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6.再戦、大学生
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◆
「休憩1時間って、最初の20分だけが1時間休憩感あって、
30分切ると、もうなんか弱い休憩感出てこないか」
「わかる、結局休憩1時間っていっても認識できるの開始直後だけで、
あとはただ減ってく時間を見るだけだもんな」
「短いとかそういうのではないんだよな……なんか無いのだな、気づくと」
「わかる」
「でも、なんか休憩時間中に寝ると5分しか寝てないのに、
2時間ぐらい寝た無敵感がたまにないか」
「休憩時間ってなんか、別の法則が働いてるよな」
休憩時間が終了し、ノミホはヤカサと共に再びスタッフルームを目指した。
共におっさんをピンを引っこ抜いて救おうとした仲である。
例え、ヤカサがその心の奥底に何を潜ませていようとも、
ノミホはヤカサを信じると、そう決めていた。
「あ、そろそろさっきの大学生の罠のところだ。女騎士、アプリ開け」
「ああ」
二度目である。女騎士は慣れた手付きで嘔吐マッピングを起動した。
二年目ながら、一度見た技は通用しないと言われるほどの戦士である。
女騎士ノミホ・ディモ・ジュースノームが、
ピンを引っこ抜く順番を間違えて死んでいくおっさんや、
IQが凄まじい勢いで上下するパズルゲームに目を奪われることはない。
いかなるものか、嘔吐マッピングアプリ。
剣となりゲロトラップダンジョンの魔物を討ち滅ぼすか、
盾となりゲロトラップダンジョンの罠から女騎士を守るか。
今、その答えが出ようとしている。
熟練の冒険者
★☆☆☆☆
ダメでした。
邪悪なる魔術師エメトを退治しようと思ったのですが、
最初のフロアの飲み放題の罠にふらふらっと釣られて、吐きました。
生ビールの飲み放題が1980フグはダメですね。
嘔吐の罰金で6万フグ取られましたが、次は吐かないように頑張りたいです。
暗黒剣士
★★☆☆☆
大学生とお酒飲めるのが嬉しかったのでついついやってしまった。
この年頃になると若い子が楽しそうにやってるだけで涙腺が緩む。
かなり吐いたけど、こういうタイプの店だと思うと良いかもしれない。
酒屋の店主
★★★★★
負けた。
魔王軍第三将軍
★★★☆☆
大学生を捻り潰すぐらいはわけないことであったが、
第三の罠は地獄であった。
あの地獄を通過できる人間はいるのか、せいぜい雪隠から楽しみに見せてもらおう。
すたみな三郎
★☆☆☆☆
飲み放題はあったが、食べ放題はついていないのが惜しい。
吐けばいくらでも飲み食いできるので、食べ放題もつけてほしい。
美少女令嬢
★★☆☆☆
久々に酒を呑めると思って、はしゃぎすぎてやってしまいましたわ。
やっぱ、イッキ飲みはあきまへんわ。
セクハラの一つでもかまされたらそいつの口にゲロ流し込んたろかと思いましたが、
そういうのはありませんでしたわ。
やはり酒は一人で呑むに限りまっせ。
ずらりと並ぶゲロトラップダンジョンの敗北報告。
それは、この恐るべき迷宮が幾人もの犠牲者を生んできた証左であった。
そして、嘔吐マッピング機能の本番はここからである。
「★1の記録は最初の飲み放題フロアの話しかしていないようだな」
「つまり★の数がその挑戦者がどこで吐いたかを表しているわけだ」
「私が退いたのは★2だから……★2の記録欄をチェックすればいいわけか」
「いや、★3もチェックしておこう。攻略情報を書いているのかもしれない」
二人はランダムに並んでいた記録から、
★2★3のものだけを抽出し、攻略計画を練っていく。
