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ダンジョン

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『ダンジョンというのは元々、悪魔を封印するための施設なのよ、ジン』

 アスモデウスがダンジョンについて語ることは少なかった。
 故に、俺もその全容を知っているわけではない。

『今から約二千年前……天使の連中が、私たち悪魔を根絶やしにしようと戦争を仕掛けてきた。結果から言えば、悪魔側は大敗北……そのほとんどが世界各地のダンジョンに封印されたわ』

 だが、当然天使側も無傷では済まなかった。
 相当の痛手を負った天使は、ある決断を下したそうだ。

『天使は悪魔を封印するだけで手一杯で、完全に排除することはできなかった。そこである妙案を思いついたわけ……そうだ、人間に力を与えて悪魔を殺させようってね』

 そして人類は魔法を手にした。
 悪魔を殺すために。

『私たち悪魔も黙ってやられるわけにはいかなかった。魔法を手にした人間に対抗するため、自分の身を守るため、ある種の防衛措置を取ることになる……それが魔物の正体なの。自分たちの魔力を削り、ダンジョン内に免疫を作ったのね』

 魔物は死後、魔石という魔力の塊を残す。
 その魔力の大本は悪魔の力ということだ。

『ま、そんな経緯や事実も今や形骸化しているのだけれど……当然よね。ダンジョンに封印された悪魔たちは、とっくの昔に死に絶えたんだから。残されたのは防衛機能である魔物だけ』

 現代におけるダンジョンの存在意義は、魔物を狩って魔石を集める場所……それ以上でもそれ以下でもない。
 人類は魔法を駆使し、文明発達のためにダンジョンを攻略する。

『え? どうして私は封印されずに生きているのか、ですって? そんなの、私が超超超高位の悪魔、最強最悪のアスモデウス様だからに決まってるでしょーが。舐めんじゃないわよ』

 ここらで一発、頭を叩かれたような気がする。
 あの悪魔は俺を痛めつけるのが大好きだった。
 本当に、悪魔らしい人だった。





「ここら辺のはずなんだけど……」

 俺は記憶の中の地図を頼りに、街外れの森の中をうろついていた。
 ギルドの壁面に描かれていたのは大雑把すぎる概略的な地図だったので、ほとんど勘を頼りにダンジョンを探しているのだけれど、全く魔法陣が見当たらない。

「俺も魔力の流れがわかればな……」

 ダンジョンは、その昔に天使が作り上げた魔法空間である。
 内部に入るためには、まず入り口となる魔法陣を見つけなければならない。
 アスモデウスのように魔力探知ができれば一発で陣の場所がわかるのだが、目視では厳しいものがある。

「……」

 魔法陣には各々「色」が存在し、封印された悪魔の強さに応じて変化する。
 黒・赤・青・緑・白の順に等級が決まっていて、最上位の黒魔法陣ダンジョンに出現する魔物が一番強いとされている……が、アスモデウスといる時は黒色しか潜らなかったので、他がどの程度のレベルなのかは正直わからない。
 ちなみに、今回探しているのは赤魔法陣である。
 等級的には黒の一つ下……まあ、ある程度の魔石は手に入るだろう。

「……お、みっけ」

 藪を掻き分け右往左往していると、お目当ての魔法陣を発見できた。
 街を出てからかなり時間が経ってしまったが(陽が傾いている)、地図なしなら上々だろう。

「んじゃまあ、お邪魔しますか」

 陣の中心に立ち、魔力を流していく。
 魔法陣の起動自体はそれほど難しくない……問題なのは帰りだが、まあなるようになるだろう。

「……――――――」

 身体が宙に浮くような錯覚……すぐさま意識がブラックアウトする。
 数秒、あるいは数分後。

「――……ふう」

 目を開ける。
 一呼吸入れる前に周囲の安全を確認……敵影、なし。

「森林エリアか」

 先ほどまで魔法陣を探していた森と似ているが、確実に別の場所。
 無事にダンジョンへ侵入できたようだ。

「さてと……」

 首を鳴らして肩を回し、ようやく一度深呼吸をする。
 こうしてダンジョンに潜ったのは、言うまでもなくここを攻略するため。
 冒険者としての第一歩ってところか……さっさと魔石を集め、金を稼ぐとしよう。

「……」

 周囲を窺いながら適当に散策を始める。
 第一階層の魔物から獲れる魔石は質も量も高が知れているので、早いところ深層まで下りていきたいのだが――ゴンッ。

「……」

 後頭部に衝撃を受けたので振り返る。
 そこには棍棒を持ったゴブリンが立っていた。
 十歳児程度の体格をした人型の魔物……知能が高く、魔力の扱いもそこそこ。
 上手く気配を消し、いつの間にか背後に忍び寄っていたようだ。

「ケケケッ……ケ?」

 が、不意打ちを食らっても微動だにしない俺を見て、ゴブリンは一歩後ずさる。

「アスモデウスがいたら怒られちまうな……もっと周りを警戒しろって」

 、どうしてもそこら辺が疎かになってしまう。
 普通の人間なら今の一撃で死んでいただろう……相手がゴブリンと言えど、赤魔法陣ダンジョンに出現する個体は侮れないらしいし。
 まあ、どっちにしろ俺には関係ないが。

「景気づけに一発、いっとくか」

 敵への間合いを詰め。
 拳を握り――打ち込む。

「ケケ――」

 ゴブリンは俺の動きに反応しようとしたが、その前に頭部を吹き飛ばした。
 正義のグーパンである。

「……いや、正義じゃないか。悪魔なんだし」

 独り言も増えるってもんだ、実際一人だから。
 ほどなくして絶命したゴブリンの身体は消滅し、小さな魔石が転がった。

「ちっさ。純度低っ」

 元々期待していなかったが、指で摘まめるサイズでは話にならない。
 黒魔法陣で出てくるゴブリンはもう少しマシな魔石を落とすのだが……そこが難易度の違いなのだろうか。

「……ま、塵も積もればか」

 ゴブリンは通常、群れで活動する魔物。
 必然、一匹だけで行動することはない。
 藪の奥が、怪しくうごめき出す。

「……久しぶりのダンジョンなんだ。準備運動くらいにはなってくれよ」

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