【完結】天使と悪魔

十海 碧

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第2章 堕天使の告白

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 斎藤くんの家に着く。白い大きな一軒家。斎藤くんは鍵を取り出し、玄関に入る。玄関には高そうな花瓶に綺麗な花が飾られていた。フラワーアレンジメントを習いに行っているということだったから、斎藤くんのお母さんがいけたんだろう。
 まっすぐに階段を上がる。右手のドアを開けると斎藤くんの部屋だ。斎藤くんは、僕を案内した。テーブルにコンビニ袋を置き、「ちょっと待ってて、コップ持ってくるから」と僕を置いて出て行ってしまった。僕は斎藤くんの部屋を見回す。窓際に机があって、その隣にパソコンが設置された小さな机があった。本棚には本がぎっしり詰まっている。ベッドは紺色のシンプルなベッドカバーがかかっていた。
 すぐに、斎藤くんはコップを持って上がってきた。
「適当に座ってよ」
 斎藤くんはテーブルのそばに座り、ペットボトルのコーラを2つのコップに注いだ。そしてスナック菓子の口を開く。僕も斎藤くんのテーブルを挟んだ向かいに腰をおろす。
「はい、かんぱーい」
 斎藤くんは無邪気にコップを僕のコップにかちんと当てて、ぐいっと飲みだす。僕も釣られて飲んだ。
「ふー、生き返る」
 斎藤くんは一気に飲み干し、お代わりをついだ。
「あれ、桜井はコーラ、嫌いだった?」
 僕がちょっとしか減っていないのに気が付き心配する。僕は慌てて首を振る。
「嫌いじゃない。ただ、炭酸って喉がビリビリするから、早く飲めないだけ」
 赤くなりながら、説明する僕を見て、斎藤くんは噴き出す。
「なんか、桜井ってほっとけないっていうか、可愛いよな……」
 ?
 僕は斎藤くんの言葉が理解できず、まじまじと斎藤くんの顔を見つめてしまう。斎藤くんが、やばい、という顔をする。
「斎藤くんはカッコいいよね」
 褒められたようなので、僕も褒め返す。斎藤くんが嬉しそうな顔をする。
「マジ? 桜井は、僕のこと、カッコいいと思う?」
 僕はこくんと頷く。
「なんでもできて、すごいよね。斎藤くんも、お医者さんになるの?」
 白衣を着た斎藤くんを想像する。うん、カッコいい。
「……一応……。僕、一人っ子だし。うちの病院、僕が継がないとね」
「斎藤くんなら頭いいし、大丈夫だよ」
「桜井は、どこの高校受けるの?」
 僕は施設のそばの都立高校の名前を言う。
「斎藤くんは? △高校?」
 この辺で一番かしこい高校の名前で聞いてみる。
「うん、そこも受けるけど、本命は私立のK高校」
「難しいところなの?」
「うん。中学から入る人が多いんだけど、僕、今の中学に通いたくて、中学受験はしなかったんだ。母親は中学受験にこだわってたけど、父親が高校からでいいって許してくれたんだ」
 中学受験……。存在は知っていたけど、僕には縁のない言葉。やっぱり斎藤くんとは住む世界が違うな。手持ち無沙汰になり、コーラを一口飲む。
「桜井は? 将来、何になるの?」
 斎藤くんはキラキラした笑顔で問いかける。
 何になるの? というより何ができるんだろう。
「うーん。高校卒業したら就職するけど、雇ってくれるところに勤めると思う。僕に選ぶ権利はないと思う」
 将来の話をされると、胸の奥が重くなる。施設からも出なければいけないし、本当に独りぼっちだ。
「僕、何もできないし、一人で生きていけるのかな?」
 つい斎藤くんに甘えて、愚痴ってしまう。斎藤くんは真面目な顔になる。
「桜井……、一人で生きていくの?」
「親も兄弟もいないし。たぶん、僕を好きになってくれる人だっていないよ。だから一人で頑張るしかない」
 斎藤くんに言いながら、心がしんどくなってくる。本当につらい。

「僕じゃ、だめかな」
 斎藤くんがぽつんと話す。僕は言葉の意味が分からず、斎藤くんを見つめた。沈黙が続く。
「ごめん、キモイこと言った。忘れて」
 斎藤くんが下を向く。
 キモイこと?
「斎藤くん、それって……」
 僕はドキドキしながら斎藤くんに問いかける。もしかして、僕の考え違いでなければ、今のは告白?
「ごめん、男同士なのに、変だよな。僕、最近、変なんだ。桜井のことばっかり考えちゃう」
 斎藤くんは赤らめた顔を両手で隠してしまう。

 学年1位の優秀な頭脳、みんなに信頼されリーダーシップもとれる。大きい立派な一軒家の一人息子、将来はお医者様、斎藤医院のあととり。僕の頭の中には斎藤くんのデータが流れる。問題なのは男同士ということ。でも、僕は抵抗ない。斎藤くんとならやれる。
 僕は斎藤くんのそばににじり寄った。顔を覆っている斎藤くんの手にそっと触れる。斎藤くんがびくっと震えた。斎藤くんは顔から手を離した。僕の顔が近づいているのに気がつき、真っ赤になる。僕は斎藤くんの手を握りしめる。そして上目遣いで斎藤くんを見つめた。所在なく彷徨っていた斎藤くんの視線は、僕が手に力をこめ、斎藤くんの手を握りしめたとたんに、僕の顔を凝視し始めた。僕は合図を送るように両目を伏せ、唇を少し突き出す。
 温かく柔らかいものが僕の唇を覆った。

「……いいの?」
 掠れたような斎藤くんの声。僕は目を開け、斎藤くんを見つめ、ゆっくり頷いた。斎藤くんは僕を抱きしめ、何度も口づけした。それに応えながら、僕は安心感を抱いていた。
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