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3.ギリアン子爵夫人ヨランダの目論見①
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ヨランダは小柄で細身であることが自慢だった。
グリーンの瞳も、金髪に近い淡い色の髪も。
実はヨランダは髪を脱色していた。
縮らせたりウェーブををつけたりして、最新流行の型に結っていた。
そのため傷んでしまった髪を隠すために金髪の付け髪を使い、いささかやりすぎなほどだ。
十代の未婚の娘の流行を三十五歳になっても追っている。
ヨランダの細身ににも秘密があった。
養父イェーツに似て、ヨランダは脂っこい肉料理や甘いものが好きだった。
普段から我慢せずに好きなものを好きなだけ食べていた。
ヨランダの秘密は普段飲むお茶である。
ある薬草のお茶で食べた物が下る作用がある。
通常は食べ過ぎや、良くない物を食べた時に速やかに排出するように使用されるものだ。ヨランダはこれを常に飲み、ほっそりした肢体を保っていた。
「ほっそりした」はヨランダの主観であって、大きく開いた襟ぐりから見える鎖骨もあばら骨が浮いた薄い胸も、不健康極まりない。
顔もほっそりというより、骨に皮が張り付いたような印象を受ける。
若い頃はもう少し肉付きがよく、遊び目的の男達にはもてはやされたものだ。
自分の姿かたちに自信のあるヨランダは、ドレスは赤を好み、飾りは多いほどいい。
フリルにリボン、レースにチュール。
本当は宝石をあしらいたいのだが、いかんせん子爵家の資産では叶わない。せいぜい、とっておきの数着に少しだけ、それを次のドレスに付け替えるのがせいいっぱいだ。
時折、娘アーシアのパーティー・ドレスにあしらわれた宝石や、身に着けている宝飾品に歯噛みする。
(ああ、あれがわたくしのものになれば)
それはギリアン子爵家が仕立たものではなく、エイダ侯爵家が調えたものだ。手を出せば、アーシアはエイダ侯爵家へ永遠に置かれ、資金援助さえなくなることくらい理解している。
それは若い頃でさえ失笑される派手好みだったが、ヨランダは世間の評判を知らない。
父イェーツも母ミリアも社交界を好まず、必要最低限の場にしか出なかったからだ。
ヨランダの親であるイェーツとミリアは娘を甘やかし放題だった。
それは複雑な事情がある。
ヨランダはこのギリアン子爵夫妻の実の子ではないのだ。
ギリアン侯爵イェーツの妹ヤスミンの娘だ。
ヤスミンはそれなりの持参金とともに同格のアンシェル子爵家に嫁いだのだが、そこではすでに妾アイリーンが子爵家の奥の実権を握っていた。
アンシェル子爵家でヤスミンは正妻の部屋も与えられず、二番目として妾にいびられる辛い日を送ることになった。
妾はしょうことなくヤスミンを虐げ、アンシェル子爵ジグムンドが近づかないよう策を弄した。
おっとりとしたヤスミンは抵抗すらしなかった。
それでも妾が妊娠がわかると数か月、隙が生まれた。色好みのジグムンドは妾と正反対の気性を持つ美しいヤスミンと閨を過ごした。ほどなくヤスミンは懐妊した。
ようやくここでのヤスミンの道が開けたかと思われた時であった。
妾が男児を産んだのだ。嫁いで一年足らず、ヤスミンは離縁され戻ってきた。身重の身で。持参金も戻らず、嫁入り道具も持参した宝飾品も取り上げられた。
生まれたのがヨランダである。
実母のヤスミンはヨランダが生まれて半年後に格下のゴート男爵家の後妻におさまり、今では一男一女に恵まれ幸せに暮らしている。
ヤスミンは美しかった。ろうたけた所作に可愛らしい容姿。そこに子供を産んだなんとも言えない色香が乗り、ゴート男爵ディーンに見初められた。後妻であるがヤスミンも出戻りであり、ギリアン家に否やはなかった。
