【完結】天使と悪魔

十海 碧

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第2章 堕天使の告白

1 *

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「エレン、エレン、どこへ行った」
 酔ったお父さんが僕を探し回っている。僕はトイレにカギをかけて中に閉じこもり、震えていた。
 しかし、すぐに見つかる。トイレのドアが、がちゃんがちゃんと乱暴にこじ開けられる。カギはあまくなっており、簡単に開く。
「エレン、俺から逃げるな」
 お父さんは僕の首根っこをつかまえ、トイレから外に出し、寝室に連れ込む。
「お父さん、僕だよ、律だよ。お母さんじゃないよ」
 僕は無駄だとわかりながら、抵抗を続ける。お父さんは僕を殴る。僕は気を失ってしまう。そして、お父さんは僕を犯した。

 僕のお母さんは東ヨーロッパの戦争難民だったそうだ。一時停戦になり、一時帰国を促されたが、お母さんは祖国に帰らず、不法滞在者となってしまった。お父さんは難民を支援するNPO法人で働いていた。不法滞在者となってしまったお母さんはそのNPO法人を頼り、お父さんと出会った。
 お父さんとお母さんは結婚して、僕が生まれた。

 お父さんは普段は優しい人だったが、お酒を飲むと人格が変わり、お母さんに暴力をふるった。僕が小学生になるまで、お母さんは我慢していた。しかし、ついに我慢できなくなり、大使館に駆け込んで、祖国に強制送還されたそうだ。お母さんはもう二度と日本の地は踏めない。お母さんの祖国は、今なお戦争中であり、レベル4の退避勧告が出ている。僕が行くこともできなかった。

 お母さんは不法滞在者だったので、僕の戸籍上に名前はない。お父さんと僕の名前だけだった。僕はお父さんのところにいるしかなかった。

 お母さんは美しい人だった。僕と同じ、金髪と青い瞳を持っていた。お父さんの職場の同僚は、僕を見ると「エレンさんに似てきたな」と言う。それを聞いたお父さんが不機嫌になるので、みんな黙ってしまうのだけれど。

 初めては、僕が小学校3年生だった。お父さんはお酒を飲んで、僕のことを「エレン」とお母さんの名前で呼んだ。お父さんは僕の下半身を裸にした。殺気だったお父さんの雰囲気に、僕は必死で抵抗したが、殴られて意識を失った。
 意識がもどると、1人ぼっちになっていた。おしりに強い痛みを感じたので、恐る恐る、右手で触ってみると、血と白いどろっとした液体が手についてきた。
 血……。僕、おしりから血が出てる……。死んじゃうの?
 お父さんに殴られたところも痛いし、とりわけ、おしりの穴はズキズキ痛い。おまけに血も出ていて、僕は恐怖だった。
 ガチャンと玄関のドアの音がして、足音が聞こえた。
 お父さん?
 こんな風にしたのがお父さんだったにも関わらず、1人で不安だったので、お父さんが帰ってきたことに安心感を覚えた。
「お父さん!」
 僕は起き上がりお父さんのところに行こうとした。
「律、そこに寝てなさい」
 お父さんはレジ袋を置き、僕の足元に座った。そして、僕のおしりに買ってきた軟膏を塗って手当をしてくれた。
「律、ごめんな。お父さん、お母さんがいないの寂しくて」
 お父さんは泣いて、僕に謝りながら、僕の手当をしてくれた。僕はお父さんが可哀そうになって、されたことを忘れた。

 それから数日はお父さんはすごく優しかった。あれは何かの間違いだったのだと、僕はお父さんを許していた。

 しかし、またお父さんはお酒を飲み、僕を殴った。そして、レイプした。僕は殴られていることは理解していたけれど、レイプの意味は分かっていなかった。素面になると、お父さんは僕に泣いて謝り、優しくなった。僕の顔は腫れ上がるので、数日学校を休むことができた。優しくなったお父さんは僕に欲しかった流行りのゲームを買ってくれて、僕は布団の中でごろごろゲームをして過ごした。痛い思いはするけれど、その後は遊んで過ごせるので、これはこれでいいかと自分を納得させていた。

「転んでぶつけた」
 顔の腫れがひけて、学校に行く。それでも、完全にあざはなくなっていない。先生が「どうしたの?」と聞くと、僕はそう答えた。先生を心配させたくなくて、僕は笑顔で答える。お父さんに変なことをされていると気づかれたくなかった。お父さんが僕にしていることは、僕が悪い子だから、しつけのためにしていて、それは必要だということにしたかった。
 周囲も何かに気づき始めていたのかもしれない。周りは僕を腫れもののように当たり障りなく扱うので、僕は気が付かなかったが、お父さんは追い込まれていたのだった。

 最後の夜、お父さんはお酒を飲み、僕を抱いた。最近では、僕も殴られるのは痛いし、痕が残るので、あまり抵抗しなくなった。お父さんは僕のことを「エレン」と呼び、僕を抱いた。僕が抵抗しないと、お父さんはベビーオイルを使ってくれて、終わった後の痛みは軽くなった。
「エレン、エレン」
 お父さんはお母さんの名前を泣きながら呼び続け、僕の上で腰を振った。
 僕は意思のない人形のように力を抜いて、心を別の世界に飛ばした。
 終わった後は、いつも通り、お父さんは泣きながら僕に謝った。「もう二度としない」と僕に誓ったが、僕は信じなかった。

 しかし、誓いは守られた。学校から帰ってきた僕は、家の中でお父さんが首を吊っているのを発見した。
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