ここはわたくしの家ですわ

チャイムン

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3.噂話

 シャルロットは髪を豪華に飾り立て、エズメのアクセサリーを着けて、大騒ぎで支度をしていた。

 エズメは学園に着くと、さっさと自分の教室に入ってしまい、シャルロットの登校を見なかった。

 シャルロットは希望に胸を膨らませて校門に入った。
 生徒達はそれをみてザワザワと囁き合った。
 シャルロットは得意満面だった。

 シャルロットは自分に自信満々で、ヒソヒソと話す生徒達が自分に注目することにご満悦だった。

「ほら、あの方、…でしょう?」
「シャルロットって名前…ですわ」
「母親が…で…」
「ああ、だから…」
「ご覧になりました?あの…、…でしたわ」
「なんて…」
 などなど

 ところどころ聞こえないが、話題の的になっていてシャルロットは気分がいい。
 そのまま、教室割りの貼りだしてある掲示板を見に行くと、有り得ない事実を発見した。
 シャルロットは庶民科教室だったのだ。

 カッとしたシャルロットは教員室へ向かった。

「なぜあたしが庶民科なのですか!?」
 教師たちはうんざりした表情で説明を始めた。
「サンデール侯爵の心配りです。まだマナーも礼法も不十分なので、庶民科で習って欲しいとの仰せです」
「まだ一年生ですし、貴族科編入への書類も整っていないそうです」
 そう説明する教師達にシャルロットは食い下がる。
「あたしはシャルロット・サンデール侯爵令嬢よ!!シャルロットなのよ!!」
 教師たちは首を振る。
「あなたはまだ貴族籍に入っていないのですよ。お父上が書類を提出するまで待ちなさい」
 そう言って、教員室から退出させた。

 なんで貴族籍に入ってないのよ!?あたしは"シャルロット"って名前を許されたのよ!

 シャルロットは元々ヴァネッサと言う名前だった。
 サンデール侯爵の屋敷に入るに当たって、母親のミンナがアンドレア・サンデール侯爵に"シャルロット"という名前に改名することを願ったのだ。
 "正式な"サンデール侯爵の娘の証だと思いこんで。

 実はそれは誤解だった。

 確かにサンデール侯爵家には、独特の名前が付けられる習わしがあった。
 ミンナはそれが"シャルロット"だと思いこんでいたが、少し違う。
 "シャーロット"と"リチャード"だ。それがミドルネームになる。

 当主の本名はアンドレア・シャーロット・サンデール。長男はリカルド・シャーロット・サンデール。エズメはエズメ・リチャード・サンデールで、マキシンはマキシン・リチャード・サンデール。

 "シャーロット"が男子につけられ、女子は"リチャード"。男名と女名を逆にしてつけられ、二歳までは男児は女児として、女児は男児として育てられる。厄除けのような風習だ。

 ミンナはまた聞きのまた聞きくらいの聞きかじりで、"シャルロット"の名前が認められ、サンデール侯爵家の正式な娘と認められたと思っているのだ。

 そのシャルロットが登校した時の周囲の囁きは、実はこんなうわさ話だった。

「ほら、あの方、"サンデール侯爵家に入りこんだ妾の子供"でしょう?」
「シャルロットって名前、"母親が無理やり改名させたそう"ですわ」
「母親が"酒場の女"で"何も知らないそうだ"」
「ああ、だから"まだサンデール侯爵家の一員として認められずに平民籍なんだ"」
「ご覧になりました?あの"馬車"、"乗合馬車"でしたわ」
「なんて"みっともない。侯爵家の馬車を使えないなんて"」
 また、華美に飾り立てた髪や、着け過ぎのアクセサリーも顰蹙を浴びていた。そのアクセサリーがエズメのものであることに気づいた者も少なくなかった。
 総じて、シャルロットの評判は初日にして最悪だった。

 一方、教室に入ったシャルロットは怒りのはけ口を探しあぐねていた。
 ほとんど何も耳に入らないまま、その日の授業を終えて家に帰ると
「エズメを呼んで!!」とメイドに命じた。

 メイドは執事に相談した。家令と執事が付き添って、エズメをシャルロットの部屋へ送り、扉の前で控えていた。
 この家のものは、魔法で防御されており、暴力は弾かれるが、エズメが何を言われるかわかったものではなかったからだ。

 暴力を封じられたシャルロットは考えたことを実行した。

「今夜の食事が欲しかったら、這いつくばってこの部屋の床を磨きなさい!毎日よ?やらなければあんたと妹は食事抜きよ!」
 水と道具を取りに出たエズメを、家令と執事が止めたが
「拒めば食事がどこから出されるか不審に思われるわ」
 と制した。

 こうしてエズメは毎日、学園から帰ると床磨きや雑用を課された。

 家令と執事は別々にサンデール侯爵に、この状況を手紙にしたため従者を送ったが、主人がどこにいるのかわからない。

 ミンナとシャルロット以外が、サンデール侯爵とリカルドの帰りを祈るように待った。
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