ほとんどは役に立たぬゴミのような情報であるが、
数少ない役に立つものを集めていけば、それなりに罠の形というものが見えていく。
「女騎士のように、
周りの勢いに呑まれてイッキ飲みを行ってしまった……っていうのが多いな」
「場の雰囲気というものがあるからな……」
先の失態を思い返し、苦々しげにノミホが言葉を返す。
だが、しょうがないことである。
いくら強き騎士であるとはいえ、飲みの席では素人も同然なのだ。
職場の飲み会でも、上司はアルコールを呑ませぬように目を配っていたし、
ノミホ本人も執拗にカルピスを飲み続けていた。
「だが、記録を見るに、飲みサーではあってもヤリサーではないみたいだな」
「ヤリサーとはなんだ」
「俺に聞くな、インターネットに聞け」
「ああ」
女騎士ノミホの指さばきの鮮やかなること、
風のごとき早さで検索エンジンに「ヤリサー」の四文字が叩き込まれる。
「悪意……いや、悪意自体はエメトにあるわけだが、
少なくとも愚か大学生自体は楽しく酒を飲みたいだけだ。
イッキ飲みも酒の席を盛り上げる行為の一つだ」
「うわ……ヤリサーってこわ……就職選んでよかった……」
「イッキ飲みは目的ではなく、手段だ。
そして相手は空前絶後の浮かれポンチ、男子大学生だ。
脳みそに詰まってるのは悪意でも知識でもなく、
空気よりも軽い気体、そんな奴らなら対策をしっかりと練っておけば問題ない」
「男子大学生に一族滅ぼされたのか?」
「生憎、男子大学生には恨みはねぇな」
「恨みのない相手によくそこまでボロクソに言えたものだな」
「冷静な分析結果って言うのは時に、そのような言葉を吐くもんだ」
「言うほど冷静な分析結果か?」
「とにかく、女騎士。お前がやるべきことは簡単だ」
にやりと笑って、ヤカサが言った。
「全部、ぶち壊せ」
◆
薄暗い通路を塞ぐ8人がけのテーブルでは、
相変わらず7人の大学生が酒を飲み交わしていた。
空いた椅子は席ではない、口である。
空席がぽっかりと口を開いて、次なる犠牲者を待っていた。
ハンズフリーイヤホンマイクを装着して挑むは、女騎士ノミホ。
虎穴どころではない、虎口に入るような行いである。
「あれ~?また来たんだノミホちゃん!
なに?なに?もしかして……俺らのこと忘れられなかったりする?キャハハ!!」
大学生の言葉に対して、ノミホはハンズフリーマイクに向けて、小声で囁いた。
「……このタイプの大学生、ほんとに私の貞操大丈夫なんだろうな」
「まぁ、大丈夫だろ。記録上ヤられたって話も聞かないし、
少なくとも人口が著しく増えたってニュースも無いしな」
「でも、私結構顔が良いからな……」
「その顔を歪ませて吐かせるのがエメトの目的だろ、貞操よりも胃の心配しときな」
「……ちょっとは心配しろ」
「信頼してるよ、女騎士」
「……ふん」
鼻を鳴らしたノミホは、大学生に促されるまでもなく椅子に座った。
その堂々たる態度を見ても、大学生に動揺はない。
相手が何かしらの策を持っていたとしても、
それで何かが変わるというわけではない。
ただ終わらないコンパを続けるだけである。
世界が滅ぶか、あるいは主である邪悪なる魔術師エメトが滅ぶその日まで。
「じゃあ生や……」
「カルピス1つください!!皆さんは何頼みます!?」
大学生の注文詠唱よりも早く、ノミホは叫んだ。
「えっ、じゃあ俺生」
「俺も生で……」
「あー……俺カルーアミルク飲みたい」
「生ビールで」
「カシオレ行こっかな」
「……んー、梅酒ロック」
「青りんごハイ」
各大学生の元に注文した酒が、そしてノミホの元にはカルピスが召喚された。
カルピス――飲み会における、ノミホの相棒である。
