就職だと思っている。
いや、そういう契約だったはずだ。
バシュロ殿下はどうしても後宮に入れなくてはならない側妃を得て、その上政務を補助する人材も得られる。
私は後宮で政務の補佐をする代わりに、保護を受ける。
最初、そこには後継者を産む職務は入っていなかったはずだ。もちろん夜伽も。
二人の間には甘い感情など皆無だし、愛など生まれないと思う。
一般的な貴族と同じく、私は乳母に育てられ、三歳からは侍女やメイドに面倒を看られて成長した。両親との接点があまりないのは、普通の貴族家庭と同じだ。
違うのは、妹と差をつけられてひねくれてしまった性根だろう。
デビュタント以来「氷の花」と呼ばれたのは、このアッシュブロンドと薄青い瞳、魔法道具の効果、それにバシュロ殿下の保護の中で誰も寄せ付けなかったからだ。将来側妃になることが約束されている令嬢に、常識のある殿方は近づかない。
閨の一年の辞退は、将来嫁いでくるカナーテ王国のオティーリエ王女の体面のためだ。
しかし、最近のバシュロ殿下は私への親愛を表すことをためらわない。むしろ積極的だ。
そしてオティーリエ王女を嫌っている様子を隠さない。
そんなバシュロ殿下を国王陛下は咎めない。
実は国王陛下もオティーリエ王女の資質を疑っており、幾度もカテーナ王国へ問い合わせや交渉を、ここ何年か行ってきた。特に去年からは、この結婚を白紙に戻せないか打診している。
カテーナ王国では、最初はのらりくらりとかわしてきたが、最近では「約束を反故にされたら体面に傷がつく」と懇願するような内容の親書が送られてきている。
結局、両国で何かしらの協議に合意して、オティーリエ王女は正妃としてやってくることに変わりはなくなった。
しかし、協議の内容にバシュロ殿下は少し嬉しそうな顔をしていた。
私には内容がどんなものかわからない。
そうして私の側妃の生活が始まった。
表面上は今までと変わらない。
王太子妃としての執務を代わりに行い、バシュロ殿下を補佐する。
その傍ら、銀星宮のオティーリエ王女をお迎えする準備を行う。
オティーリエ王女。一体どんな女性に育っているのか…
相変わらず続く、オティーリエ王女からの手紙の添削をさせられいる。それ見ると、まるで子供のままの印象がある。
よく言えば素直で感情を隠さない。悪く言えば我儘で我慢がきかない。
不安を抱いたまま月日は流れ、オティーリエ王女の到着の日がやってきた。
定められた儀式は一週間後だ。
側妃なので式典はないはずだったが、バシュロ殿下の立太子の式典に私も参加し、そこで側妃に正式に任命する宣旨が下る。国王陛下の配慮だ。
ありがたく思いつつも、重圧に眩暈がする思いだ。
インジャル王国では、側妃を娶るまで立太子されない。
私は淡い青のドレスで式典に臨んだ。王妃殿下が選んだドレスだ。
立太子の儀式は、国王陛下から儀式用の王太子のクラウンとセプター(笏)が与えられる。
そして宰相が、立太子の宣言を朗々と読み上げた。
続いて国王陛下が
「ベルナデット」
と私を呼びよせ
「そなたを正式に王太子の側妃とする」
と宣言し、王妃殿下がティアラを私に授けた。
黄金に真珠が散りばめられている。
王妃殿下が私の頭にティアラを乗せる。
そしてバシュロ殿下が私の隣に並び、左手を取った。人差し指を持っている金の指輪の石に押し当てる。「氷の花」の時のように、チクリと痛みが走る。次いでその指輪を自分の左の人差し指に嵌め、もう一つの指輪の石に自分の人差し指を当てると、それを私の左の人差し指に嵌めた。同じくチクリと痛みがあった。
「これは王家に伝わる対の指輪なんだ。血の契約が済んだから、もう外せないよ」
バシュロ殿下が微笑む。
私はおもわずぎょっとしてしまった。本来ならば、オティーリエ王女と交わす物ではないのだろうか。
「オティーリエ王女には…」
「好きな指輪を選ばせるさ。いくつでも好きにつけるといい」
私の言葉を遮って、バシュロ殿下が冷たく言い放つ。
「対の指輪の相手は君だけだよ、ベル」
すぐに優しい顔になった。
