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第1章 悪魔が天使に恋をした
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珍しく携帯電話が鳴った。名前を見たところ、兄だった。いつもL〇NEなのに、珍しいな、と思い出る。
「もしもし」
「あ、亮太! これから、天使くん連れて、お前んち行くから」
「……天使、くん?」
「ほら、桜井 律くんだよ。俺の高校の卒業生の」
兄は近くの都立高校の教師をしている。
桜井 律 くん?
俺の思考はフリーズする。
「あ、固まってる? そうだと思って、予告電話したんだ。俺って親切だろ。あと10分くらいで着くから。よろしく」
電話が切れる。しばし、呆然とする。
律くんが、うちに来る?
立ち上がって、うろうろする。何か準備しなければいけないのに、何をしていいかわからない。うろうろしていると、玄関のドアが、がちゃりと開いた。兄はうちの合鍵を持っているのだ。
「亮太! 桜井くん連れてきたぞ」
慌てて玄関に向かう。兄は靴を脱いで上がってきていた。その兄の背後に……。
本物だ。
そこには本物の律くんがいた。
小柄できゃしゃな体型。身長は160cmくらい。髪は地毛の金髪だ。大きい瞳は青色に輝いている。色白な肌。律くんと目が合った。律くんは俺に深々とお辞儀する。
「初めまして、桜井律と申します。これから、よろしくお願いいたします」
俺もあたふたと頭を下げた。
これから? よろしく?
俺は兄を見る。兄はふふっと勝ち誇ったように笑う。そして律くんに向かってあがるように言う。律くんは靴を脱いで上がった。
居間に向かいながら、兄は律くんに言う。
「初めまして、じゃないんだよ」
律くんも、微笑んで言う。
「そうですね、お店によく来てくれていましたよね」
去年の3月に兄の勤める都立高校を卒業した律くんは、高校時代からバイトしていた長谷川ストアという近所の小さな個人商店に就職していたのだ。俺は律くんに会いたいだけのために、長谷川ストアに通って買い物をし続けていた。
俺と律くんを居間の応接セットのソファーに座らせて、兄は台所に向かった。俺にはお客さんが来ることはなく、編集さんが仕事の関係で使うのみの応接セットだった。向かいに座っている律くんを直視できず、俺は下を向く。
「それでね、桜井くんには、ここの住み込みのハウスキーピングを頼んだんだ」
兄は3人分の冷たい麦茶を入れたコップに頂きものの水ようかんをそえて運んでくる。
「僕、家事はそんなにできないので、和久津さんのご期待にそえるか、わからないのですが」
「いいの、いいの、こいつ、人見知りで家政婦さん頼むの嫌がるんだよ。でも、ほおっておくと、ごはんは食べないわ、夜も寝ないわで体壊しそうだから、見張り役が欲しいのよ。亮太だって、桜井くんなら住み込みOKでしょ」
兄はずるい顔をして、俺を見つめる。
俺が律くんのこと、好きなのを知ってるくせに!
律くんを見ると、律くんが不安そうな顔をしている。
「長谷川ストアで感じのいい接客されていましたので、桜井さんでしたら、住み込みで問題ありません」
俺は何とか怪しまれないように理由を言う。
律くんは、ほっとした表情になる。色白の肌に赤みがさす。
かわいい……
思わず見とれた俺を、兄がにやにや笑う。
「亮太も知ってるよね。長谷川さんが病気で倒れたの」
俺はこくんと頷く。律くんが勤めていた長谷川ストアは70代の夫婦で経営している個人商店だった。店主の長谷川さんが病気になって、今は閉まっている。
「病気は良くなったそうなんだけど、無理はできなくなったので、長谷川ストアは閉店することになったそうなんだ。それで桜井くんが無職になってしまったので、うちの高校に相談に来たんだ」
「僕、男のくせに、こんなひょろひょろだから、現場系とか運輸系とか難しくて。今すぐつける仕事はなさそうなので、バイトしながら就活しようかと思ってたんです」
「桜井くんは長谷川ストアに住み込みの就職だったんだけど、長谷川さん夫婦はアメリカにいる息子のところに行くらしくて、住むところまでなくなっちゃうんだよね」
「僕、施設出身なので、帰る家がないんです」
律くんはつらそうな顔をする。
推しにそんなつらそうな顔をさせるわけにはいかない。
「この家、俺1人で住むには無駄に広いしさ。桜井さんが良ければ、好きなだけ住めばいいよ」
律くんがほっとした表情になる。
兄は律くんに説明し始める。
「先生が泊まる時に使っている部屋があるから、桜井くんはそこ使うといいよ。ベッドとか、あるから」
「僕がそこを使ったら、先生が泊まる時に困るんじゃないですか?」
「俺は、こいつが心配だから、泊ってるだけで、桜井くんが見張ってくれるんなら、泊らず帰るよ。うちの奥さん、妊娠しててさ、正直、こいつよりそっちの方が心配だから」
律くんは笑顔になる。
「先生にお子さんが生まれるんですね」
兄は照れ臭そうに笑う。
「うん、初めての子供だから、落ち着かなくてな」
「じゃ、これで面接終了ということで、桜井くんはいつ引っ越してこれる?」
「もう、荷物はまとめてありますので、いつでも大丈夫です」
「じゃ、部屋を見に行くかい?」
兄が律くんを連れて出て行った。俺は一息ついて、麦茶を飲んだ。
律くんと一緒に住むなんて、今日、寝られるだろうか。
「もしもし」
「あ、亮太! これから、天使くん連れて、お前んち行くから」
「……天使、くん?」
「ほら、桜井 律くんだよ。俺の高校の卒業生の」
兄は近くの都立高校の教師をしている。
桜井 律 くん?