その外見は雪のごとくに白く、中身は初恋のように甘い。
花嫁が纏う薄手のベールが如くにさらさらと喉を流れていき、
しかし、たしかに存在する甘さが舌を癒やす。
当然、チューハイとの相性も抜群であるが、
ノミホの注文はシンプルなカルピス、カルピスサワーではない。
以前の戦いでノミホは大学生の作る流れに巻き込まれ、何も出来ずに敗北したが、
今、ノミホは流れを作る側に回った。
確かに慣例的に最初のドリンクは生ビールという風潮がある。
だが、大学生の皆が生ビールを好きであるかと言えば、人によるとしか言えない。
とりあえず、で最初に生を頼むことはあっても、
多くの場合は生ビールから違うアルコールに流れていく。
そこから経験を重ねて、ビールを好きになっていくのかもしれないし、
あるいは別の酒を好きになっていくのかもしれない。
ただ一つ言えることは、必ずしも最初に生ビールを頼む必要はないということだ。
特にノミホは、今、ノンアルコールのドリンクを真っ先に頼み、
とりあえず生ビールという流れを完全に破壊した。
アルコールを飲もう、飲もうという気はある。
だが、本当は好きなアルコールを飲みたいという気持ちもある。
だからこその、ノミホのカルピスである。
最初にカルピスが頼まれたなら、もうなんでもいいだろ。
そのような雰囲気を、ノミホは作り出した。
この時点で飲み会の先手を取ったのは、
女騎士ノミホ・ディモ・ジュースノーム(20)である。
「んじゃ、ノミホイッキやりまーす!!」
さらにノミホは畳み掛ける。
イッキさせられるというのならば、してしまえばいい。
ノミホはジョッキを傾け、一気にカルピスを煽っていく。
「っく、っく、っく、っく……はぁー」
中身を半分だけ残して、ノミホは両手でジョッキを置いた。
「イッキって言ったじゃーん」
「そんなに一気に呑めませんよぉ」
「じゃあ、俺が本物のイッキ飲みを見せちゃおっかな!?」
大学生が叫ぶ。
流れは完全にノミホが握っている。
ノンアルコールをイッキ飲み、しかも半分しか呑めていない。
今、この流れのままで行けば、イッキ飲みは完全な茶番になる。
反撃しようとするならば、今、このタイミングしかない。
「えーっ!?先輩イッキやっちゃうんですか!?」
「女騎士ちゃんに本物のイッキ飲みを教えてやらないとな!」
先輩――の言葉に余計な反応はしない。
大学生がジョッキを握ろうとした、その時である。
「じゃあ、先輩イッキの続きどーぞ」
ノミホが半分残ったカルピスを差し出す。
「せーの、先輩の!ちょっといいとこ見てみたい!」
「……まじかよ」
「イッキ!イッキ!イッキ!イッキ!」
流れは完全にノミホが掌握していた。
もう、大学生は半分残ったカルピスを飲み干す以外に道はない。
飲み干したならば、ノミホが黄色い声で歓声を上げるだろう。
ノミホはイッキ飲みを完全に茶番にした。
その上、自分をちょっとぶりっ子で可愛い後輩女子の立場に置いたのだ。
「先輩、カルピス美味しいですか?」
「美味しいよ」
「やっぱり、自分のペースで呑むのが一番ですよね」
「……そうだな」
勝負は決した、それは確かに告げられた敗北の一言であった。
それから、ノミホはカルピスだけを飲み続けた。
大学生も好きなように酒を飲み、適宜ノミホに勧められるままにお茶や水を飲んだ。
「なぁ、ノミホちゃん」
「なんですかぁ?」
「楽しい飲み会だったよ」
顔を赤らめた大学生が、恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに言った。
そして、飲み放題3時間が終了し、
先程までの喧騒が嘘のように大学生は消滅していた。
「私も、まぁ……楽しかったな」