王太子宮には三つのそれぞれ回廊で繋がった宮がある。
王太子の住まう金星宮、正妃の住まう銀星宮、側妃の住まう花星宮。
私の居室は花星宮にある。
今までは王妃殿下の住まう月宮に部屋があったが、入内を期に移ったのだ。
夜になり、新枕の儀が始まる。
自分の寝室で待つ私の元に、先触れがやってきた後、バシュロ殿下が入ってきた。
私は礼をして迎える。
白いナイトウェアとガウン姿で。
侍女達が、バシュロ殿下と私をベッドの縁に座らせて、それぞれに聖水の入ったグラスを渡す。
まずは自分が飲み、その後交換して飲む。
残りは一つの器に移され、侍女が運び去る。
二人きりになった。
「バシュロ殿下。それではわたくしは控えの間に下がらせていただきます」
バシュロ殿下はおもしろくないと言った表情を隠さない。
「オティーリエ王女の体面のために一年だってね。そんなことをしても無駄なのに。私はベルしか愛さないよ」
手をとり、口づけた。
私は力なく微笑んで、一礼して退出した。
控えの間にはベッドが二台用意してあった。
通常ならば、部屋付きの待機の侍女の使うベッドのみなのだが、一年の間、閨の辞退をすることになっているからだ。
新枕の儀の三夜、私は控えの間で侍女とベッドを並べて眠る。
控えの間のベッドに横になり、私は思いをはせた。
王妃殿下は「正妃よりも先に側妃に男児が生まれては、要らぬ諍いの元になるから」と言ったが、正直私は自分の子供を欲していない。
側妃になったのは実家と完全に切れるため、生涯に渡る就職だと思っている。
いや、そういう契約だったはずだ。
バシュロ殿下はどうしても後宮に入れなくてはならない側妃を得て、その上政務を補助する人材も得られる。
私は後宮で政務の補佐をする代わりに、保護を受ける。
最初、そこには後継者を産む職務は入っていなかったはずだ。もちろん夜伽も。
二人の間には甘い感情など皆無だし、愛など生まれないと思う。
一般的な貴族と同じく、私は乳母に育てられ、三歳からは侍女やメイドに面倒を看られて成長した。両親との接点があまりないのは、普通の貴族家庭と同じだ。
違うのは、妹と差をつけられてひねくれてしまった性根だろう。
デビュタント以来「氷の花」と呼ばれたのは、このアッシュブロンドと薄青い瞳、魔法道具の効果、それにバシュロ殿下の保護の中で誰も寄せ付けなかったからだ。将来側妃になることが約束されている令嬢に、常識のある殿方は近づかない。
閨の一年の辞退は、将来嫁いでくるカナーテ王国のオティーリエ王女の体面のためだ。
しかし、最近のバシュロ殿下は私への親愛を表すことをためらわない。むしろ積極的だ。
そしてオティーリエ王女を嫌っている様子を隠さない。
そんなバシュロ殿下を国王陛下は咎めない。
実は国王陛下もオティーリエ王女の資質を疑っており、幾度もカテーナ王国へ問い合わせや交渉を、ここ何年か行ってきた。特に去年からは、この結婚を白紙に戻せないか打診している。
カテーナ王国では、最初はのらりくらりとかわしてきたが、最近では「約束を反故にされたら体面に傷がつく」と懇願するような内容の親書が送られてきている。
結局、両国で何かしらの協議に合意して、オティーリエ王女は正妃としてやってくることに変わりはなくなった。
しかし、協議の内容にバシュロ殿下は少し嬉しそうな顔をしていた。
私には内容がどんなものかわからない。
そうして私の側妃の生活が始まった。
表面上は今までと変わらない。
王太子妃としての執務を代わりに行い、バシュロ殿下を補佐する。
その傍ら、銀星宮のオティーリエ王女をお迎えする準備を行う。
オティーリエ王女。一体どんな女性に育っているのか…
相変わらず続く、オティーリエ王女からの手紙の添削をさせられいる。それ見ると、まるで子供のままの印象がある。
よく言えば素直で感情を隠さない。悪く言えば我儘で我慢がきかない。
不安を抱いたまま月日は流れ、オティーリエ王女の到着の日がやってきた。
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