【完結】天使と悪魔

十海 碧

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第1章 悪魔が天使に恋をした

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 ピザトーストに牛乳が添えられていた。2人分、向かい合わせで準備されている。
「先生から、和久津さんは1人でご飯食べるのが苦手だから、一緒に食べてやってくださいと言われたので、僕のも準備しちゃったんですけど、ずうずうしくないですか? もし、お嫌でしたら、僕は後で食べますが」

 1人で食べるのが苦手ということはない。おそらく兄が律くんと一緒にご飯が食べられるように仕組んでくれたのだろう。
「そうなんだよね。1人で食べると味気なくて。桜井さんも、こんなおじさんと一緒にご飯は気詰まりだろうけど」
 俺は椅子に座る。
「おいしそうだ。いただきます」
 ピザトーストは食べやすいように4等分に切られていた。一切れ、口に運ぶ。
「おいしい」
 律くんに笑顔を見せる。律くんが変な遠慮をしないで、一緒にご飯を食べてくれるように、冷や汗をだらだら流しながら演技し続けた。
 律くんはそんな俺を眺めていたが、俺がぱくぱく食べるのを見て、安心したように、自分も食べ始めた。
 ピザトーストを一切れ食べ、牛乳を飲んだ。律くんが食べているのをつい、眺めてしまう。

 ピンク色の唇の中には白い歯が見える、口が小さいのでピザトーストからケチャップがはみ出て、唇の端につく。
 律くんは唇の端のケチャップに気づかず、ピザトーストを食べ続ける。そのケチャップを舐めとりたくて、俺の喉が鳴った。
「和久津さんって少食なんですか? 先生から聞いたんで、少なめにしたんですが。このトースト、厚めの4枚切りなんですが、1枚じゃ足りなくないですか?」
 律くんはぺろりと平らげていたが、俺は半分の2切れしか食べていなかった。
「少食、なのかも。基本的にデスクワークだから、カロリーはあんまりいらないんじゃないかな?」
 俺は食にあまり興味がない。食べるのがめんどくさくて、空腹で倒れたりすることもある。
「先生から、少量でいいから三食食べさせるよう言われてます。晩御飯に何か食べたいものありますか?」
「うーん。お腹いっぱいの時に言われてもな。桜井くんの食べたいものでいいよ」
 律くんが、にこっと笑う。
「よかった。なんか難しい料理名を言われたらどうしようかと思いました。長谷川さん家に住み込みさせてもらって、安江さんのお手伝いして料理習いましたけど、基本的なことしかできませんので」
「基本的なこと、できるだけすごいよ。俺なんてインスタントものか、冷凍食品ばっかりだよ。仕事忙しくなるとエナジードリンクで生きてるようなものだし」
「先生から、あんな生き方したら早死にするから、少しでも普通の生活させてやってくれと言われてます」

 長生きしたいと思ったことないからな。

 ピザトーストを食べ終わると、すっかり満腹になった。
「あの、先生から言われたんですけど……」
 律くんが口ごもりながら言う。
「夕方、お買い物に行こうと思ってるんですが、和久津さんも連れて、荷物持ちさせるようにって。でも、お仕事で忙しいですよね。僕、1人で、全然、大丈夫なんですけど……。先生が、そうでもしないと、和久津さんは外に出ないから、運動不足になるって。だから、長谷川ストアにも毎日買い物に行かせてたって」

 それって、もしかして、お買い物デートですか?

「ずっと、座ってると、腰に悪いんだよね。桜井さんが、邪魔でなければ、一緒に行こうかな」
 律くんは、パーッと笑顔になった。
「一緒に行ってほしいです。僕、早速、仕事しますので、和久津さんもお仕事してください。午後4時くらいにまた声をかけますね。お買い物行きましょう」

 もしかして、律くんも俺のこと、好きなの? と勘違いさせるような笑顔。
 律くんは早速立ち上がって、食器を片付け始めた。俺も自分の食器をさげる。律くんはてきぱきと食器を洗い始めた。俺は仕事部屋に戻った。

 ふわふわと夢見心地だった。兄がグッジョブ過ぎる。律くんは、兄の説明をすっかり信じ込んでしまってる。なんて素直ないい子。
 ネームの仕事に取りかかる。夢のような気分で、あまり漫画の世界観にのめりこめない。律くんをモデルにしたキャラの登場回数を増やしたくなる。
 
 初めて見たときは小学生だった。その時は女の子と言われても通りそうな可愛らしさだった。施設の子がよく遊びに行く公園に律くん会いたさに通った。律くんをたまに見かけることができると、しばらく幸せだった。律くんが中学生になると、公園で遊ぶ姿を見ることができなくなった。もう会えないのかと思っていたら、兄の勤める都立高校に律くんが入学したのだ。

「亮太、大変だよ。お前の天使がうちの高校に入学してきた」
 兄は大学時代から交際していた義姉と結婚していた。俺は兄の家族ということで義姉と一緒に体育祭や文化祭を見学することができた。おまけに、律くんが長谷川ストアでバイトする情報まで得られた。俺は律くんのシフトに合わせて、長谷川ストアに買い物に行った。

 遠くから見ているだけで満足してた。
 それが、同居だよ。どうなってるのかね。
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