ノミホとヤカサを阻む大学生の歓迎コンパはない。
さらに進まん、通路の奥へと。
「休憩1時間って、最初の20分だけが1時間休憩感あって、
30分切ると、もうなんか弱い休憩感出てこないか」
「わかる、結局休憩1時間っていっても認識できるの開始直後だけで、
あとはただ減ってく時間を見るだけだもんな」
「短いとかそういうのではないんだよな……なんか無いのだな、気づくと」
「わかる」
「でも、なんか休憩時間中に寝ると5分しか寝てないのに、
2時間ぐらい寝た無敵感がたまにないか」
「休憩時間ってなんか、別の法則が働いてるよな」
休憩時間が終了し、ノミホはヤカサと共に再びスタッフルームを目指した。
共におっさんをピンを引っこ抜いて救おうとした仲である。
例え、ヤカサがその心の奥底に何を潜ませていようとも、
ノミホはヤカサを信じると、そう決めていた。
「あ、そろそろさっきの大学生の罠のところだ。女騎士、アプリ開け」
「ああ」
二度目である。女騎士は慣れた手付きで嘔吐マッピングを起動した。
二年目ながら、一度見た技は通用しないと言われるほどの戦士である。
女騎士ノミホ・ディモ・ジュースノームが、
ピンを引っこ抜く順番を間違えて死んでいくおっさんや、
IQが凄まじい勢いで上下するパズルゲームに目を奪われることはない。
いかなるものか、嘔吐マッピングアプリ。
剣となりゲロトラップダンジョンの魔物を討ち滅ぼすか、
盾となりゲロトラップダンジョンの罠から女騎士を守るか。
今、その答えが出ようとしている。
熟練の冒険者
★☆☆☆☆
ダメでした。
邪悪なる魔術師エメトを退治しようと思ったのですが、
最初のフロアの飲み放題の罠にふらふらっと釣られて、吐きました。
生ビールの飲み放題が1980フグはダメですね。
嘔吐の罰金で6万フグ取られましたが、次は吐かないように頑張りたいです。
暗黒剣士
★★☆☆☆
大学生とお酒飲めるのが嬉しかったのでついついやってしまった。
この年頃になると若い子が楽しそうにやってるだけで涙腺が緩む。
かなり吐いたけど、こういうタイプの店だと思うと良いかもしれない。
酒屋の店主
★★★★★
負けた。
魔王軍第三将軍
★★★☆☆
大学生を捻り潰すぐらいはわけないことであったが、
第三の罠は地獄であった。
あの地獄を通過できる人間はいるのか、せいぜい雪隠から楽しみに見せてもらおう。
すたみな三郎
★☆☆☆☆
飲み放題はあったが、食べ放題はついていないのが惜しい。
吐けばいくらでも飲み食いできるので、食べ放題もつけてほしい。
美少女令嬢
★★☆☆☆
久々に酒を呑めると思って、はしゃぎすぎてやってしまいましたわ。
やっぱ、イッキ飲みはあきまへんわ。
セクハラの一つでもかまされたらそいつの口にゲロ流し込んたろかと思いましたが、
そういうのはありませんでしたわ。
やはり酒は一人で呑むに限りまっせ。
ずらりと並ぶゲロトラップダンジョンの敗北報告。
それは、この恐るべき迷宮が幾人もの犠牲者を生んできた証左であった。
そして、嘔吐マッピング機能の本番はここからである。
「★1の記録は最初の飲み放題フロアの話しかしていないようだな」
「つまり★の数がその挑戦者がどこで吐いたかを表しているわけだ」
「私が退いたのは★2だから……★2の記録欄をチェックすればいいわけか」
「いや、★3もチェックしておこう。攻略情報を書いているのかもしれない」
二人はランダムに並んでいた記録から、
★2★3のものだけを抽出し、攻略計画を練っていく。
ほとんどは役に立たぬゴミのような情報であるが、
数少ない役に立つものを集めていけば、それなりに罠の形というものが見えていく。
「女騎士のように、
