無才剣士の成り上がり~スキルのない僕は無能扱いされてギルドから追放された。仕方がないので剣を振っていたら、剣聖と呼ばれていました~

いとうヒンジ

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ナイラ・セザール 001

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 脳裏に焼き付いているのは、嫌味ったらしいくらい真っ白な白衣を着た男たちと、鼻を曲げる薬品の匂い。
 そして、真っ暗な室内で泣いている一人の幼い女の子。
 どうして泣いているんだ?
 どうして?
 それは――私が一番わかっているだろう。



『お前は兵器なんだよ、ナイラ』



「……ちぃ」

 最悪の目覚めだ。
 ここ最近は例の夢も見なくなっていたのだが……やはり、昨日のあいつのせいだろう。

「ウィグ・レンスリー……」

 私は頭に思い浮かんだ男の名前を呟く。
 それから思いっきり息を吐き、想像の中の奴を追い出した。

「……私はナイラ・セザールだ。決して過去に囚われてなどいない」

 声に出し、自分のスタンスを明確にする。
 肌着に染みた汗が不快だ……さっさと風呂に入って、身支度を整えねば。

「……」

 姿見に移る自分の姿が、酷く惨めに見えた。
 どうしたって好きになれない。
 恐怖で白んだ銀髪も。
 何も見たくないと濁った銀瞳も。

「……」

 鏡を割りたい衝動を抑え、私は黙って背を向けた。





 陽が昇り切る前に部屋を出て、ギルドへ向かう。
 考えがまとまらない時はいつもそうするのだ……やはり、あの場所が一番落ち着く。
 私にとって、『流星団』は家族であり。
 絶対に守るべき存在である。
 それもこれも、全てはマスターのお陰だ。
 マスターは行き場のない私を拾い、仲間として迎え入れてくれた。
 その恩を返すことだけが、私の唯一の生きがいなのだ。

「……」

 ウィグ・レンスリー……あの人殺しの入団を許可することは、マスターへの背信と同義。
 だから、あいつを見限るのは正しい選択だ。
 そのはず、なのに。

「……本当にそうなのか?」

 疑問が頭から離れない。
 最低最悪の形ではあるが、奴は私のことを助けてくれた……その事実に変わりはない。
 それはそれ、と切り離して考えられるほど、私は成熟していないようだ。

「……」

 考えていても埒が明かない。
 とにかく今必要なのは、休息と暇潰し……ギルドで睡眠をとり、長期間掛かる依頼に取り組もう。
 そうしていれば、いずれ忘れる。
 あの気に食わない男のことなど……

「おはようございます、ナイラさん」

 不意に、背後から肩を叩かれる。
 平静を装って振り返ると、そこには我らが受付嬢、ニーナ・グリンがいた。

「……おはよう、ニーナ。今日も朝早くから出勤か、苦労を掛けるな」
「いえいえ。みなさんの役に立てるよう、裏方として頑張らないと……そんなことより、ナイラさん」
「ん? どうした?」
「その……昨日から元気がないようですが、大丈夫ですか? 私で良ければいつでも話を聞きますよ」

 こちらに気を遣いながら、ニーナは微笑む。

「……いや、何でもないんだ。大丈夫だよ」
「大丈夫ならいいんですが……入団試験から戻ってすぐ帰宅してしまったし、心配で」

 不機嫌を表に出さないようにしていたのだが、まだまだ修行が足りないらしい。
 ニーナにバレているということは、他のメンバーも気づいているのだろう。

「……レンスリーさん、でしたっけ? やっぱり駄目そうでした?」
「実力だけならかなりのものだったんだがな。正直、S級に匹敵する」
「S級に⁉ 彼、『無才』でしたよね?」
「にわかには信じ難いがな。相当な剣の腕前をしていたよ」

 あの力は恐らく……あり得ないだろうが、マスターに報告だけはしておいた方がいいだろう。

「ナイラさんが言うなら本当なのでしょうけど……でも、入団は許可しないんですか?」
「……ああ。そこら辺の事情は少し込み入るから、ギルドに着いたら話そう」

 「翡翠の涙」が私たちのギルドを狙っている件について周知しなければならないし……どこかのタイミングで時間を取って、みなに伝えるか。
 昨日のヘッジのように奇襲を掛けてくる可能性は充分考えられるし、しばらくは警戒を怠らないように注意を――

「ナ、ナイラさん……あれ……」

 と。
 急に立ち止まったニーナが、震え交じりの声で遠くを指差す。
 その指先に――黒煙。
 あそこは。
 あの場所は。

「……ギルドが、燃えてる?」

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