そのままヨランダはギリアン家の養女となった。
実子を持つまでの良い練習だと、養父母イェーツとミリアはペットのようにヨランダを可愛がり甘やかした。
しかし待ち望んだ実子には恵まれず、婿を取るしか家督を継がせる方法はなかった。
しかしヨランダが十八歳になっても縁談が来ないことに焦り、その時期にはせっせと若い男性の出席する場にヨランダを伴って赴いた。
縁談がひとつも舞い込まない理由。
その原因はヨランダの派手好みと、はすっぱな性格のせいだとイェーツはわからない。
ヨランダは有頂天でヒラヒラとあちらの殿方こちらの殿方と浮名を流す寸前まで行った。
寸前でエイダ侯爵三男キースの男ぶりに一目惚れした。
男気溢れながらも優しい、そして見目麗しいキース。
(わたくし達、お似合いだわ)
ヨランダはキースに甘い言葉を弄して付きまとい、養母ミリアの真似で甲斐甲斐しく尽くした。
そして未婚のまま情を交わしてしまった。
それを知ったイェーツは、これ幸いとばかりに既成事実を以ってエイダ侯爵家に訴えたのだ。
実はエイダ侯爵ホルヘルは心のなかでにんまりとした。
ヨランダの噂は承知の上で、キースが彼女の元へ行くよう取り計らっていたのだ。
キースは三男であり、どこかへ婿へ出すことをホルヘルは決めていた。
無鉄砲で男気を気取るくせに臆病な性格であることを見越してのことだ。婿として押さえつけられた方がいいだろうと思っての親心だ。
先代夫婦に頭を押さえつけられ辛抱を学べばおとなしくしているだろうという目論見は見事功をなした。
ホルヘルはギリアン子爵イェーツが傲慢で威張り散らすのが好きな男であること、ヨランダが甘やかし放題の娘であることを知っていた。
苦労をすれば無鉄砲も出る隙がなくなるだろう。
二人の結婚は速やかに執り行われた。
ヨランダ十九歳、キース二十六歳だった。
グリーンの瞳も、金髪に近い淡い色の髪も。
実はヨランダは髪を脱色していた。
縮らせたりウェーブををつけたりして、最新流行の型に結っていた。
そのため傷んでしまった髪を隠すために金髪の付け髪を使い、いささかやりすぎなほどだ。
十代の未婚の娘の流行を三十五歳になっても追っている。
ヨランダの細身ににも秘密があった。
養父イェーツに似て、ヨランダは脂っこい肉料理や甘いものが好きだった。
普段から我慢せずに好きなものを好きなだけ食べていた。
ヨランダの秘密は普段飲むお茶である。
ある薬草のお茶で食べた物が下る作用がある。
通常は食べ過ぎや、良くない物を食べた時に速やかに排出するように使用されるものだ。ヨランダはこれを常に飲み、ほっそりした肢体を保っていた。
「ほっそりした」はヨランダの主観であって、大きく開いた襟ぐりから見える鎖骨もあばら骨が浮いた薄い胸も、不健康極まりない。
顔もほっそりというより、骨に皮が張り付いたような印象を受ける。
若い頃はもう少し肉付きがよく、遊び目的の男達にはもてはやされたものだ。
自分の姿かたちに自信のあるヨランダは、ドレスは赤を好み、飾りは多いほどいい。
フリルにリボン、レースにチュール。
本当は宝石をあしらいたいのだが、いかんせん子爵家の資産では叶わない。せいぜい、とっておきの数着に少しだけ、それを次のドレスに付け替えるのがせいいっぱいだ。
時折、娘アーシアのパーティー・ドレスにあしらわれた宝石や、身に着けている宝飾品に歯噛みする。
(ああ、あれがわたくしのものになれば)
それはギリアン子爵家が仕立たものではなく、エイダ侯爵家が調えたものだ。手を出せば、アーシアはエイダ侯爵家へ永遠に置かれ、資金援助さえなくなることくらい理解している。