周りの勢いに呑まれてイッキ飲みを行ってしまった……っていうのが多いな」
「場の雰囲気というものがあるからな……」
先の失態を思い返し、苦々しげにノミホが言葉を返す。
だが、しょうがないことである。
いくら強き騎士であるとはいえ、飲みの席では素人も同然なのだ。
職場の飲み会でも、上司はアルコールを呑ませぬように目を配っていたし、
ノミホ本人も執拗にカルピスを飲み続けていた。
「だが、記録を見るに、飲みサーではあってもヤリサーではないみたいだな」
「ヤリサーとはなんだ」
「俺に聞くな、インターネットに聞け」
「ああ」
女騎士ノミホの指さばきの鮮やかなること、
風のごとき早さで検索エンジンに「ヤリサー」の四文字が叩き込まれる。
「悪意……いや、悪意自体はエメトにあるわけだが、
少なくとも愚か大学生自体は楽しく酒を飲みたいだけだ。
イッキ飲みも酒の席を盛り上げる行為の一つだ」
「うわ……ヤリサーってこわ……就職選んでよかった……」
「イッキ飲みは目的ではなく、手段だ。
そして相手は空前絶後の浮かれポンチ、男子大学生だ。
脳みそに詰まってるのは悪意でも知識でもなく、
空気よりも軽い気体、そんな奴らなら対策をしっかりと練っておけば問題ない」
「男子大学生に一族滅ぼされたのか?」
「生憎、男子大学生には恨みはねぇな」
「恨みのない相手によくそこまでボロクソに言えたものだな」
「冷静な分析結果って言うのは時に、そのような言葉を吐くもんだ」
「言うほど冷静な分析結果か?」
「とにかく、女騎士。お前がやるべきことは簡単だ」
にやりと笑って、ヤカサが言った。
「全部、ぶち壊せ」
◆
薄暗い通路を塞ぐ8人がけのテーブルでは、
相変わらず7人の大学生が酒を飲み交わしていた。
空いた椅子は席ではない、口である。
空席がぽっかりと口を開いて、次なる犠牲者を待っていた。
ハンズフリーイヤホンマイクを装着して挑むは、女騎士ノミホ。
虎穴どころではない、虎口に入るような行いである。
「あれ~?また来たんだノミホちゃん!
なに?なに?もしかして……俺らのこと忘れられなかったりする?キャハハ!!」
大学生の言葉に対して、ノミホはハンズフリーマイクに向けて、小声で囁いた。
「……このタイプの大学生、ほんとに私の貞操大丈夫なんだろうな」
「まぁ、大丈夫だろ。記録上ヤられたって話も聞かないし、
少なくとも人口が著しく増えたってニュースも無いしな」
「でも、私結構顔が良いからな……」
「その顔を歪ませて吐かせるのがエメトの目的だろ、貞操よりも胃の心配しときな」
「……ちょっとは心配しろ」
「信頼してるよ、女騎士」
「……ふん」
鼻を鳴らしたノミホは、大学生に促されるまでもなく椅子に座った。
その堂々たる態度を見ても、大学生に動揺はない。
相手が何かしらの策を持っていたとしても、
それで何かが変わるというわけではない。
ただ終わらないコンパを続けるだけである。
世界が滅ぶか、あるいは主である邪悪なる魔術師エメトが滅ぶその日まで。
「じゃあ生や……」
「カルピス1つください!!皆さんは何頼みます!?」
大学生の注文詠唱よりも早く、ノミホは叫んだ。
「えっ、じゃあ俺生」
「俺も生で……」
「あー……俺カルーアミルク飲みたい」
「生ビールで」
「カシオレ行こっかな」
「……んー、梅酒ロック」
「青りんごハイ」
各大学生の元に注文した酒が、そしてノミホの元にはカルピスが召喚された。
カルピス――飲み会における、ノミホの相棒である。
その外見は雪のごとくに白く、中身は初恋のように甘い。
花嫁が纏う薄手のベールが如くにさらさらと喉を流れていき、
しかし、たしかに存在する甘さが舌を癒やす。
