【完結】天使と悪魔

十海 碧

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第2章 堕天使の告白

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 翌日、学校に行ったが、全く叱られなかった。
 担任は僕を見ると「昨日の件は話聞いてるぞ。お疲れ様。あと、その件で校長から話あるって」と声をかけてきた。
 入学早々、校長室? と怯えたが、校長先生はにこにこしてた。
「桜井くんだね。安江さんが世話になったそうでありがとう。安江さんは近所のお姉さんでね、私が小さかったころ、世話になったんだよ」
 安江さんはきちんとフォローの電話を入れてくれたようだった。
「桜井くんは、あそこの施設の子だね。バイトする予定はあるのかい?」
 高校生になったら携帯も持てるし、バイトもできる。携帯の代金は自分持ちだから、バイトを始める気でいた。
「はい、こちらの高校はバイト許可されていると伺っていましたので、働こうと思ってました」
「安江さんが自分のところで働かないか、と言っていたよ。ここの高校と君の施設から近いし、安江さんのところだと、何かあったとき、融通してもらえるだろうから、いい話だと思うんだけど」

 放課後、早速、長谷川ストアに行く。安江さんは、びっこは引いていたが歩けるようになっていた。僕は安江さんに、高校に連絡してくれたことの礼を言った。
「ふふ、私はあの校長のおむつも替えてあげた仲だからね」
 安江さんはいたずらっぽく笑う。
 政男さんも来て、月・木・土の週3回のバイトに決まった。メインの仕事は店番だったが、正直、そこまで客の多い店ではない。手が空いているときは、安江さんの雑用もお願いされた。
 安江さんの雑用と言っても、大したことを頼まれるわけではない。電球を変えたり、高いところの荷物を出し入れしたり。その後で、安江さんはおやつを用意していて、お茶と一緒におしゃべりするのだ。
 長谷川さんの家は古い昭和を感じる住居だった。床は畳で、上にカーペットが敷かれている。居間にはテーブルが置かれ、付属の椅子にはお手製の座布団がしいてある。茶色の漆塗りの丸い器には、お煎餅や最中など、いつもお菓子が入っていた。お盆には急須と湯呑がセットしてあり、安江さんはおいしいお茶を淹れてくれる。僕も淹れ方を教わった。

 そんな僕でも、少し売り上げに貢献しているらしい。背の高い、眼鏡をかけた男の人が良く買い物に来るようになった。来ると1万円くらい買い物していく。洗剤やティッシュペーパーまで買っていくので、近くのドラッグストアの方が安いですよ、と教えたくなる。常連さんなので、僕もにこにこ接客をする。少しくらいお喋りに付き合ってもいいかなと思っているのだけれど、無口な方なのか、あまり喋らない。
 最近、新築された近くの家の人らしい。安江さんの情報網でも、まだ、何をしている人か、あまり分からないようだ。外に勤めには行っていないようなので、「あいてぃーか、でいとれーだーかしらね」と安江さんは推理している。
「きっと、りっちゃんのファンよ。りっちゃんのバイト日しか来ないもの」
 安江さんはそう言うけど、僕はそう思わない。僕が話しかけても、対応がそっけないから。おそらく、この店が近いから、コンビニ感覚で利用しているのだろう。

 F高校は、校則がゆるやかで、マイペースの人が多かった。金髪に染めている人もいて、僕の金髪はさほど目立たなかった。バイトも始めて忙しくなり、斎藤くんに会えない寂しさもまぎれていた。
 友人もいなかったので、夏休みは特に予定がないことを安江さんに言うと、バイトを毎日入れてくれた。

 バイトが終わった帰り道、スマホを取り出して、歩きながら眺める。L〇NEに新規のメッセージが入っていることを示す赤い数字が光っており、クラスL〇NEの画面を開く。事務的連絡ばかりなのを確認して閉じた。しかし、赤い数字がまだ残っている。僕は心臓がドキドキした。斎藤くんからだ。震える手で斎藤くんのトーク画面を開く。

 会いたい

 僕は泣きそうだった。僕もずっと会いたかったのだ。斎藤くんも同じ気持ちでいてくれた。

 僕も会いたい

 すぐに打ち込む。既読がついた。

 7月25日にうちで会おう。17時に駅の北口で待ってる。

 第4木曜日、フラワーアレンジメントの日だ。僕の下半身がきゅんと切なくなる。

 わかった。楽しみ。

 僕は手早く打つ。すぐ既読が付いたのを見て安心する。バイトの日だけど、お願いして休ませてもらおう。なんて言い訳しよう。僕は胸を弾ませながら、言い訳を考えた。
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