それは若い頃でさえ失笑される派手好みだったが、ヨランダは世間の評判を知らない。
父イェーツも母ミリアも社交界を好まず、必要最低限の場にしか出なかったからだ。
ヨランダの親であるイェーツとミリアは娘を甘やかし放題だった。
それは複雑な事情がある。
ヨランダはこのギリアン子爵夫妻の実の子ではないのだ。
ギリアン侯爵イェーツの妹ヤスミンの娘だ。
ヤスミンはそれなりの持参金とともに同格のアンシェル子爵家に嫁いだのだが、そこではすでに妾アイリーンが子爵家の奥の実権を握っていた。
アンシェル子爵家でヤスミンは正妻の部屋も与えられず、二番目として妾にいびられる辛い日を送ることになった。
妾はしょうことなくヤスミンを虐げ、アンシェル子爵ジグムンドが近づかないよう策を弄した。
おっとりとしたヤスミンは抵抗すらしなかった。
それでも妾が妊娠がわかると数か月、隙が生まれた。色好みのジグムンドは妾と正反対の気性を持つ美しいヤスミンと閨を過ごした。ほどなくヤスミンは懐妊した。
ようやくここでのヤスミンの道が開けたかと思われた時であった。
妾が男児を産んだのだ。嫁いで一年足らず、ヤスミンは離縁され戻ってきた。身重の身で。持参金も戻らず、嫁入り道具も持参した宝飾品も取り上げられた。
生まれたのがヨランダである。
実母のヤスミンはヨランダが生まれて半年後に格下のゴート男爵家の後妻におさまり、今では一男一女に恵まれ幸せに暮らしている。
ヤスミンは美しかった。ろうたけた所作に可愛らしい容姿。そこに子供を産んだなんとも言えない色香が乗り、ゴート男爵ディーンに見初められた。後妻であるがヤスミンも出戻りであり、ギリアン家に否やはなかった。
そのままヨランダはギリアン家の養女となった。
実子を持つまでの良い練習だと、養父母イェーツとミリアはペットのようにヨランダを可愛がり甘やかした。
しかし待ち望んだ実子には恵まれず、婿を取るしか家督を継がせる方法はなかった。
しかしヨランダが十八歳になっても縁談が来ないことに焦り、その時期にはせっせと若い男性の出席する場にヨランダを伴って赴いた。
縁談がひとつも舞い込まない理由。
その原因はヨランダの派手好みと、はすっぱな性格のせいだとイェーツはわからない。
ヨランダは有頂天でヒラヒラとあちらの殿方こちらの殿方と浮名を流す寸前まで行った。
寸前でエイダ侯爵三男キースの男ぶりに一目惚れした。
男気溢れながらも優しい、そして見目麗しいキース。
(わたくし達、お似合いだわ)
ヨランダはキースに甘い言葉を弄して付きまとい、養母ミリアの真似で甲斐甲斐しく尽くした。
そして未婚のまま情を交わしてしまった。
それを知ったイェーツは、これ幸いとばかりに既成事実を以ってエイダ侯爵家に訴えたのだ。
実はエイダ侯爵ホルヘルは心のなかでにんまりとした。
ヨランダの噂は承知の上で、キースが彼女の元へ行くよう取り計らっていたのだ。
キースは三男であり、どこかへ婿へ出すことをホルヘルは決めていた。
無鉄砲で男気を気取るくせに臆病な性格であることを見越してのことだ。婿として押さえつけられた方がいいだろうと思っての親心だ。
先代夫婦に頭を押さえつけられ辛抱を学べばおとなしくしているだろうという目論見は見事功をなした。
ホルヘルはギリアン子爵イェーツが傲慢で威張り散らすのが好きな男であること、ヨランダが甘やかし放題の娘であることを知っていた。
苦労をすれば無鉄砲も出る隙がなくなるだろう。
二人の結婚は速やかに執り行われた。
ヨランダ十九歳、キース二十六歳だった。
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