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無才、追放される
しおりを挟む「……『無才』だって?」
隣に立っている父さんの顔が、みるみると強張っていった。
教会内の緊張感が一気に高まり、自然と鼓動が早くなる。
「……はい。残念ですが、ご子息のウィグくんはスキルを発現しなかったようです」
司祭は申し訳なさそうに言うが、父さんの怒りは収まらない。
「儀式のやり方に問題があったんじゃないのか! でなきゃ、俺の息子が『無才』なわけがないだろう!」
「『覚醒の儀』は問題なく終わりました、ガウスさん。まことに残念です。ウィグくんに神のご加護があらんことを……」
「ふざけるな! 何が神の加護だ!」
父さんは人目もはばからず怒鳴り散らし、それから僕の首根っこを強く掴んだ。
「この使えない無能が! スキルを持たぬ奴など、俺の息子ではない! 今日限りで『明星の鷹』から追放し、屋敷に帰ることも禁ずる! 二度と俺の前に姿を見せるな!」
罵倒の言葉と共に放り投げられた僕は、教会の壁に頭を打った。
ぐわんと揺れる視界の向こうで、父さんが何かを叫び続けている。
それを聞かずに済んだのは、ある意味良かったのかもしれないな、なんて。
遠のいていく意識の中で、そんな風に思ったのだった。
◇
「……」
はっと目が覚める。
痛む後頭部を擦りつつ、ベッドから上半身を起こす。
「……」
見知らぬ狭い部屋。
家具は最低限のものしか見受けられず、無駄を削ぎ落した造りをしている……恐らく、父さんの所有している山小屋のうちの一つだろう。
どうやら僕は、島流しならぬ山流しの憂き目にあったらしい。
「……ウィグ・レンスリー、起床しました」
この場に誰もいないのは明白だが、一応報告をする。
さて、これからどうしたものか……
「……ん」
部屋を見回していると、机の上にあるぺらいちの紙に気づく。
軽く一読……曰く、レンスリー家四男のウィグ・レンスリーを勘当し、今後一切ギルドや家族に関わるなとのこと。
せめてもの情けで、この山小屋は好きに使っていいそうだ。
「……」
僕は紙を綺麗に折り畳み、そっと机に戻す。
それから力なくベッドに倒れ、
「……はあ」
ようやく、ため息が出た。
自分が置かれている状況を把握した上での、当然の反応である。
「『無才』か……」
十五歳になると行われる「覚醒の儀」……そこでスキルを発現できなかった人間のことを「無才」と呼ぶ。
スキルというのは、いわば特殊能力である。
ある者は炎を操り。
またある者は空を飛ぶ。
そんな、普通の人間では到底成し得ない超人的な力……それがスキルだ。
三人いる僕の兄たちは、みんな強力なスキルを持っている。
当然、僕も力を得るはずだった。
そう思われ。
期待されていた。
だからこそ、「覚醒の儀」を迎える前から父さんのギルドに入ることを許されていたのだろう。
でも、違った。
僕はスキルを発現していなかった。
才能も才覚もない、ただの凡人。
故に、「無才」。
「……ふう」
僕の父さんがマスターを務める「明星の鷹」は、国家公認の巨大ギルドである。
そして、その確固たる地位を支えているのは三人の兄さんたちだ。
特に、長男であるエド兄さんは「業火のエド」という二つ名を持っており、国中に影響力を持っている。
父さんは兄さんたちを誇りに思っていた。
僕も、その中の一人になれるはずだったのに。
「……」
結局、父さんにとって自分の息子はただの道具でしかなかったのだろう。
でなければ、いくら「無才」だからといって勘当などしないはずだ。
あの人の要求に答えられない僕は、道具以下の存在。
そんなものを、傍に置いておく必要はない。
「……」
静かに天井を見つめる。
沸々と、怒りが込み上げる。
スキルがないという理由だけで見捨てられた。
父さんはともかく、兄さんたちも助けてくれなかった。
誰も僕を守ってくれない。
「無才」である僕のことを必要とする人なんて。
この世界に――一人もいないのだ。
「……」
怒りや、虚無感や、後悔や、やる瀬無さ……いろいろな気持ちがない交ぜになって、ウィグ・レンスリーの身体を押し潰す。
これから何をして生きればいい?
僕は、一体どうすれば――
「……」
と。
視界の端に一振りの剣が映った。
壁に据え付けられた、古臭い年代物の剣。
きっと誰に使われることもなく、この山小屋に飾ってあったのだろう。
「……」
剣なんて生まれてこの方握ったこともないが、仕方がない。
どうせやることなんてないんだし……スライムくらいは倒せるように、素振りでも始めてみようか。
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