当然、チューハイとの相性も抜群であるが、
ノミホの注文はシンプルなカルピス、カルピスサワーではない。
以前の戦いでノミホは大学生の作る流れに巻き込まれ、何も出来ずに敗北したが、
今、ノミホは流れを作る側に回った。
確かに慣例的に最初のドリンクは生ビールという風潮がある。
だが、大学生の皆が生ビールを好きであるかと言えば、人によるとしか言えない。
とりあえず、で最初に生を頼むことはあっても、
多くの場合は生ビールから違うアルコールに流れていく。
そこから経験を重ねて、ビールを好きになっていくのかもしれないし、
あるいは別の酒を好きになっていくのかもしれない。
ただ一つ言えることは、必ずしも最初に生ビールを頼む必要はないということだ。
特にノミホは、今、ノンアルコールのドリンクを真っ先に頼み、
とりあえず生ビールという流れを完全に破壊した。
アルコールを飲もう、飲もうという気はある。
だが、本当は好きなアルコールを飲みたいという気持ちもある。
だからこその、ノミホのカルピスである。
最初にカルピスが頼まれたなら、もうなんでもいいだろ。
そのような雰囲気を、ノミホは作り出した。
この時点で飲み会の先手を取ったのは、
女騎士ノミホ・ディモ・ジュースノーム(20)である。
「んじゃ、ノミホイッキやりまーす!!」
さらにノミホは畳み掛ける。
イッキさせられるというのならば、してしまえばいい。
ノミホはジョッキを傾け、一気にカルピスを煽っていく。
「っく、っく、っく、っく……はぁー」
中身を半分だけ残して、ノミホは両手でジョッキを置いた。
「イッキって言ったじゃーん」
「そんなに一気に呑めませんよぉ」
「じゃあ、俺が本物のイッキ飲みを見せちゃおっかな!?」
大学生が叫ぶ。
流れは完全にノミホが握っている。
ノンアルコールをイッキ飲み、しかも半分しか呑めていない。
今、この流れのままで行けば、イッキ飲みは完全な茶番になる。
反撃しようとするならば、今、このタイミングしかない。
「えーっ!?先輩イッキやっちゃうんですか!?」
「女騎士ちゃんに本物のイッキ飲みを教えてやらないとな!」
先輩――の言葉に余計な反応はしない。
大学生がジョッキを握ろうとした、その時である。
「じゃあ、先輩イッキの続きどーぞ」
ノミホが半分残ったカルピスを差し出す。
「せーの、先輩の!ちょっといいとこ見てみたい!」
「……まじかよ」
「イッキ!イッキ!イッキ!イッキ!」
流れは完全にノミホが掌握していた。
もう、大学生は半分残ったカルピスを飲み干す以外に道はない。
飲み干したならば、ノミホが黄色い声で歓声を上げるだろう。
ノミホはイッキ飲みを完全に茶番にした。
その上、自分をちょっとぶりっ子で可愛い後輩女子の立場に置いたのだ。
「先輩、カルピス美味しいですか?」
「美味しいよ」
「やっぱり、自分のペースで呑むのが一番ですよね」
「……そうだな」
勝負は決した、それは確かに告げられた敗北の一言であった。
それから、ノミホはカルピスだけを飲み続けた。
大学生も好きなように酒を飲み、適宜ノミホに勧められるままにお茶や水を飲んだ。
「なぁ、ノミホちゃん」
「なんですかぁ?」
「楽しい飲み会だったよ」
顔を赤らめた大学生が、恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに言った。
そして、飲み放題3時間が終了し、
先程までの喧騒が嘘のように大学生は消滅していた。
「私も、まぁ……楽しかったな」
ノミホとヤカサを阻む大学生の歓迎コンパはない。
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