巻き毛のビーと学園の亡霊≪赤の魔女は恋をしない9≫

チャイムン

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2.巻き毛の伯爵令嬢

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「公爵令息の婚約者は真っすぐな髪の可愛い子でね。巻き毛の伯爵令嬢はその公爵令息の婚約者をしょうことなく苛めたのさ」
「どうやって?なにをしたの?」
 デーティアはベアトリスの巻き毛を撫でる。
「真似しないっていうなら教えるよ。その意地悪な伯爵令嬢はそれが原因で公爵令息に嫌われて、とうとう修道院に送られたんだから」
「意地悪なんかしないわ!」
「よろしい。でもね、好奇心は猫をも滅ぼすってこともお忘れでないよ?」
「わかったわ」
 ベアトリスは好奇心ではち切れそうだ。

「なに、誰しもちょっとはやりそうなことが始まりだったよ」
 デーティアは語る。

「その伯爵令嬢は、最初は言葉の端々に嫌味をのせて当てこすった。髪のこと、容姿のこと、ちょっとした仕草のこと。全部その伯爵令嬢の主観でこじつけだったけどね」
 くすくす笑う。
「公爵令息の婚約者はおとなしい性格だったらしく、相手に何もしなかった。口答えも反発もね。すると次は、彼女の前でお茶会やちょっとしたパーティーに彼女だけ招待しなかったり、取り巻き全員に目立つ髪飾りやなんかを与えて流行を作り出そうとしたりした。うまくはいかなかったけどね。巻き毛の伯爵令嬢は、派手好みだったからね」
 片目をつぶってみせる。
「それでも気にしない様子を見ると、怒りのままに彼女の物を破損した。教本を破いたり、水をかけたり、足をかけて転ばせたり。そうして口汚く罵ったのさ」
 デーティアは右手をひらひらさせる。
「ただ黙って耐えるだけっていうのも問題でね。あの頃あたしは、なんで言い返さないんだろうとイライラしたものさ」
 フフンと笑うデーティアを見て、 ベアトリスも笑う。
「いやがらせはどんどん過激になって、噴水に突き落としたこともあった。公爵令息の婚約者は噴水の彫刻で腕を切る怪我をしても、『自分が足を滑らせた』って言い張ったんだよ」
 皮肉を込めてフンと鼻を鳴らした。
「今、学園のどこにも噴水や池はないだろう?事が露見した後、全て潰して花壇になったのさ。虐められた伯爵令嬢の婚約者が、厳重に抗議したからね。」
 ベアトリスを見やって言う。
「巻き毛の伯爵令嬢がひとつだけ褒められるのは、全部自分の手でしたことだね」
 デーティアは皮肉っぽく笑って続ける。
「それでも平気な顔をしている公爵子息の婚約者に、伯爵令嬢はどんどん憎しみが増していってね。ここからは聞いただけの話なんだけど」
 一息とばかりに冷めた紅茶を飲んで続ける。
「とうとう公爵令息の婚約者は卒業まで耐え続けた。伯爵令嬢は業を煮やした。卒業してしまえば、公爵令息と結婚してしまう。そこで王宮で催される卒業パーティーで公爵令息の婚約者に毒を盛ったそうだ」
 右手をひらひらさせた。
「ところが悪いことはどこかで露見するものさ。今までの悪事を見かねたご学友が、大分前から公爵家にご注進してたのさ」
「よかった。全員が敵ってわけではなかったのね」
 手を絞るように握っていたベアトリスが呟く。
「公爵家ではずっと見張りをつけて動向を見守っていたし、当日は公爵令息は婚約者にぴったり付き添っていた。そして例の毒杯を差し出された時、伯爵令嬢が毒を入れたことを見張りが報告していたから、その毒杯を公爵令息が受け取って飲もうとした。もちろん振りだよ。ところが慌てた伯爵令嬢はその杯を奪おうとして、中味が自分の腕にかかった。その途端、伯爵令嬢の腕が焼け爛れた」
 ベアトリスが息を呑む。
「伯爵令嬢はその場で捕縛されたけれど、この期に及んでも公爵令息の婚約者に罪を被せようとしたもんだよ。けれど、公爵令息の婚約者の窮状を手をこまねいて心を傷めて見ていた者が、次々と伯爵令嬢の悪事を証言したのさ」
 息をつめてベアトリスが先を待つ。

「伯爵令嬢は毒殺未遂で捕らえられて裁判を受け、ロナウ領の厳しい修道院に送られた。寒くて辛い場所さ。そこで二百日の間手鎖を課されて、三年の間朝夕跪かされ罪状を読み上げられ複唱して懺悔させられた上、日中は苦役に従事しなければならなかった。お嬢様育ちには辛かっただろうね」
「苦役ってどんなの?」
 尋ねるベアトリス。
「畑仕事や建物の補修、家畜の世話なんかさ」
 畑仕事や家畜の世話は、ベアトリスも経験がある。
「十二年経って戻ってきた時はすっかり老け込んで体を損なって、伯爵家の離れで二年もせず亡くなったよ」

「家畜の世話や畑仕事くらいで?」
 ベアトリスは夏の間、デーティアの下で過ごす時にどちらも経験している。
「あたしの畑やヤギや鶏なんて比べようもないよ。ロナウは厳しい北の領地だからね」
「でもお祖母様は、ロナウの領地をあんなにも上手に経営しているじゃない?」
「管理人が優秀なのさ。それに百年前はもっと厳しかったよ。今じゃ色々改良しているからね。それに」
 デーティアは公式にロナウ辺境伯を叙爵されている。経営は代理人だが。
「あの修道院は今でも厳しい戒律を守っていて、広大な畑と牧畜で自給自足しているし、それでも普段の食事は質素極まりないからね。冬は長くて寒い。今でもあそこの尼僧たちの寿命は短いよ」

 考え込むベアトリスにデーティアはにやにや笑って言う。
「さてその公爵令息だけどね」
 はっとベアトリスが顔を上げる。
「あんたの婚約者のワイアット公爵のひいじいさんの父親だよ」
 とたんに頬が紅潮するベアトリス。
「おやおや。この婚約はうまくいっているようだね」
「おばあさま!!」
 抗議するように言うベアトリス。
「だからね、エルヴィラ嬢は僻んでいるのかもしれないよ。優しくてハンサムな公爵と婚約している幸せな王女様にね」
 デーティアはくすくすと笑う。
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