俺の思考はフリーズする。
「あ、固まってる? そうだと思って、予告電話したんだ。俺って親切だろ。あと10分くらいで着くから。よろしく」
電話が切れる。しばし、呆然とする。
律くんが、うちに来る?
立ち上がって、うろうろする。何か準備しなければいけないのに、何をしていいかわからない。うろうろしていると、玄関のドアが、がちゃりと開いた。兄はうちの合鍵を持っているのだ。
「亮太! 桜井くん連れてきたぞ」
慌てて玄関に向かう。兄は靴を脱いで上がってきていた。その兄の背後に……。
本物だ。
そこには本物の律くんがいた。
小柄できゃしゃな体型。身長は160cmくらい。髪は地毛の金髪だ。大きい瞳は青色に輝いている。色白な肌。律くんと目が合った。律くんは俺に深々とお辞儀する。
「初めまして、桜井律と申します。これから、よろしくお願いいたします」
俺もあたふたと頭を下げた。
これから? よろしく?
俺は兄を見る。兄はふふっと勝ち誇ったように笑う。そして律くんに向かってあがるように言う。律くんは靴を脱いで上がった。
居間に向かいながら、兄は律くんに言う。
「初めまして、じゃないんだよ」
律くんも、微笑んで言う。
「そうですね、お店によく来てくれていましたよね」
去年の3月に兄の勤める都立高校を卒業した律くんは、高校時代からバイトしていた長谷川ストアという近所の小さな個人商店に就職していたのだ。俺は律くんに会いたいだけのために、長谷川ストアに通って買い物をし続けていた。
俺と律くんを居間の応接セットのソファーに座らせて、兄は台所に向かった。俺にはお客さんが来ることはなく、編集さんが仕事の関係で使うのみの応接セットだった。向かいに座っている律くんを直視できず、俺は下を向く。
「それでね、桜井くんには、ここの住み込みのハウスキーピングを頼んだんだ」
兄は3人分の冷たい麦茶を入れたコップに頂きものの水ようかんをそえて運んでくる。
「僕、家事はそんなにできないので、和久津さんのご期待にそえるか、わからないのですが」
「いいの、いいの、こいつ、人見知りで家政婦さん頼むの嫌がるんだよ。でも、ほおっておくと、ごはんは食べないわ、夜も寝ないわで体壊しそうだから、見張り役が欲しいのよ。亮太だって、桜井くんなら住み込みOKでしょ」
兄はずるい顔をして、俺を見つめる。
俺が律くんのこと、好きなのを知ってるくせに!
律くんを見ると、律くんが不安そうな顔をしている。
「長谷川ストアで感じのいい接客されていましたので、桜井さんでしたら、住み込みで問題ありません」
俺は何とか怪しまれないように理由を言う。
律くんは、ほっとした表情になる。色白の肌に赤みがさす。
かわいい……
思わず見とれた俺を、兄がにやにや笑う。
「亮太も知ってるよね。長谷川さんが病気で倒れたの」
俺はこくんと頷く。律くんが勤めていた長谷川ストアは70代の夫婦で経営している個人商店だった。店主の長谷川さんが病気になって、今は閉まっている。
「病気は良くなったそうなんだけど、無理はできなくなったので、長谷川ストアは閉店することになったそうなんだ。それで桜井くんが無職になってしまったので、うちの高校に相談に来たんだ」
「僕、男のくせに、こんなひょろひょろだから、現場系とか運輸系とか難しくて。今すぐつける仕事はなさそうなので、バイトしながら就活しようかと思ってたんです」
「桜井くんは長谷川ストアに住み込みの就職だったんだけど、長谷川さん夫婦はアメリカにいる息子のところに行くらしくて、住むところまでなくなっちゃうんだよね」
「僕、施設出身なので、帰る家がないんです」
律くんはつらそうな顔をする。
推しにそんなつらそうな顔をさせるわけにはいかない。
「この家、俺1人で住むには無駄に広いしさ。桜井さんが良ければ、好きなだけ住めばいいよ」
律くんがほっとした表情になる。
兄は律くんに説明し始める。
「先生が泊まる時に使っている部屋があるから、桜井くんはそこ使うといいよ。ベッドとか、あるから」
「僕がそこを使ったら、先生が泊まる時に困るんじゃないですか?」
「俺は、こいつが心配だから、泊ってるだけで、桜井くんが見張ってくれるんなら、泊らず帰るよ。うちの奥さん、妊娠しててさ、正直、こいつよりそっちの方が心配だから」
律くんは笑顔になる。
「先生にお子さんが生まれるんですね」
兄は照れ臭そうに笑う。
「うん、初めての子供だから、落ち着かなくてな」
「じゃ、これで面接終了ということで、桜井くんはいつ引っ越してこれる?」
「もう、荷物はまとめてありますので、いつでも大丈夫です」
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兄が律くんを連れて出て行った。俺は一息ついて、麦茶を飲んだ。
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