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1.追放
その日、十七歳のエズメと五歳のマキシンは自分たちの部屋から追放された。
使っていない納戸に使っていた部屋に住まうよう、後妻のミンナに言い渡されたのだ。ミンナの娘のシャルロットはくすくす笑っている。
納戸はそれほど物はなかったが、カウチが三脚あったので、うち二つをくっつけてマキシンの寝床にした。
エズメは屈辱に負けなかった。
「大丈夫。わたくしがここを居心地のいいお部屋にするわ」
そう言って、使用人が立ち働く一階の厨房と洗濯室の傍の休憩室に向かった。
「お願い。マキシンのために使っていない寝具を都合して欲しいの」
使用人達は今般の騒ぎを漏れ聞いて心配していた。
メイドのリリーが数少ない二人の持ち物を納戸に運んだので、状況が知れ渡り、すでに必要なものは揃えられていた。
執事は頭から湯気を出さんばかりに憤っていた。
これからは主人であるアンドレア・サンデール侯爵が留守の時は、食堂に入れてはならないとか、食事は残飯で十分とか理不尽な指示を受けていたのだ。
料理長も同じく憤っており、
「お嬢様、わっしらには何もできませんが、使用人と同じ食事ならお届けできます」
「ありがとう!でもあなたたちが運ぶのを見られたら咎めを受けるから、わたくしが取りにまいります。本当にありがとう」
ミンナは一か月前にサンデール侯爵家に入った後妻だ。後妻と言っても、エズメとマキシンの母親が亡くなった一年後から囲われていて、さらにその大分前から関係のあったらしい女だ。ミンナにはエズメの一歳下の娘シャルロットがいた。ミンナはシャルロットを、アンドレア・サンデール侯爵との娘だと言い張った。
エズメとマキシンの母親は二年前に亡くなり、ミンナはその直後からやいやい言ってとうとう侯爵家に入ってきた。
父親のアンドレアの前ではミンナは優しい継母であり、シャルロットは従順な妹然としていた。
ところが父のアンドレアが十八歳の兄のリカルドを伴なって商談で半年の旅に出たとたんに、本性を現した。
エズメ達に残されたのは数着の普段着と下着、最低限の身回り品だけだった。それにエズメには学園の制服と学用品だ。
学園が始まるのは十日後。
もちろん、シャルロットも通うことになる。
エズメ達を納戸に追放したシャルロットは言った。
「アーネスト様を私にくれたら、色々返してあげてもいいわよ」
アーネストはヘルマン侯爵家の長男で、エズメの婚約者だ。
「それは父におっしゃってください」
エズメは気を強く持って答えた。
「どうせ家同士の婚約なんだから、あんたがあたしを学園で虐めて婚約破棄させなさいよ。あとはあたしがもらってあげる」
馬鹿馬鹿しいし負けてたまるものかと、エズメは思った。
「よく考えるのね。こんな部屋じゃあんたの妹は死ぬわよ」
楽しそうに笑う。
マキシンは身弱なのだ。すぐに咳の発作が出る。
「お母さまと私で、あんたと妹を追い出してもいいのよ。世間知らずの貴族娘がどうやって生きるの?」
なぜこんなにミンナとシャルロットは自分達を憎むのだろう?
そういえば父も兄も、二人を家に迎えたものの、よそよそしい態度だったことを思い出した。
二人が家に入ってすぐ、アーネストを呼んだお茶会では、二人は出席を許されなかった。
「まだマナーもなっていないだろう」
と父が撥ねつけたのだ。
二人は新しいドレスをいくらでも求めたが、父は常識の範囲内の数しか与えていない。
だからエズメのドレスもアクセサリーも奪おうというのだろうか。
たとえ、アーネストから婚約破棄されても、シャッロットと婚約するとは限らないのに。
「とにかく、あんたはあたしを苛めて悪者になるのよ!いいわね!!」
シャルロットは決めつけた。
なるものですか!
エズメは心の中で誓った。
使用人達は三日ほどで、屋敷のあちこちから見つからないように備品をかき集め、質素ながらもマキシンの健康に障らないように設えてくれた。
エズメも納戸にあった物を利用して、居心地のいい部屋にするように努めた。
半年だ。
半年すれば父も兄も帰って来る。
それまで辛抱すれば、どうにでもなるだろう。
エズメは強い娘だった。
使っていない納戸に使っていた部屋に住まうよう、後妻のミンナに言い渡されたのだ。ミンナの娘のシャルロットはくすくす笑っている。
納戸はそれほど物はなかったが、カウチが三脚あったので、うち二つをくっつけてマキシンの寝床にした。
エズメは屈辱に負けなかった。
「大丈夫。わたくしがここを居心地のいいお部屋にするわ」
そう言って、使用人が立ち働く一階の厨房と洗濯室の傍の休憩室に向かった。
「お願い。マキシンのために使っていない寝具を都合して欲しいの」
使用人達は今般の騒ぎを漏れ聞いて心配していた。
メイドのリリーが数少ない二人の持ち物を納戸に運んだので、状況が知れ渡り、すでに必要なものは揃えられていた。
執事は頭から湯気を出さんばかりに憤っていた。
これからは主人であるアンドレア・サンデール侯爵が留守の時は、食堂に入れてはならないとか、食事は残飯で十分とか理不尽な指示を受けていたのだ。
料理長も同じく憤っており、
「お嬢様、わっしらには何もできませんが、使用人と同じ食事ならお届けできます」
「ありがとう!でもあなたたちが運ぶのを見られたら咎めを受けるから、わたくしが取りにまいります。本当にありがとう」
ミンナは一か月前にサンデール侯爵家に入った後妻だ。後妻と言っても、エズメとマキシンの母親が亡くなった一年後から囲われていて、さらにその大分前から関係のあったらしい女だ。ミンナにはエズメの一歳下の娘シャルロットがいた。ミンナはシャルロットを、アンドレア・サンデール侯爵との娘だと言い張った。
エズメとマキシンの母親は二年前に亡くなり、ミンナはその直後からやいやい言ってとうとう侯爵家に入ってきた。
父親のアンドレアの前ではミンナは優しい継母であり、シャルロットは従順な妹然としていた。
ところが父のアンドレアが十八歳の兄のリカルドを伴なって商談で半年の旅に出たとたんに、本性を現した。
エズメ達に残されたのは数着の普段着と下着、最低限の身回り品だけだった。それにエズメには学園の制服と学用品だ。
学園が始まるのは十日後。
もちろん、シャルロットも通うことになる。
エズメ達を納戸に追放したシャルロットは言った。
「アーネスト様を私にくれたら、色々返してあげてもいいわよ」
アーネストはヘルマン侯爵家の長男で、エズメの婚約者だ。
「それは父におっしゃってください」
エズメは気を強く持って答えた。
「どうせ家同士の婚約なんだから、あんたがあたしを学園で虐めて婚約破棄させなさいよ。あとはあたしがもらってあげる」
馬鹿馬鹿しいし負けてたまるものかと、エズメは思った。
「よく考えるのね。こんな部屋じゃあんたの妹は死ぬわよ」
楽しそうに笑う。
マキシンは身弱なのだ。すぐに咳の発作が出る。
「お母さまと私で、あんたと妹を追い出してもいいのよ。世間知らずの貴族娘がどうやって生きるの?」
なぜこんなにミンナとシャルロットは自分達を憎むのだろう?
そういえば父も兄も、二人を家に迎えたものの、よそよそしい態度だったことを思い出した。
二人が家に入ってすぐ、アーネストを呼んだお茶会では、二人は出席を許されなかった。
「まだマナーもなっていないだろう」
と父が撥ねつけたのだ。
二人は新しいドレスをいくらでも求めたが、父は常識の範囲内の数しか与えていない。
だからエズメのドレスもアクセサリーも奪おうというのだろうか。
たとえ、アーネストから婚約破棄されても、シャッロットと婚約するとは限らないのに。
「とにかく、あんたはあたしを苛めて悪者になるのよ!いいわね!!」
シャルロットは決めつけた。
なるものですか!
エズメは心の中で誓った。
使用人達は三日ほどで、屋敷のあちこちから見つからないように備品をかき集め、質素ながらもマキシンの健康に障らないように設えてくれた。
エズメも納戸にあった物を利用して、居心地のいい部屋にするように努めた。
半年だ。
半年すれば父も兄も帰って来る。
それまで辛抱すれば、どうにでもなるだろう。
エズメは強い娘だった。
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